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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その13

「へっ、図書カード?」


 ほおをさすりながら、俊介は目をぱちくりさせます。里音はなんとかポン子を防ぎながら、さらにどなります。


「そう、図書カードよ、さっさと出しなさい!」


 つばをまきちらして怒り狂う里音に、俊介はひえっと息を飲んで、すぐに図書カードをポケットから取り出しました。


「早くそれを投げて、こっちによこして!」

「あっ、花子を呼び戻す気ね! そうはさせないわよ!」


 ポン子が里音のうでをスタスタスタッと上っていきます。「ひゃあぁぁっ!」と大声を出す里音に、俊介が図書カードを渡しました。ポン子が顔面に飛びかかってきます。里音はかんいっぱつでしゃがみこみ、図書カードにキスしました。ポンッと栓を抜くような音がして、里音の手に黒い背表紙の本が現れます。


「あれ、題名が」


 黒い背表紙の本を見て、俊介が目を丸くします。背表紙は焼け焦げて、かろうじて『花』という赤い文字だけが残っていたのです。


「それ、『トイレの花子さんの生態』だろ? でも、題名が消えかかってる」

「大丈夫よ、これから戻すんだか、らっ!」


 再び飛びかかってきたポン子をがしっとつかんで、里音は背表紙に再びキスしました。『花』と書かれた本が、黒いもやにつつまれていきます。焼け焦げていたはずの背表紙がきらきらと光に包まれ、修復されていきます。そして、再びトイレの花子さんの生態』という赤い文字が浮かび上がってきました。


「ほら、元のすがたに戻んなさい!」


 じたばたするポン子を、里音はひょいっと投げすてました。ポンッという音とともに、ポン子が花子のすがたに変わります。


「わっ、花子だ!」


 花子はどてんっと、その場にしりもちをつきました。しばらくぼうぜんとしていましたが、やがて、自分のからだを確かめるかのように、あちこちを手でさわったりつねったりします。


「生きてる……。確かにわたし、炎に燃やされたと思ったのに」

「あんたは『トイレの花子さんの生態』に封印されている身だからね。本来どんな攻撃を受けても、死ぬことはないわよ。まぁ、ゆうれいだからすでに死んでるんだけど、そんな細かいことはどうでもいいわ」


 ずいずいっと里音が花子にせまりました。すわりこんでいる花子の、赤い肩掛けかばんをつかみました。


「このくそだぬき! よくもわたしをコケにしてくれたわね、からだじゅうの毛を抜きまくって、まるはだかにしてから焼き捨ててやるわ!」

「ちょっと、わたしのポン子ちゃんになにするつもりよ! 乱暴はよしてちょうだい、この子はわたしの大事なお友達なんだから! それにポン子ちゃんがいなかったら、わたし助かってなかったわよ」

「えっ? どうして? あ、もしかしてそのポン子ってたぬきが、実は花子の本体だとか、そんなオチ?」


 ちゃちゃを入れる俊介を、里音と花子が怖い顔でにらみつけました。ヒッと息をのむ俊介に、花子が説明します。


「この子はわたしの式神みたいなものなのよ。っていっても、わたしじゃまだ力が足りなすぎるから、いつも使えるわけじゃないけど」

「花子って、式神とか使えたのか? それって確かあれだろ、陰陽師とかが使うやつじゃないの」


 俊介に聞かれて、花子は得意そうに鼻を鳴らしました。


「知らなかったの? わたしは陰陽師……っていうより、巫女の家系に生まれてたのよ。だからゆうれいにもなれたし、こうやってポン子ちゃんを使うこともできるの。っていっても、ポン子ちゃんを作ったのはわたしのお姉ちゃんなんだけどね。わたしがピンチになったら、助けになるようにって作ってくれたの」

「ああ、だからぼくのズボンにくっついてきたのか。あれは花子を助けてっていう、ポン子ちゃんなりのお願いだったってことだね」


 なぜか納得したように俊介がいいました。ですが、もちろん里音が納得するはずはありません。手をバタバタさせて花子に飛びかかります。


「そんなこと知らないわよ! だいたい、しかけてきたのはそいつが先なのよ! そいつがわたしのことを、チビだのチビだのいってくれたんだから、たっぷりお礼をしてやるってんのよ!」

「事実をいったのになんでひどいことされないといけないのよ! ポン子ちゃんはわたしが守るわ!」

「事実ですって? あんたまでわたしをチビっていうのね、もう怒った! あんたもまとめてやっつけてやるわよ!」


 バタバタともんどりうって暴れまわる二人を、俊介は頭を抱えて見ています。


「もう、それくらいにしなよ二人とも。それより美緒ちゃんを助けるほうが先だろ!」

「そうだよお姉ちゃん、早く起きあが……きゃーっ!」


 花音の悲鳴に、里音も花子も目を丸くしました。花子は俊介を凝視して、それから里音たちに早口でまくしたてました。


「二人とも早く起きあがって! パンツのぞき魔がまた見てるわよ!」


 里音も花子も、自分たちのスカートをバッと押さえて立ちあがりました。軽蔑と怒りが混ざった視線で俊介をにらみつけています。


「いやいや、ぼくは見てないよ、ほんとだよ、ほんと……」


 歯切れの悪い俊介に、里音が誘導尋問をしかけます。


「嘘つきなさいよ! あんたわたしのセクシーなパンツ見て、どうせにやにやしてたんでしょうが!」

「えっ、セクシー? いやいや、セクシーさなんてかけらもなかったじゃないか! くまさんパンツのどこがセクシーなんだよ。ていうかあれって、完全に小学一年生がはくようなパンツじゃないか。あんなの見たって面白くもなんともないよ! 花子のしましまパンツのほうがまだましだったよ!」


 完全に踊らされていることにも気づかず、俊介は熱弁をふるいます。三人の痛々しい視線に気づいたときには、完全に手遅れになっていました。


「……あ、いや、その……」

「どうやら死にたいようね」

「あんたがゆうれい仲間になるのはとんでもなく不快だけど、しかたないわ」

「土の中に埋められるか、海に沈められるかくらいは決めさせてあげるね」


 じりじりと近づいてくる、鬼の形相の三人を、俊介はなすすべもなく見あげるだけでした。静寂な住宅街に、俊介の悲鳴がこだましました。


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