4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その11
――再び『不死鳥の飼いかた全集』を探す道中で――
花音のあとをついていきながら、俊介は長い長いため息をついていました。里音がうっとおしそうに俊介を見ます。
「なによあんた、そんなため息なんかついて。これから本を封印しようってときに、そんなことされたらいやでもテンション下がるじゃないの。ただでさえこれから封印する本は、『不死鳥の飼いかた全集』なんだから」
「あ、ごめんよ。でも、美緒ちゃんのことが心配で」
「あんたが心配なのは、美緒ちゃんじゃなくて美緒ちゃんにきらわれることでしょ。それで、ちょっとは反省したの?」
にやりと笑う里音を、俊介はムッとしてからにらみつけました。
「なにが反省したの、だよ! もとはといえば里音ちゃんと花子のせいなんだからな! 二人があることないこというから、美緒ちゃんに誤解されちゃったんだよ」
「誤解、ねぇ……」
里音が目を細めました。なにもいわずに、わずかに口の端を上げるだけの里音を、俊介はいぶかしげに見ました。
「なんだよ、だって誤解だろ。里音ちゃんたちが、お風呂のぞいたとか、パンツ見たとか、いろいろでっちあげたのがいけないんじゃんか」
「パンツはホントのことでしょ。なにあんた、しれっと自分がやったことをなかったことみたいにいってんのよ。ま、でもそんなことはどうでもいいわ。その様子だと、あんたやっぱりまだ反省してないみたいね」
今度は里音がため息をつく番でした。これ見よがしにため息をつかれて、俊介は顔をしかめます。
「反省してないって、そんなわけないじゃないか。現に反省してるからこそ、ぼくは里音ちゃんたちを見張ってるんだから」
「見張ってる? あんたが?」
「そうだよ、里音ちゃんたちがまた変なことしないかどうか、美緒ちゃんに迷惑かけないかどうか、ぼくがしっかり見張ってないと。そうしないと今度こそ絶交されちゃうもん。これでもぼくが反省してないっていえるわけ?」
したり顔の俊介を見ながら、里音は言葉を失っていました。俊介はどうやらいい負かしてやったと思っているようですが、里音はあきれ果てていたのです。
――だめだわ、こいつ。あーあ、美緒も大変ね――
「一応聞くけどさ、あんた、美緒がどうして怒ってるのかちゃんとわかったんでしょうね? なにを反省してほしいか、ちゃんとわかってるの?」
「当り前じゃないか。悪魔の調味料やら、花子やら、とにかくひどいことにいっぱい巻きこまれてるからに決まってるだろ。だからぼくはこうして君たちを見張って、これ以上美緒ちゃんがトラブルに巻きこまれないようにしてるんだ。それなのに、よりによってまた美緒ちゃんの近くに魔界図書館の本があるなんて」
頭を抱える俊介ですが、それ以上に里音も頭を抱えています。そんな二人を見て、花音が一人ほくそ笑みました。
――なんだか知らないけど、面白いことになってるわね――
そんな花音のことなどお構いなしに、里音は忠告するようにいいました。
「いっとくけど、それ全然的外れよ。あの子が怒ってる根っこの部分に気づけないと、たぶんあんたずっとあの子に嫌われたままだと思うわよ」
「えっ、なんだよ、それ。里音ちゃんたちが問題なんじゃないの?」
「……まあいいわ。あんたたちの問題だし。でも、美緒の前ではそんなこといわないほうがいいと思うわ。友達として忠告しといてあげる」
俊介の顔が明るくなったので、里音は首をひねりました。
「なによ、なんでそんな顔してんのよ?」
「いや、やっとでドレイから友達に格上げされたんだなって思ってさ」
里音がグーッと背伸びをして、俊介の耳を引っぱりました。じたばたする二人をしり目に、花音はあたりを見まわしました。
「とりあえず『不死鳥の飼いかた全集』の移動は止まったみたいね。車だっけ? 今はそのスピードじゃなくて、人間の歩くスピードで移動して……止まったわ。もしかして家にでも持っていったのかしら?」
耳の引っぱりあいをしていた里音たちは、花音の言葉にハッと我に返りました。
「いったいどの家に入ってるの? 花音、わかる?」
「花音ちゃん、まさかなんだけどさ、あのおうちじゃないよね」
俊介が指さした、庭つきの一軒家を見て、花音はうなずきました。俊介の顔が青くなります。
「その顔、じゃあもしかして」
里音に聞かれて、俊介は青い顔のまま振り向きました。
「どうしよう、そうだよ、あの家美緒ちゃんのおうちだよ! ああ、どうしてこんなことになるんだよ! ねえ、里音ちゃん、どうしよう、このままじゃ美緒ちゃん」
「慌てるんじゃないわよ! まだ美緒が本を開いたって決まったわけじゃないわ。とにかくまずは花子に状況を確認しましょう。っていうかあのバカ、監視のために美緒にとりつかせてるのに、なんで状況を報告してこないのよ。まったく」
ぐちりながらも、里音はテレパシーで花子を呼びます。
――花子、花子、応答しなさい! 花子――
しかし、花子からはなんの応答もありませんでした。俊介もテレパシーを送りましたが、やはり花子はなにも答えません。里音が心配そうにまゆをひそめます。
「まさかあのバカ、逃げたんじゃないでしょうね」
「えっ、そんなぁ。じゃあ今美緒ちゃん一人ってことじゃないか! もし不死鳥になにかされたら」
「なにかされることはないと思うわよ。前もいったけど、不死鳥はとても用心深いから、むやみやたらに人間をおそうことはないだろうし、そもそも『不死鳥の飼いかた全集』を開いた人間が飼い主になるんだから、もし美緒が開いてたら飼い主になっているはずよ。それはそれで問題があるけど」
「でもさ、お姉ちゃん。どの不死鳥が現れるかによって状況が変わってくるんじゃないの? 不死鳥によって強さや個体差があるし。あたしたちの手に負える相手ならいいんだけどね」
花音の言葉に、俊介は首をかしげました。
「どういうこと、それ? 不死鳥って種類があるの?」
「ああ、そっか、あんたはそりゃあ知らないわよね。あんたたちの世界でも、鳥にはいろいろ種類があるでしょ。あれと同じように、魔界にもいろんな不死鳥がいるのよ。まあ、好戦的な不死鳥なんていないから安心していいけど」
「でもさ、不死鳥にいろんな種類があるのはわかったけど、どの不死鳥が封印されてるかはわかってるんじゃないの? だって『不死鳥の飼いかた全集』だって、魔界図書館の本なんだから」
里音ははぁっとため息をつきました。軽く首をふって、それから説明し始めました。




