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4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その9

「害がないですって? むしろ大ありよ。だって今のあんたの状態は、飢えた猛獣たちの目の前にほうりこまれた、肉汁あふれるステーキみたいなもんなのよ」

「そうそう。だから今の美緒ちゃんは、いつ他の悪魔やゆうれいたちにおそわれてもおかしくないの。しかも、悪魔の調味料は悪魔やゆうれいたちに狙われやすくなる以外にも、いろんなトラブルを引き寄せるっていう、やっかいな性質も持っているのよ」


 美緒が目を見開きました。花子がうなずいて続けます。


「そうよ。だからわたしが美緒ちゃんにとりついていたのよ。もし美緒ちゃんが悪魔やゆうれいに狙われても、すぐに里音ちゃんに報告できるようにって。悪魔の調味料なめ放題は、そのついでよ……って、しまった!」


 花子があっと口をふさぎました。今度は美緒がジト目で花子を見ます。


「花子ちゃん、そんなことしてたのね。ひどいわ、人をぺろぺろキャンディかなにかみたいに!」


 美緒が花子のほっぺをぐにぐにし始めます。里音がコホンッとせきばらいしました。


「ほらそこ、脱線しない! ま、そういうわけだから、あんたもなにか変なことがあったり、おかしな雰囲気を感じたら、すぐに花子にいうのよ。そうすれば花子がわたしたちに、テレパシーで教えてくれるから」

「あっ、だから今日なんだか二人ともやたらと独り言いってたのね。あれ、独り言じゃなくて花子ちゃんとお話ししてたんだ。でもずるいわ、わたしもテレパシーできるようにしてよ」

「残念だけどそれは無理ね。花子がテレパシーできるのは、司書であるわたしと、現在花子を借りてる俊介だけだもん。それになんだかんだいって、そんな便利なもんじゃないわよ、これ。遠くの人とはテレパシーできないから、結局ふつうに話したほうが楽だしね。完全に内緒話ってことなら別だけど」

「えっ、じゃあ里音ちゃんたち、内緒話してたの? ずるいわ、わたしだけのけ者にして」


 ムーッとふくれる美緒に、里音がため息まじりにさとしました。


「内緒話とかじゃないわよ。魔界図書館の本がどこにあるかとか、そんなことしか話してないわよ」

「あ、でも俊介はわたしに美緒ちゃんのパンツの色、報告してきたわよ」


 花子がひひひとほくそ笑んでからいいました。美緒のまわりの温度が、スーッと下がったように感じます。美緒はすたすたと俊介に近づいていきました。俊介はというと、さっき美緒にビンタされたのがよほどショックだったのでしょうか、三人に背を向けて、ひとりですわりこんでいます。


「いいんだ、ぼくなんて。どうせぼくはパンツのぞき魔の変態ですよ……」

「まさかパンツのぞくだけじゃなくて、それを花子ちゃんに報告するなんていうセクハラ行為もしてたなんて」


 突然美緒にいわれて、俊介がハッと振り向きました。鬼のような形相の美緒が、俊介の服の襟元をがしっとつかんで、引っぱり起こしました。


「ちょ、ま、うわぁっ!」


 パチィンッという音とともに、俊介はぐったり地面に倒れこみました。美緒はパンパンッと手をはたいてから、里音たちのところへ戻りました。


「うん、なんか……わたしがチクったのがいけないんだけど、ごめんね……」


 さすがの花子も、俊介をかわいそうに思ったのでしょうか、バツの悪そうな顔をしています。そんな花子に美緒がはっきりといいきりました。


「わたしだけじゃなくて、花子ちゃんにまでそんなことしたセクハラのぞき魔がいけないのよ。自業自得よ」

「まあまあ、とりあえずあいつのことは置いておくとして、とにかく花子とテレパシーはできないわ。まぁ別に内緒話とかはしないし、そんな気にしないで」


 まだ美緒は納得していないようでしたが、里音になだめられてしかたなくうなずきました。


「とりあえず話の流れはわかったわ。里音ちゃんたちががんばってることも、花子ちゃんがとりついていた理由もわかったわ。でも……」


 美緒はまたしても怖い顔で、倒れている俊介の首根っこを、ぐいっとつかんで立たせました。


「わわ、な、なに? 美緒ちゃん、どうしたの、そんな怖い顔……」

「里音ちゃんたちの話は分かったけど、どうして俊介君教えてくれなかったの! こんな状況になってたのに、わたしになにも教えなかったなんて!」


 いきなり美緒にどなられて、俊介は目をぱちくりさせています。


「え、ええっ? いや、そんなこといわれても、だって、里音ちゃんたちに止められてたし」

「止められてたら教えてくれないんだ。へー、わたしが大変なことになってるのに、里音ちゃんたちに止められてるってだけで、教えてくれないんだ」


 すねたようにそっぽを向く美緒を、俊介はあわあわと慌てています。里音と花子はというと、顔を見合わせて首をひねります。


「美緒ったら、どうしたのよ? そいつがいうように、わたしが口止めしてたから」

「里音ちゃんは黙ってて! これはわたしと俊介君との問題よ!」


 あまりの迫力に、さすがの里音もびくっと固まってしましました。すごすごとあとずさる里音をしり目に、美緒は続けました。


「いおうと思えば、こっそりでも伝えられたんじゃないの? それとも里音ちゃんといっしょに暮らしてたら、そんなことどうでもよくなったの?」

「な、そんなことないよ! ぼくはいつだって美緒ちゃんのことを心配してるよ!」

「じゃあどうして教えてくれなかったのよ? こそこそわたしにかくれて里音ちゃんみたいなかわいい女の子と仲良くなって! しかもひとつ屋根の下で暮らしてるんでしょ。そんなの不潔だわ!」


 カンカンに怒る美緒に、俊介は目を丸くしました。


「ちょっと待って、美緒ちゃん、なんだか怒るポイントがおかしくない? ほら、悪魔の調味料かけられたところとか、花子にとりつかれてたこととか、そっちのほうが問題なんじゃ」

「話をそらさないで! いったいどういうつもりなの? 里音ちゃんといっしょに暮らしてるなんて、なんでそんなことになったか説明しなさいよ!」


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