4冊目 『不死鳥の飼いかた全集』 その6
顔を青くする俊介に、里音が重々しく首をたてにふりました。
「そのとおりよ。しかも不死鳥はかなり知能が高い生き物だから、仮に人間が開いたとしても、ただの鳥としてしか見えないだろうし。とにかく開かれる前になんとしても見つけないと」
「でも、なんでただの鳥としてしか見えないんだよ? だって不死鳥だろ、不死鳥って、羽が燃えてて、炎に包まれてるあれじゃないの?」
「そうよ。でもほとんどの不死鳥は、普段炎をまとっていないわ。あいつらはとんでもない力を持っているけど、性格は穏やかで好戦的じゃないの。それにかなり用心深い。だから不要な争いに巻きこまれないように、自分たちのすがたを見せないようにしたり、擬態したりするのよ。さっきいったでしょ、かなり知能が高いって」
里音の説明に、花音もつけくわえます。
「でも、自分や自分の親、つまり飼い主の身に危険がせまると、とたんに炎で攻撃してくるのよね。だからもし誰かが『不死鳥の飼いかた全集』を開いてたらやっかいだよ。その人間から本を奪い取ろうとしても、あいつら攻撃してくるだろうし」
「なんだかすごい忠犬みたいな、飼い主思いの生き物なんだね。でもそれじゃあ、ますますやっかいだね。早く見つけて、誰かが開く前に封印しないと」
俊介にいわれて、里音も同意するように首をふりました。
「そうね。じゃあ花音、さっそくだけど、『不死鳥の飼いかた全集』がどこにあるのか教えてちょうだい。この近くなんでしょ?」
「うん、確かに近くにあったんだけどね。でも、おかしいのよ。なんだか動いているっていうか……。しかもけっこうなスピードよ。ほら、あんたたち人間って、移動するときに自動車とかいう乗り物に乗るでしょ。ちょうどあれと同じくらいのスピードね」
里音が顔をしかめました。
「まさかそれじゃあ、誰かが本を車に乗せてるってこと? どうしてそんなことを?」
「あたしに聞かれてもわかんないわよ。あ、でもそういえば移動する前に、なんだか前に感じたことがある波動を感じたのよね。誰だったかしら……。ああ、そうだ。あの美緒って子にとりついてたあのゆうれいの波動だわ」
「花子の? えっ、じゃあもしかしてその本って……」
俊介の顔から血の気が引きます。急いで里音を見ると、里音も同じことを考えていたようです。歯がみしてうなずきました。
「やられたわね。花子ってより、きっと美緒でしょうね。美緒のかかってる悪魔の調味料は、悪魔やゆうれいたちに狙われやすくするだけでなく、様々なトラブルを引き寄せる性質もあるから。まあでも、まだ美緒が持っていると決まったわけじゃないわ。とにかく行ってみましょう。花音案内して」
里音にいわれて、花音は二っと八重歯を見せました。居間を出て玄関に行くと、お母さんが目を丸くして聞いてきました。
「あら、どこか出かけるの? せっかくお友達が来てくれてるのに」
「あ、いや、うん。ちょっとみんなで美緒ちゃんの家に遊びに行こうと思って」
お母さんはますます目を丸くしてから、俊介を見つめました。やがてふふっと意味ありげにほほえみました。
「わかったわ。それじゃ、うまくやるのよ」
「うまくやる? なんだよそれ、まあいっか。うん、行ってくるよ」
お母さんのことは気にせず、俊介たちは外に出ました。里音と花音が、すぐに空を見あげます。
「よかった、今日はくもりみたいね。晴れてたら日傘ださなきゃだったけど、このぶんなら大丈夫そうね」
「あ、そっか。吸血鬼は太陽の光にも弱かったんだね。確か今日は、一日中くもりって天気予報がいってたから、大丈夫じゃない?」
のんきそうな俊介を、里音と花音がじろりとにらみつけました。
「あんた、他人事だと思ってずいぶん適当にいうわね。わたしたちにとってはとんでもなく大事なことなのよ」
「そうそう、あたしは人間界の太陽なら、そこまで日焼けしないけど。お姉ちゃんなんか虚弱体質だから、やけどしたみたいに真っ赤になるんじゃないの」
「だれが虚弱体質よ。まあ、真っ赤になるのは否定しないけど。って、そんなことはどうでもいいわ。ほら、行くわよ!」
里音がぐーっと背伸びします。俊介は耳をつかまれそうになって、慌てて手をかわしました。得意そうににやっとする俊介の耳を、今度は花音がつかみました。
「キャハハ、つかみやすいわね、この耳」
「でしょ。まるでつかんでくださいっていってるみたいだもんね」
「いってないよそんなこと! イタタッ、やめて、あっ、ちょ、里音ちゃんまで、やめろよぉ!」
二人にぐいぐい耳を引っぱられながらも、俊介は急いでかけていきます。里音たちも逃げられないように指に力を入れて、花音の指し示すほうへ進んでいきます。
――早く封印しなくちゃ、万が一また美緒ちゃんになにかあったら、今度こそ美緒ちゃんに嫌われちゃう。このあいだのときだってあんなに怒ってたんだ。これ以上なにかあればもう絶交されちゃうよ――
俊介は痛みに耐えながら、『悪魔も怖がるおばけ屋敷』を封印したときのことを思い出しました。
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