3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その20
「……めちゃくちゃだよ。里音ちゃんもめちゃくちゃだったけど、君はその何倍もめちゃくちゃだ。君みたいな子が人間界で暴れまわったら、それこそみんな死んじゃうよ!」
俊介はぐっと手に力を入れて、持っていた白紙の本を開きました。不意を突かれたのか、花音は「えっ」と声をあげ、そのまま白紙の本に吸いこまれていったのです。
『バカ、その子を吸いこむなんて!』
花子のどなり声が聞こえましたが、遅すぎました。白紙の本は花音をギュウンッと吸いこんで、そして一気に燃え上がったのです。俊介はぎゃあっと本を投げすてました。
『まずいわ、逃げて!』
花子が大声を出すのと同時に、燃えて灰になる白紙の本から、花音はもちろん、さっき封印した人体模型や白衣の男、それにグランドピアノにおばけテーブルまでもが出てきたのです。ぼうぜんとする俊介に、封印されていた化け物たちがおそいかかってきました。
「うわわわぁぁぁっ!」
情けない声を出してへたりこむ俊介を、花音がキャハハハッと指をさして大笑いします。美緒が子供たちを守るように、両手を広げて立ちはだかります。しかしそんな美緒たちの前に、くるくるっと花音が飛んできました。
「さっきの白い服着たおばさんたちよりかは、楽しませてくれるわよね?」
それだけいうと、花音は両手足に黒い光をまとわせて、まずはおばけテーブルの前に飛んでかかと落としを食らわせました。おばけテーブルが真っ二つに割れて砕けます。グランドピアノが花音にかみつこうとしますが、フッと花音のすがたが消えました。
「えっ?」
俊介の息をのむ音とともに、花音が鍵盤のキーの前へ現れます。黒い光をまとった指で、鍵盤をでたらめにたたきまくったのです。グランドピアノが悲鳴を上げて、たたかれた鍵盤が砕けて粉々になっていきます。人体模型たちがメスを、白衣の男が様々な薬品が入ったビーカーを投げつけます。
「こんなの余裕だわ」
花音はメスを足でけり飛ばして、薬品をかいくぐるようにかわします。そのまま白衣の男を殴って気絶させ、残りの人体模型たちは逆立ちして、足をめちゃくちゃにふりまわしてけり砕いていきます。
「あたしの竜巻キックのえじきになりなさい!」
それはまさに、竜巻キックという名にふさわしい、激しすぎるけりの嵐でした。足が速すぎて、風が巻いているように見えます。人体模型たちはあっという間に粉々になって、砕け散っていきました。
「えーっ、もう終わり?」
ぴょんっと逆立ちから元に戻ると、花音は退屈そうにあくびをしました。それからくるりと俊介をふりかえって、八重歯を見せて笑います。
「ほら、簡単でしょ。あんたたちだって必死でやれば、この程度のおばけなんかやっつけられるわよ。こんなんで死んじゃうなんて、そんなつまらないジョークは面白くないわ」
開いた口がふさがらないというのは、このことをいうのでしょう。俊介はもうなにもいえずに、ただただ花音を見あげるだけでした。美緒も、泣いていた子供たちさえも、口をぽかんと開けて固まっています。
「でも、あんたはちょっと面白かったわよ。まさかあたしを白紙の本で封印しようとするなんて。ますます興味出てきちゃった」
ぺろっと舌なめずりする花音は、小悪魔のようにかわいらしく、そしてなにより恐ろしく見えました。
「お姉ちゃんのお友達みたいだし、いろいろあんたのこと知りたいけど、あたしを封印しようとするならやっつけないとね」
ふっとけむりがあがって、花音のすがたが消えました。またたきしている間に、いきなり俊介の右どなりに花音が現れたのです。俊介が反応する間もなく、花音は俊介の首筋にかみつきました。美緒が悲鳴を上げます。せっかく泣き止んでいた子供たちも、ハチの巣をつついたようにわめきはじめます。
「血は吸わないけど、あたしに関する記憶は吸わせてもらうわよ。そうすれば、あたしのことは忘れてあたしを封印しようとも……っ、ま、まずっ! まずぅっ!」
俊介にしがみついていた花音が、のどを押さえながらうめきます。俊介から離れ、じたばたと地面をのたうち回りながら、何度もつばをはきます。
「まず、まず、おえぇっ! おぇ、げぇぇっ!」
今にもはきだしそうな花音を、俊介はきょとんとした顔で見ています。美緒も心配そうに花音に近づきました。
「どうしたの? ねえ、花音ちゃん、大丈夫?」
まるで小さい子をあやすように、美緒は花音のからだを起こして、ゆっくりと背中をなでていきます。花音は涙目になって、何度かおえつをもらしていましたが、ようやく落ち着いたようです。はぁーっと大きく深呼吸してから、キッと俊介をにらみつけました。
「あんた、いったい何者よ!」
「ええっ? いや、何者よっていわれても」
「どうしてこんなにあんたの記憶はまずいわけよ! ヘドロと下水をじっくり煮込んで百年天日干ししたような、壊滅的な味がしたわよ! ああ、思い出したらまた気持ち悪くなってきちゃった、おえっ、うえぇっ」
口元を押さえる花音の背中を、美緒がそっとなでてあげます。
「俊介君。ホントになにもしてないの? こんなに花音ちゃんが苦しんでるなんて、なにか里音ちゃんと企んで悪いことしてたんじゃないの?」
美緒が疑わしげにたずねます。俊介はあわてて首をふりました。
「そんなことしないよ! 本当だよ、ぼくはなにもやってないって。あ、でも、前に里音ちゃんに記憶を吸われそうになったときも、そういえば里音ちゃん苦しんでたな。どぶ川みたいな味だっていわれたよ」
まったりした口調でいう俊介を、花音はぎろりとにらみつけました。
「どぶ川? あんた本気でいってるの? あんたの記憶を吸うぐらいなら、どぶ川のフルコースを食べるほうがまだましよ! どぶ川なんてもんじゃないわ、この味は。うえっ、思い出すと、うっぷ、吐き気がぁ……」
「ああ、花音ちゃん、だめよ思い出したら。ほら、楽しいこと考えて。そうすれば変なこと思い出さないですむから。ね」
まるで姉に甘えるように、花音は美緒に寄りかかります。美緒に白い目で見られて、俊介は言い訳がましくつぶやきました。
「ぼくはなにもしてないのに……」
うつむく俊介の耳に里音の声が聞こえてきました。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日19時台に本編1話と、おまけを1話投稿予定です。
おまけが前半、後半に分かれていますので、本日前半を、明日後半を投稿予定です。
お楽しみいただければ幸いです。




