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3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その19

 巨大なグランドピアノの怪物に襲われ、赤毛の男の子が、さけびながら理科室の外へ出て行きます。そのあとを追って、美緒が、そして他の子供たちも一気に外へなだれ出ていきました。俊介は白紙の本を使って、なんとかグランドピアノを吸いこみましたが、美緒たちはすでに理科室の外です。


「美緒ちゃん、みんな!」


 熱を持つ白紙の本を、落とさないようにがっちり抱えて、俊介も理科室から出ます。理科室の外には、井戸から出てきた白装束の女たちがたむろしていたようです。その女たちが子供たちを囲んで、じりじりと距離を詰めています。泣きわめく子供たちの前に、美緒が両手を広げて立ちはだかっています。


「この子たちに近づいてみなさいよ、そしたらただじゃおかないからね!」


 とどろくような美緒の声に、白装束の女たちもひるみます。俊介も美緒のとなりにかけより、いかくするように白紙の本を前に突き出しました。


「お前らなんて全員吸いこめるんだぞ! ほら、吸いこまれたくなければ、さっさとそこを開けろよ!」

「俊介君!」


 美緒の顔がぱぁっと笑顔になります。俊介は美緒もかばうように一歩前へ出て、白装束の女たちをにらみます。しかし女たちは、距離をとったままで囲みを解こうとはしませんでした。こう着状態が続き、俊介の額に汗がにじみます。


「くそっ、早くどっか行けよ! もう、いったいどうすれば終わるんだよ、このおばけ屋敷は。もしかしてずっとこんな風に、化け物たちと戦わないといけないのかよ」


 泣き言をいう俊介を、あの赤毛の男の子が見あげました。首をかしげて、意外そうな顔をしています。


「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはもしかして、このおばけ屋敷、楽しくないの?」

「えっ?」


 俊介が目を丸くしました。じわじわと距離をつめる白装束の女たちを、油断なくにらみつけながら、つっけんどんに答えました。


「楽しいはずないじゃないか! だいたい君だって怖がって逃げ回ってたじゃんか。こんなめちゃくちゃなおばけ屋敷、今すぐにでも出たいよ!」

「あら、あたしはただみんなが逃げ回ってて面白そうだったから、いっしょに逃げてただけなんだけどね」


 男の子がいきなり、女の子の声を出しました。俊介はハッと男の子のほうをふりかえります。男の子はその場でくるりっと宙返りして、女の子のすがたに変わったのです。ショートパンツからのびるすらっとした足に、動きやすそうなノースリーブのシャツ、そしてふんわりとした赤みがかった髪は、さっき見た花音そのものでした。


「君は、花音ちゃん? でも、さっき里音ちゃんに追われて……。どうして、いったいどういうこと?」


 美緒をかばうように手を広げて、俊介が花音をにらみつけました。花音はキャハハと笑って答えました。


「どうしてって、あんたたちのそばにいたほうが楽しめそうだったからね。だから男の子のすがたになって観察してたんだ」

「男の子のすがたに? そんなことできるなんて」


 花音は目をぱちくりさせていましたが、やがてふふんと得意そうにほほえみました。


「そりゃそうだよ、だってあたし、吸血鬼だよ。お姉ちゃんと違って魔界図書館の本は使えないけど、本を使わなくてもすがたぐらい変えられるわよ」


 それだけいうと、花音は興味深そうに俊介と美緒を交互に見ました。切れ長の目に見つめられると、なんだかぞくっとして、俊介は思わず身震いしました。


「あはっ、大丈夫だよ、別に吸血鬼だからって、とって食べようとか思ってないから。でも、あんたたち人間のくせに面白いわね。『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』のおばけたちを前にしても、怖がらないで立ち向かうなんて。あたしちょっと興味が出てきたかな」


 ふふっと俊介にウインクする花音を、美緒はじろっとにらみつけました。


「いったいわたしたちをどうするつもりなの? 吸血鬼ってことは、血を吸うのが目的なの?」

「血を? うーん、別におなかいっぱいだし、そんなことしないわ。ただ、目的ってわけじゃないけど、おばけ屋敷でみんなとキャーキャーいって楽しみたかっただけよ。人間界に来たのも、ホントはお姉ちゃんと鬼ごっこしてて、ノリで逃げてきた感じだからね。……あれ?」


 花音が首をひねり、それからへぇっと息をもらしました。


「さすがお姉ちゃんね。あたしのニセモノをやっつけるなんて」

「ニセモノ? そうか、じゃあさっき里音ちゃんが追いかけていったのは」

「そうよ、あたしのニセモノ。ま、ニセモノっていっても、あたしと同じ力を持ったドッペルゲンガーだけど、うまくやっつけるなんて、さすがはお姉ちゃんってとこね」


 肩をすくめる花音に、さっきの白装束の女たちが飛びかかりました。思わずちぢこまる俊介たちをよそに、花音は退屈そうにくるりっとふりかえりました。


「ハッ!」


 ショートパンツからのびる足を目いっぱい伸ばして、花音はまるでコマのようにぐるぐるとまわしげりをはなったのです。白装束の女たちが、黒い竜巻にはじかれ吹きとばされていきます。


「もう、話の途中なんだから、ちょっかいださないでよ」


 ぐったりして動かなくなった女たちに、花音はベーっと舌を出します。


「うそだろ、あんなたくさんいたのに、一瞬で」


 うろたえる俊介に、花音は首をかしげました。


「あんなの普通じゃない? ていうかこいつら、おばけ屋敷だからか知らないけど、怖いわりにヨワヨワだわ。はぁ、『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』っていうぐらいだから、期待してたんだけど、こんなんじゃ期待外れだわ」

「じゃあ、早く終わらせてよ! 花音ちゃんにとっては期待外れかもしれないけど、ぼくらにとってはとんでもなく怖くて危険なんだよ! 君が本を持っているんだろ、早く封印してくれよ」


 俊介が頼みこみますが、花音は首をふりました。


「えー、だめだよ。だってまだお姉ちゃんと鬼ごっこの途中だもん。おばけ屋敷は期待外れだけど、ニセモノをやっつけるんだから、お姉ちゃんには期待できるわ。だから封印なんてしないよ。おばけ屋敷でもっともっと、お姉ちゃんと鬼ごっこするんだ」

「でも、こんな小さな子たちもいるのに、危ないわよ。まだなんとかみんな無事だけど、一歩間違えればケガしたり、最悪死んじゃうかもしれないじゃない。ねえ、この子たちだけでも助けてくれないかしら? あなたが鬼ごっこしたいなら、みんなを外に出したあと、思いっきりすればいいでしょ」


 美緒がさとすように、花音にいいます。しかし花音は、きょとんとしているだけで、なにも答えません。


「どうしたんだよ、まさか、みんなが死ぬかもしれないって考えなかったってのか?」

「うん、そうだけど。だってこんなおばけ屋敷で、死ぬとかありえないじゃない。まさか、びっくりして死んじゃうとか、そういうギャグでもいってるの?」

「びっくりして? いや、そりゃその可能性もあるかもしれないけど、普通に考えたら、死んじゃうような化け物ばかりじゃないか。花音ちゃんには期待外れのおばけ屋敷かもしれないけど、ぼくたちには死んじゃうくらい危険なおばけ屋敷なんだよ、ここは」

「うそでしょ? え、じゃあもしかして、あなたたち人間って、簡単に死んじゃう種族なの? 針の山で遠足とか、血の池地獄で水泳大会とか、そんなことしないの? もしかしてそんなのででも死んじゃうっての?」


 あまりのことに、俊介も美緒も絶句してしまいました。固まる二人を、花音は目を白黒させて見ています。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日は2話投稿予定です。お昼ごろと19時台に投稿を予定しております。

ちなみに19時台の投稿で一区切りつくので、本編とは別におまけを1話投稿する予定です。

明日からしばらく19時台に投稿する予定ですので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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