3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その16 ~里音VS花音②~
「ルールは簡単よ。お姉ちゃんがあたしを捕まえたら、お姉ちゃんの勝ち。でも、制限時間内にあたしを捕まえられなかったら、お姉ちゃんの負け。ね、簡単でしょ」
「簡単でしょ、じゃないわよ! 全然ちゃんと説明してないじゃない。まずその制限時間っていったい何分くらいなのよ」
花音はその場で、クルクルッとからだをひねりながら、うしろに三回転して着地しました。里音があきれたようにため息をつきました。
「あんたの身体能力がすごいってことはわかったから、無駄にクルクル回るのやめなさいよ。で、いったい何分くらいなの?」
「はい、これ。この砂時計の砂が、全部落ちるまでだよ」
さっき三回転したときに出したのでしょうか、いつの間にか花音のとなりに大きな砂時計が現れていました。中にはたっぷり砂が入っていましたが、どのくらいの時間なのかは見当もつきません。不安げに砂時計を見る里音に、花音が笑いかけました。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。別に負けてもそんな大したことが起こるわけじゃないし。ちょっとした罰ゲームだよ」
「……で、その罰ゲームとやらの内容はいったいどんななのよ。あんまり聞きたくないけど、とりあえず教えてよ」
「罰ゲームの内容は、このミシンたちがさっきみたいにいっせいに針を飛ばしてくるだけだよ。ね、たいしたことないでしょ」
「大ありよ! そんなことになったら死んじゃうじゃない! わたしは魔界図書館の本が使えないのよ」
花音は目をぱちくりさせています。首をかしげて、当たり前のようにいいました。
「別に本が使えなくても、大丈夫じゃない? 針をけり飛ばしたりはお姉ちゃんできないだろうけど、よけるくらいはできるでしょ」
「できるはずないじゃない! あんなスピードで飛んでくるのに、どうやってよけるのよ! 本を開くのはそりゃああんたよりも早いだろうけど、それ以外の運動神経はからっきしなのよ。あんたいったいなに考えてんのよ!」
わめきちらす里音を、花音はきゃははと笑って見ています。
「大丈夫だよ、死ぬ気でやればうまくよけられるよ。それに罰ゲームがないと面白くないでしょ。さ、説明はこれくらいにして、そろそろ始めましょ。もう待ちきれないよ」
里音が制止するのも聞かずに、花音はくるっと砂時計をひっくり返しました。砂時計の砂が落ち始めると同時に、ミシンから大音量の音楽が流れてきたのです。激しいロックンロールが流れる中、花音がぴょんぴょんっとミシンの上を飛び回ります。
「さ、鬼さんこちら、手のなるほうへ♪」
「ちょっと待ってよ、わたしまだやるとかいってないじゃない!」
「いってなくてももう始まっちゃったからしかたないでしょ。ほらほら、早く捕まえないと、罰ゲームだぞ」
こうなったらもうやるしかありません。里音は必死に背伸びして、花音が着地しそうなミシンに手を伸ばしました。その手をひょいっとかわして、花音は再びくるるんっとジャンプします。
「ほらほら、こっちよ。鬼さんこっち♪」
「このっ、バカにして!」
花音が落下してくる先へと、またも里音は手を伸ばします。花音は長い足をパッと開脚してからその手をよけます。そのまま別のミシンに着地して、里音が手を近づけるとまたジャンプするのです。
「どうしたの、お姉ちゃん。手が全然届いてないよ。どうしてかなぁ?」
はやし立てる花音に、里音はキーッと怒りにまかせて突撃します。もちろん花音はひらりとかわして、くるるっと別のミシンへ飛び乗ります。
「お姉ちゃん、気づいてる? あたしさっきから、ミシンの上にしか着地してないんだよ。普通に逃げたら一生かかっても捕まえられないだろうと思って、ハンデをつけてあげたんだ」
「バカに、するな! このっ、このっ!」
必死の形相で手を伸ばす里音を、花音はあざ笑うかのようにかわします。花から花へ飛びうつるちょうちょのように、花音はひらり、ふわりとミシンの上を飛び続けます。
「待てよ、そうだ、ミシンの上にしか着地しないなら、ミシンを倒しちゃえばいいんだわ!」
ミシンをぐいぐい押す里音でしたが、びくともしません。そんな里音を見て、花音は爆笑しています。
「キャハハハハッ! お姉ちゃん、やっぱりずるっこいね。そんなせこいことするなんて、面白―い!」
「うるさいわね、勝てばいいんでしょ、勝てば!」
そうはいっても、ミシンは全然動きません。フンフンと力を入れていきますが、里音の力ではどうにもなりませんでした。花音があきれて声をかけます。
「そんなことしても無駄だよ。そのミシン結構重いから、お姉ちゃんじゃ動かせないよ。もっと身長があったらうまいこと動かせるかもしれないけど、今のままじゃどうにもならないよ。あきらめて追いかけなよ」
しかし里音は、こりずになんとかミシンを倒そうとしています。花音ははぁっとため息をつきました。
「つまんないの。お姉ちゃんが追っかけてこないんだったら、あたしも休憩しとこっと」
花音はミシンからおりて、机の上に寝そべりました。里音がひぃひぃいいながらミシンを押すのを、くすくす笑いながら見ています。
「イタッ!」
突然里音が声を上げたので、花音はまゆをひそめました。里音が指を押さえています。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「痛い、ミシンの針で指をケガしちゃったみたい。ほら、ここ、見て」
花音が心配そうに里音によってきました。すかさず里音が花音を捕まえようとしますが、花音はひょいっとジャンプして手をかわして、きゃははと笑いました。
「やっぱり、ずるっこいお姉ちゃんのことだから、どうせそんなことだろうと思ったよ。そんなひっかけには引っかからないわ」
花音はくるくるっとうしろへ回転しながら、別のミシンへと着地しました。里音に手をたたいて挑発します。
「ほらほら、鬼さんこちら、手のなるほうへ♪ じゃなかった、チビさんこちら、手のなるほうへ♪」
「チビっていうなぁ!」




