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3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その15 ~里音VS花音①~

「はぁ、はぁ、ようやく追い詰めたわよ、花音!」


 荒い息を整え、里音がへろへろになりながら花音をにらみつけました。里音と花音の鬼ごっこは、ようやく家庭科室で決着をつけられそうでした。家庭科室とはいっても、アクマールのときのように、レストランにはなっていません。どの机にも、大きくて古臭いミシンが、カチカチカチカチと音を立ててドレスを縫っているのです。しかしそのドレスはどれも、赤い汚れがあちこちに飛び散っています。


「それにしても趣味が悪いおばけ屋敷ね。なによこのドレスは。血まみれになってるじゃない」

「えー、でも素敵じゃん。お姉ちゃんが着たら絶対にあうと思うよ。あ、でもそのエプロンドレスみたいにだぼだぼになっちゃうか」


 きゃははと笑って、花音が里音を見おろしました。からだをわなわなとふるわせながら、里音は花音をねめつけます。


「いい残すことはそれだけかしら? あんたがなんといおうと、追い詰められたのには変わりないわ。すぐにあんたをとっつかまえて、このバカげたおばけ屋敷もすぐに封印してやるから!」


 息巻く里音に、花音はふふっと意味ありげに笑いました。


「なによあんた、いったいなに笑ってんのよ?」

「お姉ちゃんさ、本当にあたしを追い詰めたって思ってるの? だってさ、お姉ちゃんそんなへろへろになってるのに、あたしがお姉ちゃんを引き離せないと、本気で思ってるの? 追い詰められたのはあたしじゃなくて、本当はお姉ちゃんだって思わなかった?」


 里音はハッと、あたりのミシンに目をやりました。どれも自動で血まみれのドレスを縫っていますが、別に変わったところは見られません。


「どうせはったりでしょ、それとも、運動音痴のわたしなんかに追い詰められて、悔しいから負け惜しみいってるのかしら」

「まさか。まあいいよ、どっちでも。ほら、それじゃああたしを捕まえてみてよ。追い詰めたっていってるけど、まだ捕まえられてないでしょ」

「すぐに捕まえてやるわっ!」


 里音の右手が赤く染まりました。そのとたん、ミシンがいっせいに里音のほうを向いて、パカッとふたが開いたのです。ふたの中から銃口が現れ、何本もの針を発射してきます。里音は手にカメレオンの絵が描かれた本を出現させました。『魔界カメレオンの冒険』です。里音のからだが銀色に変わりました。


「ふん、どうせそんなことだろうと思ったわ、でも残念でした、こんな攻撃じゃわたしに傷ひとつつけられないわよ」


 里音の言う通り、針はすべて銀色の皮膚にはじかれて砕けていきます。しかし花音はにやっと八重歯を出して笑いました。


「そりゃそうだよ、だって針はおとりだもん。ほら、お姉ちゃん、うしろうしろ」


 花音にうしろを指さされて、里音は急いでふりかえります。ばさりとなにかがからだにふりかかってきました。魔界ミスリルに変わっているからだではよけきれずに、布のようなものがまとわりついてきます。


「きゃっ、なによこれ、いったいなにをしたっていうのよ」


 いつの間にか里音の服が、だぼだぼの黒いエプロンドレスから、あの血まみれのドレスに変わっていたのです。もちろんだぼだぼのままではありましたが。


「なにこれ、いったいどういうつもりよ!」


 血まみれのドレスを脱ごうとしますが、からだにはりついているようでうまく脱げません。


「くっ、そうか、『魔界カメレオンの冒険』を解除しないとうまく動けないんだわ」


 里音は『魔界カメレオンの冒険』を閉じて、魔界ミスリルのからだからもとのからだへ戻りました。急いで血まみれのドレスを脱ごうとしますが、どうやっても脱げません。花音がへらへら笑って近づいてきます。


「バカにして、でもこれがどうしたっていうのよ。こんな悪趣味なドレスに着替えさせて勝った気になってるなら、大きな間違いだって思い知らせてやるわ」


 里音が右手を宙にかかげました。しかし、右手は赤く染まるどころか、なに一つ変わりませんでした。もちろん本は出てきません。里音はぽかんとしていましたが、もう一度手に意識を集中させます。ですが、どうやっても魔界図書館の本を呼び出すことができないのです。里音は血の気の引いた顔で花音を見あげました。


「あんた、これはいったい」

「ああ、安心してお姉ちゃん。このままミシンの針で、お姉ちゃんを穴だらけにしようとかは思ってないから。でも、本気で鬼ごっこしないと、ホントに穴だらけになっちゃうよ」

「……いったいなにをしたの? どうして魔界図書館の本が使えないのよ?」


 花音はへへっと笑って、ひょいっとミシンの上に飛び乗りました。まるでサーカスの曲芸人のように、ミシンの上を次から次へと飛びうつっていきます。


「答えなさい! どういうつもりなの!」

「だからいったじゃん。鬼ごっこだって。お姉ちゃんすぐずるして、魔界図書館の本でなんとかしようとするでしょ。だから本を使えないようにしたの。そのドレスは特殊な糸で編まれてて、それを着た人は()()()術をかけることができなくなるの。つまり魔界図書館の本ももう呼び出すことはできないってわけ」


 里音の額に汗がにじみます。うわずった声で花音に問いかけます。


「ねぇ、花音、あんたお姉ちゃんと遊びたいんでしょ。ほら、魔界図書館の本を出せないお姉ちゃんとなんて、遊んだってつまんないじゃない。だからこれを脱がせて、魔界図書館の本を使える状態で鬼ごっこしたほうが」

「それも考えたんだけどね、でも、実は鬼ごっこ自体ちょっと飽きてきちゃったんだ。だから、そろそろ区切ろうかなって思ったの」


 花音はパチンっと指をはじきました。そのとたんに、血まみれのドレスが花音にもまとわりついたのです。里音は目を丸くしました。


「あんたいったいなにがしたいわけ?」

「えー、だってお姉ちゃんだけドレス着てたら不公平じゃない。だからあたしも着ただけだよ。ほら、これで不公平じゃなくなったでしょ」


 花音がクルクルッと一回転して、ミシンからミシンへ飛びうつりました。いつの間にかどのミシンも、ドレスを縫うのをやめていました。ミシンを凝視する里音に、花音が声をかけます。


「ミシンは今のところ止まってるよ。でも、もし鬼ごっこに負けちゃったら、また動き出すから注意してね。それじゃあルールの説明といきますか」


 空中で華麗に四回転ひねりを決めて、花音が床に着地しました。身構える里音に、花音は説明を始めました。


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