表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/471

3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その14

 俊介はまゆをつりあげました。声に出さないように注意しながら、花子にテレパシーを送ります。


 ――大変なこと? いったいなにが起きるんだよ。そもそも使いかたを間違えるって、どんな使いかたをしたら大変なことになるのさ――


『あんたがさっきしたような、考えなしになんでもかんでも封印するのが、間違った使いかたよ。白紙の本にはページの容量が決まっているの。開かないように注意して、ページの紙をよく見てみなさいよ』


 俊介は無言で、白紙の本のページを指でさわりました。閉じたまま紙を調べると、半分ぐらいが赤く染まっていました。


 ――真っ白だったはずなのに、今はなんだか赤くなってるよ――


『でしょう。それはつまり、白紙の本の容量が半分ぐらいうまってしまったことを意味するわ。使えるのは、あと半分ぐらいのページね』


 ――そうか、だからあのとき、早く閉じろっていったんだ。あんなでかいテーブルを吸ったら、そりゃあ容量もパンクしちゃうよね――


『別に吸いこむ物体の大きさは関係ないわ。関係があるのは吸いこむものの魔力や妖力だもん。だから、ものすごい強い魔力を持つ相手なら、吸いこんだ瞬間に白紙の本が燃えあがっちゃうわ。逆に魔力がないものを吸いこんだって、そこまでページは消費しないのよ』


 ――でも、それじゃあさっきのテーブルはなんだったんだよ――


『そっか、じゃあやっぱり気づいてなかったんだ。テーブルを吸いこもうとしたとき、白紙の本がどんどん赤く染まっていったの、気づかなかった? 予想だけど、あのテーブル生きてたんだと思うわ』


 ――生きてた? テーブルが? あ、でもそういえば――


 俊介は、白紙の本がテーブルを吸いこむときに、テーブルが吠えるようなさけび声をあげていたのを思い出しました。ぞっとして身震いする俊介に、花子が説明を続けました。


『そう。だから止めたのよ。きっと魔力でたましいを与えられていたんだわ。そんなやつを吸いこんだら、そりゃあページも一気に消費しちゃうわよ。そうやって無理をさせると、本が熱を持って燃えちゃうこともあるのよ。なんていったって、紙なんだから。炎には弱いわ』


 ――そういえばさ、そうやって熱を持ったり、ページの容量がオーバーしちゃったらどうなるんだ? まさか、本がいきなり燃え出すんじゃ――


『それだけならいいけどね。容量がオーバーしたら、白紙の本に封じていたものが全部本の外に飛び出すのよ』


 あわてて口を押さえたから、俊介は悲鳴を上げないでこらえることができました。美緒がちらりと俊介に目を向けます。怪しまれないように平静をよそおって、花子にテレパシーを送りました。


 ――うそだろ、じゃあさっきの人体模型とか、あの白衣の男とかも出てくるのか――


『そりゃそうよ。だからいったじゃない。使いかたに気をつけなさいって。あんな無計画にバンバンページ使ってたら、すぐに容量オーバーしちゃうわよ。だから、もしまた化け物が出てきたら、逃げられるんだったらちゃんと逃げて、どうしてもまずいってときだけ白紙の本を使いなさい。白紙の本が容量オーバーになったとたんに、あんたたちもみんなゲームオーバーなんだから』


 俊介はじっと、半分赤く染まった白紙の本を見つめました。美緒が心配そうに俊介をのぞきこみます。


「どうしたの、俊介君。もしかしてまた、その本が熱くなったの?」

「あ、いや、違うよ、大丈夫。心配しないで、ちゃんとこの子たちも、もちろん美緒ちゃんだって、ぼくが守るから」


 ぱっちりした目で、驚いたように俊介を見ていましたが、やがて美緒はほほえみました。サイドポニーの髪をゆっくりなでつけながら、頼もしそうに俊介を見ます。


「ありがとう、俊介君。本当はわたしも、怖くてたまらなかったの。だっていきなりこんな世界に巻きこまれたんだもん。でも、もしわたしが怖がったら、この子たちはもっと怖がるからって、そうやってずっとこらえてたの。でも」


 美緒がゆっくりと俊介のそばに近寄りました。となりに立つと、ふわりとシャンプーのにおいが鼻をくすぐります。どぎまぎする俊介に、美緒はいたずらっぽく笑いました。


「でも、俊介君がいっしょだったら、なんだかどんな怖い化け物が出てきても、なんとかなりそうな気がするわ。今日の俊介君、なんだかいつもと違うもの。怖がりなはずなのに、すごく頼りになりそうで……」

「美緒ちゃん……」


 二人の距離が、さっきよりもだんだんと近づいていきます。お互いの息づかいはもちろん、ともすれば心臓の鼓動すら聞こえてきそうです。ぱっちりした目と、ぷるんとしたくちびるに見とれる俊介に、花子がテレパシーでツッコみました。


『ちょっとちょっと、そんなことしてる場合じゃないわよ、さっきから聞こえないの? なんかピアノの音が聞こえてくるでしょ』


 ――うるさいな、今いいところなんだ、だまっててよ――


『いやいや、だまっててよじゃないわよ、ピアノの音と、ドスドスって足音みたいな音まで聞こえてくるじゃん。やばいって、これ。子供たちもおびえて泣きそうになってるじゃないの』


 ――もう、うっとおしいなぁ。あ、わかった。花子、お前ぼくがモテるから嫉妬してるんだろ――


 とんちんかんなことをいう俊介に、花子はどすの利いた声で怒りをぶつけました。


『あ? なんつった、今? あんたらのことを心配していってんのに、そんなこというんだ。あっそう。どうやらあんた、わたしにとりつかれたいみたいね』


「わぁっ!」


 突然俊介が大声を上げたので、美緒がびくっとからだを固くしました。


「どうしたの、俊介君。びっくりした、驚かさないでよ」

「あ、いや、その……そうだ、ピアノ、ピアノの音が」


 俊介は必死でなんとかごまかします。美緒は眉をひそめていましたが、やがて小さくうなずきました。


「ホントだ、聞こえる。それになにかしら、このドスンドスンって音は。まさか、なにかの足音なの?」


 ピアノの音とともに、ドスドスという足音が大きくなっていきます。子供たちが泣き出しそうな顔で、美緒と俊介にしがみつきます。ただ、あの赤毛の男の子だけが、にやにやと不気味な笑いを浮かべています。俊介は油断なく理科室全体に視線をはわせますが、唐突に理科室のとびらがガシャーンっと吹き飛んだのです。


「ギャアァァァッ!」


 子供たちの悲鳴をかき消すように、耳障りなピアノの音が、ババババーンッと響きます。とびらだけでなく、壁もバキガキッと砕いて、巨大なグランドピアノが現れました。大屋根の部分がバクバクッと、まるで口のように開閉しています。というよりもそれは完全な口で、ギザギザになった歯がびっしりとついていたのです。


「来るなっ、こっちに来るな!」


 俊介の言葉はもちろん無視して、グランドピアノはめちゃくちゃな音をかなでながら、一気に飛びかかってきたのです。俊介は思わず白紙の本を開きました。グランドピアノが白紙の本に吸いこまれ、ババババーンッ、ダダダダーンッと、めちゃくちゃな音を響かせます。もう限界だったのでしょうか、グランドピアノによって壊された壁の穴から、赤毛の男の子がさけびながら外に出ていきます。美緒がはじかれたようにあとを追います。


「あっ、待って! 今外に出たら危ないわ!」

「美緒ちゃん! くそっ、早く吸いこまれろ!」


 グランドピアノは抵抗するかのように、大屋根の口を思いっきり開いてもがきます。美緒のあとを追って、他の子たちも外へ出ていきます。ようやくグランドピアノを吸いこみ、俊介もそのあとを追いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ