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3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その13

「えっ、でも、危なくない?」

「外よりかは危なくないわ。ほら、思い出してみてよ。わたしたちはどうしてこの部屋に入ってきたの?」

「どうしてって、白装束の女の人たちに追われて……あっ!」


 俊介の顔が真っ青になりました。美緒が小さくうなずきます。


「ね、もしあいつらが外で待ち伏せしてたら、どうする? それにろうかに出て、化け物たちにはさみうちにあったりしたら? 俊介君のその本でも、両方から攻撃されたらどうにもならないでしょ。でもこの部屋なら、角にいれば不意打ちされたりしないし、まわりも見渡せるわ」

「そうか、それならたとえまた化け物が出てきても、なんとかできるね」

「でしょう。それにわたしたちだけなら、外に出ても大丈夫かもしれないけど、低学年のこの子たちもいっしょだと、守り切れないかもしれないわ。今はとにかくここにかくれて、里音ちゃんがなんとかしてくれるのを待ちましょう」

「わかったよ。ありがとう美緒ちゃん。美緒ちゃんが冷静でいてくれてよかった」


 美緒はふふっと笑い、子供たちを角へ避難させました。


「あなたたちは、お姉ちゃんたちがちゃんと守ってあげるから。だからここで待っていてね。大丈夫? 怖くない?」


 みんな神妙なおももちでうなずきましたが、ただ一人、あの赤みがかった髪の男の子だけは、少し不満そうでした。


「そんなに心配しないでも大丈夫よ。あのお兄ちゃんが持ってる不思議な本があれば、もう怖い思いはしないからね」


 怖がっていると思ったのか、美緒がその赤毛の男の子をなぐさめます。男の子はなにもいいませんでしたが、なにか考えこむようにして、窓の外を見つめていました。


「とにかく油断しないようにしよう。ぼくが前に立って見張ってるから、みんなもなにかおかしいなって思ったら、すぐに知らせてね」


 俊介は子供たちの前に立って、それからテレパシーで花子に話しかけました。


 ――さ、それじゃあ話の続きだけど、いったいこの本はなんなんだよ。知ってることがあったら、全部話してもらうからな――


『なによそのいいかた。エラそうにしちゃって、絶対あとで里音ちゃんにチクってやるから。まあいいわ、結論だけいうと、その本は使いかたさえ気をつければ、全然危険な本じゃないわ。それどころかあんたたちの身を守る、まさに切り札って感じの本よ』


 俊介が目をむきました。まわりを油断なく見ながらも、テレパシーで花子を問いただします。


 ――そんなにすごい本なの、これ? いや、そりゃあさっきのですごいってのはわかるけど、そもそもこれはいったいなんなの――


『この白紙の本は、魔界図書館の本のもととなるものよ。いわば原稿用紙のようなものかしら。魔界図書館の本は、もちろん魔界に住む作家たちが書いたものもあるけど、だいたいは司書である、吸血鬼一族が魔界中を旅して集めた蔵書なのよ』


 ――魔界中を旅して集めた? いったいどういうことだよ、本が魔界に散らばってたってことか――


『違うわ。あんた、里音ちゃんから聞いてたと思うけど、司書の吸血鬼一族は、血だけでなくて記憶や感情も吸えるの』


 ――それは聞いたよ。この目で見もしたし。ぼくの記憶を吸おうとしたり、美緒ちゃんの記憶を吸ったり、ろくなことしてなかったけどね――


 口をへの字に曲げる俊介に、花子がたしなめるように続けました。


『まあそりゃしかたないわよ。魔界の存在がばれるといろいろやっかいだし、あんたたちも魔界の住民に狙われやすくなるからね。まあ、それは置いとくとして、吸血鬼一族はその特殊な能力を使って、魔界に住むありとあらゆる種族の記憶や感情を吸収した』


 ――なんでそんなことを――


『それこそが白紙の本のすごいところなんだけど、吸血鬼が吸った感情や記憶を、白紙の本に封じてしまえば、本にはその力が残るのよ。感情は魔力そのものに、記憶はそれを形にするための設計図になる。そうしてできたのが魔界図書館の本ってわけ』


 ――じゃあ、里音ちゃんが使ってきた、あのいろんな本って全部、もとは記憶や感情ってことなの――


『全部が全部じゃないけどね。さっきいったように、魔界には自分の体験を魔力が宿った本にして、魔界図書館に寄贈する物好きたちもいるから。でも、だいたいが吸血鬼一族が吸い取った記憶や感情によって作られているわ。そう、わたしみたいにね』


「えっ?」


 思わず声を出してしまった俊介に、美緒が反応しました。


「どうしたの俊介君、もしかしてまたなにか現れたの?」

「あ、いや、その……」


 いいよどむ俊介を、美緒が疑わし気な目で見ています。


「なんだか今日はホントに変よ。もしかして、俊介君誰かと話してたりしないわよね? 独り言っていってるけど、もしかして誰かとこっそりおしゃべりしてて、それでときどき声を出してるとか、そんなことないわよね?」


 サイドポニーをぎゅっと抱きしめたまま、美緒が上目づかいで俊介を見つめました。俊介はその目から逃れるようにそっぽをむいて、首をふりました。


「そんなことないよ。ごめん、きっといろんなことがあって気が張ってるんだよ。だからなんか独り言いっちゃうんじゃないかな」

「そうなの? ごめんなさい。そうよね、俊介君や里音ちゃんは、わたしたちのために戦ってくれているのに、わたしはなにもできてないで、しかも疑うようなことまでいっちゃって……」


 伏し目がちにつぶやく美緒を見て、俊介は慌てて続けました。


「そんなことないよ! だって美緒ちゃんは、この子たちをはげましたり、手が生えてきたときとかも必死に守ってくれたじゃないか。ぼくもいいもの見れたし」

「えっ?」

「あ、いや、なんでもないよ。本当になんでもないから」


 頭が取れそうになるほどに、俊介は激しく首をふりました。花子があきれたようにテレパシーで話しかけてきました。


『バカじゃないの、なに墓穴を掘るようなまねしてるのよ』


 ――うるさいやい、こっちだって好きでいってるわけじゃないんだ。それより話の続きだけど、どういう意味だよ、わたしみたいにねって――


『言葉通りの意味よ。わたしはもともとトイレの花子さんっていうゆうれいだった。でも、人間界だけじゃ飽き足らず、魔界のトイレにまで出没したのが間違いだった。たまたまトイレで出くわした吸血鬼に吸い取られて、そのまま白紙の本に封印された。まあそんなところよ』


 ――いや、それってただ、花子がとんでもなくまぬけだったってだけじゃ――


『なんかいった?』


 ――あ、いや、なんでもないです。すみません、続けてください――


『……まあいいわ。とにかくそういうわけだから、白紙の本はあんたたちにとって切り札になりえるわ。でも、使いかたを間違えると、大変なことになるから気を付けてね』


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