3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その12
ろうかにいつの間にか、たくさんの井戸ができていたのです。ただ井戸があるだけならよかったのですが、どの井戸のふちにも、真っ白い手が見えているのです。
「まさか、お願い、なにも出てこないでよ!」
俊介のお願いは全く実りませんでした。井戸から白装束を着た、ぼさぼさの髪の女の人が、何人も出てきてこっちに近づいてきたのです。子供たちが我先にと、美緒に飛びつきます。美緒は白装束の女たちをキッとにらみつけて、それからとなりの教室のドアをガラッと開けたのです。
「みんな、こっちに来て! さあ、早く!」
美緒がその教室の中へと飛びこんでいきます。子供たちもいっせいにそのあとを追いました。最後に俊介も教室の中へ入ろうとして、ハッとあることを思い出したのです。
「待って、この教室って確か理科室じゃ」
教室の中に入った子供たちが、さっきよりも大きな声でさけんでいました。中には白衣を着た男が、何人もの人体模型に、ドスドスとメスを突きつけていたのです。ショッキングな光景に、俊介もうぎゃあっと悲鳴を上げていました。
「早く、早く戻ろう!」
俊介は急いでドアを開けようとしましたが、いつの間にかカギがかけられていて、開けることができません。なんとか開けようとガチャガチャしていると、白衣の男がくるりとふりかえりました。めがねをかけてマスクをしたその男は、ギロリと俊介をにらみつけました。
「お前たち、このわたしのオペをのぞき見したようだな」
「いえいえ、なにも見てません! それじゃあぼくたちはこれで失礼します!」
早口で言ってドアをガンガンける俊介ですが、もちろんドアは開きません。白衣の男をふりかえると、くっくと笑い声をあげてメスを構えていたのです。
「オペをのぞき見したからには、君たちも改造しなければな。さあ、次の改造オペの実験台だ。お前たち、拘束しろ!」
そのとたん、メスを突き立てられていた人体模型たちが、カチャリカチャリと音を立てておそいかかってきたのです。自分のからだに突きささっていたメスを引き抜き、子供たちに切りかかろうとします。
『俊介、白紙の本を開いて、早く!』
花子のどなり声が聞こえ、俊介はあわてて白紙の本を開きました。そのとたん、人体模型たちがいっせいに白紙の本へと吸いこまれていったのです。うわっと声を上げて、俊介が白紙の本を落としそうになりますが、花子が『落としちゃだめ!』と再度どなります。俊介はなんとか持ちこたえ、最後の人体模型が白紙の本へと吸いこまれました。
「すごい、俊介君、すごいわ!」
美緒が歓声を上げました。子供たちも、俊介を頼もしそうに見あげています。
「この本すごいや! よし、それじゃああいつも!」
俊介が白紙の本を、白衣の男へ向けました。白衣の男はテーブルに置いてあったビーカーを、かたっぱしから俊介へ投げつけてきたのです。ビーカーに入っていた緑や紫、オレンジといった毒々しい液体が、俊介にふりかかりそうになりますが、それらもすべて白紙の本へ吸いこまれていきました。
「よし、いいぞ、さあ、あとはあいつだけだ!」
白衣の男は吸いこまれないように、テーブルにしがみついていましたが、白紙の本の吸引力はすさまじく、なんとテーブルごと男を吸いこんだのです。
「うおっ、うおぉぉっ!」
白衣の男は手をバタバタとふりながら、白紙の本へと吸収されました。少し遅れてテーブルが白紙の本にぶち当たります。破れるかと思いましたが、白紙の本はびくともしません。ずるり、ずるりと少しずつテーブルが消えていきます。すると、テーブルから、まるでけものの遠吠えのようなグォォォッというさけび声が聞こえてきたのです。
『まずいわ、早く本を閉じて!』
白紙の本が少し赤みを帯びたところで、花子が警告するようにどなりました。ですが、俊介は白紙の本をがっしり持ったまま、白衣の男とテーブルが吸いこまれるのを見届けました。
「よし、いっちょ上がりだ……って、熱っ!」
俊介は思わず白紙の本を落としてしまいました。指をふーふー吹いて涙目になる俊介に、美緒が心配そうにかけよりました。
「俊介君大丈夫? どうしたの、なにが起きたの?」
「わかんない、ただ、いきなり白紙の本がすごく熱くなって、それでびっくりして離しちゃったんだ」
警戒するように、白紙の本を指先で少しだけさわります。どうやら熱は引いたみたいです。俊介はおそるおそる白紙の本を持ちあげました。
「いったいこの本はなんなんだ?」
「あっ、ちょっと待って、俊介君、ここ見て!」
美緒にいわれて、俊介は白紙の本の表紙へ目をやりました。うっすらとですが、うす赤い色がにじんでいるようです。見ようによっては、めがねをかけた男の顔のようにも見えます。
『危なかったわね、まだページは残っているみたいだけど、むやみやたらに使っちゃだめよ』
――いったいこの本はなんなんだよ? 本当に危険なものじゃないんだろうな――
俊介に聞かれて、花子はふうっとため息をつきました。
『まったく、人の話を聞かないからこうなるのよ。さっきからわたしが話そうとするたびに話の腰を折るんだから』
――いや、だってしかたないだろ。お前が話そうとするたびに化け物たちがおそってくるんだから。っていうか、それってぼくのせいじゃないような――
『なんかいった?』
俊介はぶるぶるっと首をふりました。低学年の子供たちをなだめていた美緒が、けげんな顔で俊介を見ます。俊介はごまかすように早口で答えました。
「ごめんごめん、なんでもないよ美緒ちゃん。とりあえずこの部屋から出よう。あの白衣の男以外にもなにかいるかもしれないからさ」
俊介の言葉に、子供たちがヒッと顔を引きつらせました。美緒がじろっと俊介をにらみつけます。俊介はあわてて首をふりました。
「ああっ、ごめんよ、怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、もしかしたらって思ってさ」
美緒の険しい表情が、少し和らいだように思えました。美緒はそっと俊介に近づいてから耳打ちしました。
「だめよ、みんなただでさえおびえてるんだから、不安をあおるようなこといっちゃ。それに、わたしはこの部屋にとどまったほうがいいと思うわ」
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
本日夕方ごろにもう1話投稿予定です。




