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3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その11

 俊介の言葉も聞かずに、里音はだぼだぼのそでをパタパタさせて走って行ってしまいました。俊介は頭を抱えます。


「ああもう、いったいなにを考えてるんだよ、里音ちゃんは! 使いかたも全然わからないのに、どうしろっていうんだよ」

「でも、使いかたは教えてくれたじゃない。危なくなったらその本を開けばいいんでしょ? きっと大丈夫よ」


 すずしげな顔でいう美緒を、俊介は目を丸くしてから見つめます。


「美緒ちゃん、すごいね。なんていうか、度胸があるっていうか、その……」


 うまくいえずに、俊介は口ごもってしまいました。サイドポニーをゆっくりなでて、美緒はいたずらっぽく笑いました。


「そうかしら。でも、ありがとう。さ、それじゃあわたしたちも身を隠しましょう。まずはこの教室から出ないと、またへんなやつらがおそってきたら大変だわ。みんな、行くわよ」


 低学年の子たちに、美緒が元気よく声をかけました。みんなさっきまでめそめそしていたはずなのに、美緒に声をかけられるとぴたりと泣き止み、立ちあがったのです。俊介はますます目をまんまるくしていますが、白紙の本を見ているうちに、あることを思い出しました。


 ――そうだ、おーい、花子、応答せよ――


『応答せよって、なによそのいいかたは。まあいいわ、いったいなんの用?』


 ――なんの用って、だいたいお前今までどこにいたんだよ――


 美緒のあとを追いながら、俊介はテレパシーで花子に問いかけます。


『そりゃあ、美緒ちゃんにとりついたままじっとだまってかくれてたわ。こんな怖いおばけ屋敷、ゆうれいのわたしだって入りたくないもの』


 ――なんだよそりゃ。手助けしてくれたっていいのにさ、自分だけかくれてるなんて、ずるいぞ――


『そんなこといっても、どうしようもないじゃないの。それとも美緒ちゃんのたましいの奥までとりついて、美緒ちゃんをあやつったほうがよかったの?』


「そんなことしたらただじゃおかないぞ!」


 突然俊介がさけんだので、みんなびくっと俊介をふりかえりました。美緒もびっくりしたのか、その場に固まっています。


「あ、いや、ごめん、独り言です……」

「もう、驚かさないでよ。俊介君、なんだか今日は変よ。独り言ばかりいって。ぼーっとしてないで、ちゃんとまわりに気を配らないと、また化け物がおそいかかってきても知らないわよ」


 美緒に冷たい視線を向けられて、俊介はがっくりと肩を落としました。


『あらら。朝も注意したのに、また声に出すなんて。あんたって学習しないのね』


「なに……」


 あわてて口をふさいだので、美緒たちは気づかずに先へ進んでいます。多目的教室のとびらを開けて、みんなぞろぞろとろうかへ出ていきます。俊介はほっと胸をなでおろして、テレパシーに集中しました。


 ――とにかく、お前に聞きたかったのは、この本が危ない本かどうかってことなんだ。というかこの本を開いたらいったいなにが起きるんだよ――


 俊介は白紙の本を指さしてからたずねました。


『どれどれ、見せてみて。ああ、白紙の本ね。白紙の本……あーっ!』


 花子がすっとんきょうな声をあげたので、俊介は思わず飛びあがってしまいました。もし口を押さえていなかったら、きっとまた悲鳴をあげていたことでしょう。俊介はテレパシーで花子に抗議します。


 ――びっくりするだろ、いきなりテレパシーで大声出すなよ! ただでさえ美緒ちゃんに怪しまれて、変なやつって思われそうなんだから。で、いったいこの本はなんなんだよ――


 花子が答える前に、子供たちのギャーッというさけびが聞こえてきたので、俊介はついに悲鳴をあげてしまいました。


「うわわわわぁっ!」

「みんな、走って! 足をつかまれないように、早く!」


 美緒の鋭い声に、俊介も我に返りました。足元を見ると、いつのまにかにょきにょきっと、何本もの手が生えてきて、足をつかもうとしているのです。俊介は飛びあがり、ゲシゲシッと手を足で踏みつけまくりました。


「もうやだよぉ! お姉ちゃん、怖いよ!」


 子供たちが泣き出しました。それを見た美緒は、パステルグリーンのワンピースがめくれるのも気にせずに、足元の手たちを思いっきりけり飛ばしていきます。怒りで顔は真っ赤になっています。しかし俊介は、美緒の怒り狂った顔ではなく、美緒の足に、そしてめくれあがるワンピースにくぎづけになってしまいました。


「このっ、このっ、こんな小さな子たちをっ、つかまえようとするなんてっ! この子たちは絶対守るんだから!」


 美緒の迫力に押されたのか、足をつかもうとしていた手たちは、みんなふるえあがっています。美緒がそのすきに、子供たちを誘導します。


「なにしてるの、俊介君も早く!」

「あ、ごめんよ美緒ちゃん」


 俊介はどぎまぎしながら美緒のあとを追いました。そうしながらも、ワンピースがめくれたときに見えたものを、頭にしっかりと焼きつけていきます。


『ねぇねぇ、何色だったの?』


 ――ピンクだった。ピンクの、水玉――


「って、しまった!」


 俊介がまたも大声をあげます。しかし美緒は子供たちを誘導するのに集中しているので、そんなことには気づいていません。花子が軽蔑したようにテレパシーでいいました。


『あーあ、美緒ちゃんはあんなにがんばって子供たちを守ろうとしてるのに、この男ときたら……。あとで里音ちゃんにチクっておくわね』


 ――ちょっと、やめろよ! そんなことされたら、ぼくもう完全に変態あつかいされるに決まってるじゃないか――


『だって事実じゃないの。あー、やだやだ。男ってのはみんなエッチなけだものね』


 バカにしたような花子の口調に、俊介はぐぬぬっと歯がみしました。


 ――そんなことより、さっさと教えろよ――


『えっ、なに? 美緒ちゃんのパンツは見たんでしょ。これ以上なにを知りたいのよ?』


 ――違うよ、そういうことじゃなくて、さっきの話だよ。白紙の本の話! いったいこの本はなんなんだ? どんな効果があるんだよ――


『あ、その話ね。そうそう、わたしその本には苦い思い出があるのよ。それは――』


 再び子供たちのギャーッというさけび声です。びくっと固まる俊介ですが、目の前の光景を見て、同じようにギャーッと悲鳴を上げてしまいました。


いつもお読みいただきありがとうございます。

明日は2話投稿予定です。

とりあえずお昼ごろとだいたいいつもの時間あたりを予定しています。

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