3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その9
「怖がってるの? って、そうに決まってるじゃない! だってこんなに泣きわめいてるんだよ」
わめきちらす子供たちを、美緒は必死になだめました。俊介もそれに加勢します。花音はわけがわからないといった顔で、二人を見ていました。
「だって、あたしはいっしょに遊んでただけだよ。この子たち、朝一番に学校に来て、みんなで追いかけっこしてたから、あたしも仲間に入れてもらっただけだよ」
子供たちをあやす手を止め、美緒があぜんとした表情で花音を見かえします。里音がふうっとため息をついて、美緒にいいました。
「むだよ、そんなこといっても。花音の考えてることとか、感覚とかは、普通の人間にはわからないわ。生粋のトラブルメーカーで、楽しいことを見つけたら、まわりがどうなろうと関係なく自分勝手に動いて、まわり全部をまきこんでいくんだから」
「えー、でもそれはお姉ちゃんだって同じじゃん。あたしにだまって、勝手に人間界でいろいろ遊んで、人間のお友達まで作ってるなんて、ずるいわ。鬼ごっこに飽きたからって、ほかの遊びしちゃだめだよ」
あきれたような花音の口調に、里音は目をむきました。
「鬼ごっこなんて知らないわよ! あんたが勝手にわたしをまきこんだだけじゃないの! それにあんただってさっき、魔界ドロケーに飽きたっていってたじゃないの」
「あたしはいいのよ。でも、お姉ちゃんはダメなの! あたしと先に遊んでたのに、人間界でいろいろ楽しいことしてたなんてずるいわ。こうなったらママに、人間のお友達を作ってたことバラしちゃうから」
うっと里音はひるみましたが、すぐに強気な口調でいいかえしました。
「そんなのあんたを捕まえれば、どうにでも言い訳できるわよ! それどころか、全部チャラにできるわ! さあ、おとなしく捕まりなさい!」
またもや里音は本を出現させました。『アクマールちゃんのジ・ゴ・クッキング』です。花音の目の前に、メイド服姿のアクマールが現れます。味見の途中だったのでしょうか、手にはお玉と鍋のふたを持っています。
「最近よく呼び出されるわねぇ。まあいいわ。……それにしても、今回の食材は結構手強そうね」
お玉と鍋のふたを、剣と盾のように構えて、アクマールは花音を油断なく見つめました。花音もぴょんぴょんっとその場で飛びはね、八重歯をむき出しにして笑います。
「へぇ、今度はアクマールちゃんか。一度遊んでみたかったのよね。さ、どっちが料理されるか、クッキングバトルといきますか!」
フッと花音のすがたが消えました。アクマールがスカートのフリルから、大量のナイフとフォークを取り出し、飛ばしまくります。黒い光に包まれた足で、花音はそれを踊るようにけり飛ばしていきます。パキペキンッと甲高い音とともに、ナイフとフォークは粉々に砕かれていきます。アクマールの攻撃を防ぎながら、花音はじょじょに距離をつめていきます。
「さあ、それじゃあそろそろこっちの番ね」
花音の言葉を聞いて、アクマールが鍋のふたを左につきだしました。花音のけりが鍋のふたを粉々に破壊します。そのまま空中でくるくるっとまわって、花音がまわしげりをお見舞いします。
「これでも召し上がりなさい!」
花音のけりをうしろに飛んでかわし、アクマールが小ビンを投げつけました。花音はぐるんっとさらにまわって、小ビンを足げりで砕きます。そのとたん、里音がさけび声をあげました。
「げっ、あれは! みんな鼻をふさいで!」
砕けた小ビンから、もわっと黒いけむりが立ちのぼったのです。アクマールが勝ち誇ったように笑います。
「地獄の黒コショウよ、さあ、くしゃみ死にしなさい!」
「ホントは味わいたいけど、えんりょしとくわ!」
花音が突風のように、息を一気にはきだしたのです。黒いけむりはもわっとアクマールにおそいかかりました。いくら慣れているとはいえ、こんな大量の地獄の黒コショウをあびたら、アクマールもくしゃみせずにはいられませんでした。
「ま、まずい、ふぁ、ふぁ……ふぁぁぁっくしょぉぉいっ!」
アクマールがとてつもない迫力のくしゃみをします。そのすきにネコのような俊敏さで、花音はアクマールのとなりへ移動します。黒コショウのけむりをよけて、すばやくアクマールの首筋にかみついたのです。
「しまった、アクマール!」
里音がさけびますが、アクマールのからだは赤い光に包まれたあとでした。花音がぷはっと小さく息をつき、アクマールの首筋から離れます。
「アクマール、しっかりして!」
アクマールがぐりんっと里音に顔を向けました。不気味なその動きに、里音は固まってしまいます。黒かったはずのアクマールの目が、血のような赤色に染まっています。
「まずいわ」
里音があわてて『アクマールちゃんのジ・ゴ・クッキング』を閉じましたが、アクマールのすがたは消えません。ぶんぶんっと本をふりまわしますが、アクマールは全くダメージを受けていませんでした。花音がきゃははと笑います。
「ダメダメ、そんなことしてももう遅いよ。アクマールちゃんにあたしの牙から魔力を注入したから、もうアクマールちゃんはあたしのお友達。本を閉じようがなにをしようが、あたしが術を解除しない限り消えないわ」
花音の言葉通り、アクマールは里音をにらみつけてから、ナイフとフォークを飛ばしてきたのです。里音は『アクマールちゃんのジ・ゴ・クッキング』をほうり投げて、別の本を出現させました。分厚い本の表紙には、どくろをかぶったこわもての男が描かれています。
「魔人料理長、出番よ!」




