3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その7
「ふうっ、ずいぶんと派手に吹き飛ばしたわね。我ながらすごい威力だわ」
俊介たちも、おそるおそる顔を上げて、うわっと目を疑いました。かろうじて階段は無事だったようですが、そこかしこにガラスが飛び散っています。
「なんでガラスが? あ、もしかして」
俊介は急いで階段をかけあがり、上の階をのぞきこみました。
「やっぱりだ、窓ガラスが全部割れてる!」
どうやら階段だけでなく、二階まで風に巻きこまれたようです。ガラスはすべて砕けて、赤黒い月の、不気味な光が差しこんできています。しかし、さっきまでそこにいたはずの先生は、どこにも見当たりません。ただ、めちゃくちゃに折れ曲がっためがねが転がっているだけでした。
「どうせならガラスも全部吹きとばして、きれいにしたかったけど、まあしかたないわね。さ、行くわよ。花音はきっと二階にいるわ」
里音にいわれて、まだぼうぜんとしている美緒もうなずきました。ガラスを踏まないように気をつけながら、三人は俊介のところまでのぼっていきます。
「さあ、ここからが本番よ。花音を見つけてとっちめなきゃ」
四人は二階のろうかをどんどん進んでいきました。どうやら魔界のおばけ屋敷になったとはいえ、基本的なつくりはもとの学校と同じで、変わっていないようです。まあ、窓ガラスが全部割れているので、とんでもなく荒れた学校にしか見えませんが……。
「いったいどこにいるのかしら。あんたたちもちゃんと探してね……って、どうしたのよあんた、なんでさっきからだまってるの?」
多目的教室の窓の中に顔を向けたまま、固まっている俊介を見て、里音が首をかしげました。俊介は言葉の出し方を忘れたかのように、口をパクパクさせながら多目的教室の中を指さしました。
「きゃあああっ!」
耳をつんざくような悲鳴とともに目に飛びこんできたのは、逃げまどう小さな子供たちと、追いかける数々の化け物たちだったのです。
「なんだよ、ありゃあ!」
全身紫色で、背が九十度に曲がっているのにとんでもないスピードで動くおばあさん、口が耳まで裂けて、それを全開に広げて笑っている女の人。目がギラギラと、まるでライトのように光っているベートーベンに、赤と青のマントとタイツを着て、狂ったように笑っている男の人。それらはすべて、学校の怪談をそのまま現実に呼び出したかのような化け物たちばかりでした。
「ほらほら、ドロボウさんたち、早く逃げないとつかまっちゃうよ! 魔界ケーサツは捕まえた子には容赦しないよ」
きゃははという笑い声が中から聞こえてきました。里音が目の色変えてどなりました。
「見つけたわよ、花音!」
ガララッと多目的教室のとびらを開けて、里音が中へ飛びこんでいきました。俊介たちもあとに続きます。
「わっ、なんだよここ、多目的教室じゃないの?」
そこは俊介たちが知っている多目的教室ではありませんでした。外から見たときは普通の教室二つぶんぐらいだったのに、入ってみると体育館ほどの広さがあります。机といすが散乱していて、化け物たちがそれを吹き飛ばしながら、子供たちを追いかけまわしているのです。奥のほうには鉄格子でできた牢屋があり、中で子供たちが泣きさけんでいます。
「おっ、新たなチャレンジャーが来たみたいね。いっしょに『魔界ドロケー』しましょ」
牢屋のとなりで、にやにやしている女の子が手をふりました。ふんわりした赤みがかった髪に、黒のショートパンツ、それに白いノースリーブのシャツは、なんとも動きやすそうなかっこうです。里音が声を荒げました。
「花音! あんたいったいどういうつもりよ!」
「どういうつもりって、遊んでるだけよ。もちろんお姉ちゃんもいっしょに遊ぶわよね。鬼ごっこの続きでもいいし、この子たちといっしょに、魔界ドロケーしてもいいわよ」
すました顔でいう花音でしたが、里音は無視して手を宙にかざしました。里音の手のひらが赤く染まり、警察官の絵が載った本が現れました。『妖怪ポリスマン』と題名が書かれたその本を開き、里音がどなります。
「さあ、妖怪ポリスマンたち、あいつらみんなまとめて捕まえなさい!」
逃げる子供たちと追いかける化け物たちの間に、いきなり警察官たちが現れました。花音が目を輝かせます。
「わっ、本物の妖怪ポリスマンだ! まさか魔界ドロケーに参加するなんて、すごいすごい!」
「ほら、今のうちに、あんたたちはわたしのうしろにかくれてなさい!」
里音が逃げてきた子供たちにいいました。みんな里音のうしろにかくれて、警察官を見あげました。
「うわぁぁんっ!」
そのすがたを見て、逃げてきた子たちがみんな泣き出してしまいました。どの警察官たちも、般若のような形相をしていたのです。手にはとげだらけの巨大な手錠を持っています。
「こいつらは魔界の警察よ。あんな化け物たちなんてすぐに捕まえちゃうんだから!」
里音の言葉通り、妖怪ポリスマンたちは、いっせいに化け物たちを押さえつけていきました。
「わぁ、すごいわ、本物の大取物を見られるなんて。そうそう、やっぱり魔界ドロケーはこうでなくっちゃね」
奥ではしゃいでいた花音は、八重歯をむき出しにして笑いました。里音と同じ切れ長の目を、すーっと細めて、妖怪ポリスマンたちをながめています。
「ふんっ、そうやって余裕かましてるのも今のうちよ! さあ、妖怪ポリスマンたち、あの子もとっつかまえなさい!」
あらかた化け物たちをとらえた妖怪ポリスマンたちは、今度はいっせいに花音に飛びかかったのです。花音はにやっとしてから、飛びかかってきた妖怪ポリスマンをぴょんっと楽々飛び越えたのです。そのまま頭を踏んずけて、くるりと宙返りします。
「さ、あたしを捕まえられるかしら?」




