3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その5
「なによあんた、なにかあたしに文句でもあるわけ? って、あんた、このあいだの!」
アクマールが声をあげました。それが引き金になったのか、美緒も大声でまくしたてました。
「あーっ! 思い出した! そうよ、わたし風邪でマスクして学校行ったとき、あなたに会ったことあるわ! 里音ちゃんに影がなかったから、こっそり放課後つけてて、変なお店に入って。でも、そのあとどうなったんだっけ? うう、頭が痛むわ……」
頭を押さえる美緒を見て、里音があちゃーとつぶやき首をふりました。
「あーあ、やっぱり記憶をしっかり吸い出してなかったから、ちょっとだけ残っちゃってたのね。まあいいわ。今度こそあとかたもなく……」
俊介が口を一文字にして、里音をにらみつけています。里音も負けじとにらみかえして、どすのきいた声でおどしかけました。
「なによあんた、美緒のことになるとすぐにつっかかってきて。ホント生意気なドレイね!」
「ドレイじゃないって、何度いったらわかるんだよ!」
二人が険悪なムードになってしまったので、俊介がせおっていた男の子がついに泣き出してしまいました。美緒が俊介の背中にまわって、男の子をあやすようになでつけます。俊介はバツの悪そうな顔で美緒をふりかえりました。
「ごめん、美緒ちゃん」
「ううん、大丈夫。この子もきっと、びっくりしちゃっただけよ。それより、これからどうするの?」
気がつくといつの間にかアクマールのすがたは消えていました。里音が本を閉じたからでしょう。里音は少し考えこんでいましたが、やがて顔をあげて二人を見ました。
「とにかく花音を探しましょう。ここから脱出しようにも、本を開けた張本人を探さないと封印しようがないわ。きっとこのおばけ屋敷は、花音の魔力でこんなにも大規模になっているんだろうから、逆にいえば花音を倒せば封印できるってことよ」
「でも、その花音ちゃんはいったいどこにいるのさ。あ、そうだ、里音ちゃんは姉妹なんだし、なにか居場所がわかるとか、そんな能力は持ってないの?」
「はぁ? そんなわけわからない能力があるはずないでしょ。あんたわたしが吸血鬼だからって、なんでもできると思ってるんじゃ……、あ、そうか、魔界図書館の本を使えば」
里音は再び右手を天にかかげました。手のひらが赤く染まって、なんだかかわいらしい絵本が出てきたのです。表紙には小さな子犬の絵が載っていて、『犬のおまわりさん』と題名が書かれています。美緒がぱぁっと笑顔の花を咲かせました。
「わぁ、かわいい! 里音ちゃん絵本が好きだったのね。今度読み聞かせてあげるわ。でも、不思議な文字ね。いったいなんて書いてあるの?」
里音はすでに反論するのも疲れたのか、はぁっとため息をつくばかりでした。かわりに俊介が答えました。
「そうか、美緒ちゃんは魔界図書館の利用者じゃないから、文字が読めないんだった。ぼくが読んであげるよ。えーっと、『犬のおまわりさん』だって? う、うぷぷ……」
必死で笑いをこらえる俊介を、里音は怖い顔で見あげました。俊介がヒッと小さく息をのみます。
「あんたもわたしのことを、どうやら幼稚園児かなにかみたいに思っているみたいね。いいかしら、これは『犬のおまわりさん』じゃないわよ。『魔犬のおまわりさん』って書いてあるでしょ」
本をつかんでいた手をはなして、里音が表紙を二人に見せました。どうやら里音の指でかくれて『魔』という文字が見えていなかったようです。ですが、正式な題名がわかっても、俊介はにやにやとバカにした笑いを浮かべています。
「いやいや、そりゃ『魔犬のおまわりさん』って書いてあるけどさ、でも、どっちにしたってこんなかわいい絵本、いったいなんに使うのさ? もしかして里音ちゃん、出す本を間違えたんじゃないの?」
「あんた、だまって聞いてりゃいいたい放題いってくれるわね! いいわ、じゃあ使いかたを見せてやるわよ」
里音が『魔犬のおまわりさん』を開きました。とたんにさっきまでかわいい子犬だった表紙が、リアルな、そして犬というよりオオカミのような獰猛なすがたに変わったのです。それどころか、『魔犬のおまわりさん』自体が巨大な犬へとすがたを変えました。俊介はひぃいっと悲鳴を上げてあとずさります。美緒もぱっちりした目をさらに開いて、魔犬の牙にくぎ付けになっています。
「ほら、これでわかったかしら? 出す本を間違えてなんていなかったでしょ。さ、それじゃここからが本番よ。魔犬のおまわりさん、花音の居場所まで案内してちょうだい」
魔犬がワゥオォーンッと雄たけびをあげました。そのすがたはどう見てもオオカミそのものです。ですが、魔犬はその場から全く動かず、じっと俊介を見あげています。その様子がおかしかったのか、背中にせおっていた男の子が、魔犬にきゃっきゃと手をふりました。
「あれ、ねえ、どうしたの? 里音ちゃん、案内してくれるんだよね?」
「おかしいわね。どうして案内しないのかしら。普通なら探したい人物の名前をいうだけで、そいつがいるところまで案内して、ついでにそいつをやっつけてくれるはずなのに。……まさか、花音のやつ、なにか細工して、居場所がわからないようにしてるのかしら」
「そんなこともできるの?」
驚く俊介に、里音は首をたてにふりました。魔犬の背中をなでつけると、もとの絵本である、『魔犬のおまわりさん』へと戻りました。里音は『魔犬のおまわりさん』を閉じて、くやしそうに答えます。
「もともとあの子は、吸血鬼一族の中でもずば抜けて魔力が高い子だったから、本気を出せばそれくらいわけないでしょうね。でも、やっかいね。これじゃあ地道におばけ屋敷をまわって、花音を探すぐらいしかないわ」
「ええっ! あんな人体模型やミイラ男たちがいるのに、おばけ屋敷を探し回るの? やだよ、怖いじゃんか!」
「しかたないじゃないの。手がかりがないんだし、さっきみたいに笑い声でも聞こえてきたら、居場所がわかるかもしれないけどさ」
アハハと誰かが笑いました。里音が目をむき、あたりを見まわしました。
「誰よ今笑ったの! 人が真剣な話をしてるってのに」
「いや、ぼくたちは誰も笑ってないよ。ていうか、ねえ、それこそ今の声、花音ちゃんだったんじゃないの? だって女の子の笑い声だったし」
俊介にいわれて、里音は耳をすましました。上のほうから、さっきの女の子の笑い声が聞こえてきます。それとともに、何人かの泣きさけぶ声も。里音は八重歯をむき出しにして笑いました。
「上だわ! 今度こそ見つけた! さ、行くわよ!」
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