3冊目 『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』 その3
「だめよ、こんな危ないところに一人で入るなんて、危険すぎるわ」
「危険すぎるわって、わたしなら大丈夫よ。それに封印するのはわたしにしかできないんだから、あんたはそこでおとなしく待ってなさい。さ、俊介、行くわよ」
美緒はぶんぶんっと首を横に振りました。
「いやよ、わたしも行く! 俊介君が行くなら、わたしだって」
「分からず屋ね、引っこんでろっていってるのよ!」
里音と美緒がバチバチと火花を飛ばしてにらみ合います。俊介はどうすることもできずに、おろおろするしかありません。と、そのときおばけ屋敷の中から、男の子の悲鳴が聞こえてきました。それとともに女の子の笑い声も聞こえます。その声を聞いたとたんに、里音の顔色が変わりました。
「まさか、この声」
里音の顔を見て、俊介はヒッと悲鳴をもらしました。目をらんらんと輝かせて、八重歯をむき出しにして笑っているのです。まるで獲物を前にした肉食獣のような笑顔で、里音はおばけ屋敷をにらみつけました。
「なるほど、なんで学校に本を持ってきたのか、しかもそれを誰が開いたのか疑問に思っていたんだけど、こんなあっさり謎が解けるなんて。全部あんたのしわざだったのね、花音!」
怒りにふるえている里音とは対照的に、美緒は顔を真っ青にしています。
「大変だわ、きっと誰かがあの変な建物に閉じこめられているのよ、早く助けないと」
「わかってるわよ、ここまで大事になったら、ママにばれないようになんて絶対無理だし、こうなりゃやけだわ! 絶対花音のやつを捕まえて、全部あいつに責任を押しつけてやるんだから。そのためにもまずは、これ以上目撃者を増やさないようにしないとね」
里音は右手を頭上にかかげました。手のひらが真っ赤に色づき、次の瞬間手に画集のような本を出現させたのです。表紙にはおばあさんのような、女の人のような、不気味なつぼが描かれていました。美緒が口をあんぐり開けてそれを見ています。
「さあ、みんなだまされなさい!」
かけ声をあげて、里音は本を開きました。開いたページに描かれた絵を見て、俊介は目を疑いました。
「えっ、なんで学校が?」
魔界の画集のはずなのに、なぜか俊介たちの通っている江上小の校舎が載っていたのです。しかし、その本はさらに俊介の度肝を抜いたのでした。
「わわっ、巨大化した?」
ページが一気にはがれ、里音たちの目の前で巨大化したのです。はがれたページはどんどん広がり、やがて学校中をおおいかくしたのでした。もはや言葉も出ない俊介と美緒に、里音は得意そうに説明しました。
「『魔界のだ魔し絵本~本物どーれだ~』よ。人間界にも、見方によって違うものに見える、だまし絵っていうのがあるでしょ」
二人はぼうぜんとして言葉を失っていましたが、里音は構わず続けました。
「この本はそのだまし絵で、空間全体をおおいかくしちゃうのよ。もし今おばけ屋敷を外から見たら、いつもどおり学校の校舎が見えるはずよ。しかも魔界の『だ魔し絵』は、単なる錯覚にとどまらず、本当にそのだまし絵の空間を創りあげちゃうのよ」
「え、えーっと、つまり、どういうこと?」
ようやく我に返ったのか、俊介が目をぱちくりさせてたずねました。里音はため息まじりにつづけました。
「つまり、外の人が校門をくぐって学校に入ろうとすると、代わりにだまし絵の空間へ入っちゃうってこと。あ、大丈夫よ、効果はざっと半日程度だから、効果が切れたらみんなだまし絵の空間から出られるわよ」
「こんな魔法みたいなことができるなんて……。里音ちゃん、あなたはいったい何者なの?」
美緒に聞かれて、里音は肩をすくめました。
「今はそんなこと気にしててもしかたないでしょ。とにかくまずは花音をとっつかまえるのが先よ」
「なんだか全然わけがわからないけど、あなたはただのかわいい女の子じゃなかったのね。俊介君もそのこと知ってたんだ」
美緒の冷たい視線が突きささり、俊介は思わずあとずさりました。あわてて弁明しようとしますが、背伸びした里音に思いっきり耳を引っぱられてしまいました。
「ちょ、痛い痛い痛い! やめて、もう何回もいってるけど、耳を引っぱるのやめてよ! ちぎれるだろ!」
「あんたの耳がどうなろうと知らないわよ。それより行くわよ。ここにいたってどうにもならないだろうし、『悪魔も怖がる魔界のおばけ屋敷』は、封印されない限り外には出れないわ。美緒、あんたもついてきなさい」
里音に呼ばれても、美緒は眉間にしわをよせたままじっとしていましたが、やがて静かにうなずきました。
「わかったわ。でも、あなたが一体何者なのか、ちゃんとあとで説明してもらうからね。あと、俊介君とどんな関係なのかも」
「まあいいわ、別に。どうせまた忘れさせるんだし」
俊介がぎろっと里音をにらみましたが、すぐに里音ににらみかえされて視線をそらしました。ふんっと鼻息を荒くして、里音はおばけ屋敷と化した城へと向かっていきました。俊介たちも急いであとを追います。しかし、歩く間もなく、巨大な城門がグギギッと開き、中からぬめぬめとしたとてつもなくでかい舌が飛び出てきたのです。
「ひゃっ! なにあれ!」
里音が悲鳴をあげましたが、里音がわからないものを俊介たちがわかるはずもありません。三人はすぐに舌にからまれて、ギュウンッと勢いよく城の中へ吸いこまれていったのです。
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