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2冊目 『アクマールちゃんのジ・ゴ・クッキング』 その7

「俊介君、里音ちゃんはいったい何者なのよ! いっしょに暮らしてるっていってたけど、いったいどういう関係なの!」


 いきなり美緒ににらみつけられて、俊介はしどろもどろになってしまいました。


「あ、いや、その、違うんだよ、美緒ちゃん、この子はその、無理やりぼくの家に転がりこんできて、あっ!」


 俊介はあわてて口をふさいで、盗み見るように横目で里音を見ました。


 ――まずい、もし正体をばらしたりしたら、どんなひどい目にあわされるかわかったもんじゃない。でも、言い訳しないと、美緒ちゃんに嫌われちゃうし、ああ、どうしよう――


 一人で悩ましげにくねる俊介を無視して、里音はあっけらかんに答えました。


「今見たとおりよ。わたしは吸血鬼で魔界図書館の司書よ。つまり魔界の住人ってわけ」


 里音がいきなり正体をばらしたので、俊介は「へっ?」と情けない声を出しました。花子も信じられないといった顔で里音を見つめています。


「どうして、里音ちゃん? 正体が知られたら、きみのお母さんからものすごく怒られるっていってたじゃないか」

「怒られるどころか、たぶん殺されちゃうわよ。でもそんなこと心配する必要はないわ。ていうか俊介、あんたまで忘れちゃったの? わたしは吸血鬼だけど、普通の吸血鬼とはわけが違うって、前に教えたじゃない」


 そういって里音は、じゅるりと舌なめずりしました。八重歯をむき出しにする里音を見て、俊介はあっと声をあげました。


「まさか、美緒ちゃんの記憶を吸いとるつもりか!」

「えっ、どういうこと?」


 目をむく美緒に、里音がじりじりと近づいていきます。しかし、その前に俊介が立ちはだかりました。


「あんた、どういうつもりよ? ドレイのくせに生意気ね!」

「うるさい、だいたいぼくはドレイなんかじゃないよ! 里音ちゃんこそひどいよ、ぼくたちみんな、美緒ちゃんに助けてもらったようなものじゃないか。それなのに、美緒ちゃんの記憶を吸いとろうとするなんて、いったいなにを考えているんだ!」


 俊介の言葉に、美緒は目を丸くしています。サイドポニーの長い髪を、両手でぎゅっとだきよせてから問いかけました。


「俊介君、いったいどういうことなの? 記憶を吸いとるってどういう意味? だってこの子、吸血鬼なんでしょう? 吸血鬼なら、吸うのは相手の血なんじゃ」

「あんたも俊介と同じこというなんて、そろいもそろっておバカなんだから。いいわ、もう一度説明してあげるけど、わたしたち魔界図書館の吸血鬼一族は、みんな血の代わりに、記憶や感情を吸いとるのよ。それで、吸いとった記憶や感情を本に封印して、その本を他の魔界の住人に貸し出してるの。まあ、それ以外にも他の魔人が書いた本とか、いろんな本が魔界図書館には収められているんだけど。でもそんなことはどうだっていいか。だってあんた、わたしに記憶を吸われて、全部忘れちゃうんだから」


 里音が美緒に飛びかかろうとしますが、俊介が両手を広げて美緒をかばいます。里音がじれったそうに問いただしました。


「ちょっとあんた、いったいどっちの味方なのよ」

「美緒ちゃんの味方に決まってるだろ! この恩知らず! 美緒ちゃんに助けてもらってたくせに」

「いや、それはあんたも同じじゃないの。それにあんた気がついてなかったかもしれないけど、わたしのほうが先にその子を助けてたのよ」

「えっ?」


 俊介が目を丸くしました。里音はふうっとため息をつきました。


「やっぱりね、気がついてなかったんだ。美緒っていったっけ? あんた、わたしたちをずっとつけてきてたでしょう?」


 里音にいわれて、美緒はぷいっと顔をそむけました。里音はふふんと鼻で笑って続けます。


「どうしてか知らないけど、その子わたしのことを普通じゃないって気がついたみたいなのよ。だから放課後わたしたちが校舎を見てまわるっていったときに、先に帰るふりをしてわたしたちをつけてきた。で、わたしたちがレストラン・アクマールに入ったから、この子も、のこのこ入ってきたわけよ。だいたい思い返してごらんなさいよ。アクマールとの戦いで、わたしが使った本は、アクマールを狙い打ちにするっていうよりも、動きを止めたり攻撃を防ぐ本だったでしょ」


 里音にいわれて、俊介は『魔界の呪い大全集』のことを思い出しました。確かにあの本は、どちらかというとサポート的な力を持った本だったことに気がつき、俊介は気まずそうにうつむきました。


「どうしてそんな回りくどい本を使ったか、よく考えなさい。わたしがその子のことも守っていたっていう証拠でしょ。それなのに恩知らずとは、よくいったものよね」


 冷たくいい放つ里音に、俊介はなにもいえずにくちびるをかみました。里音は勝ち誇ったように続けました。


「さ、納得したならそこをどいてもらおうかしら。さっさと記憶を吸いとらないと」


 しかし俊介は、まだ美緒をかばうように手を広げたままでした。チッと短く舌打ちすると、里音は俊介の耳元で、小声でささやいたのです。


「写真ばらすわよ」


 ウッとひるむ俊介の手をくぐりぬけ、里音は美緒に飛びかかったのです。パステルピンクのワンピースと、だぼだぼのエプロンドレスがからみあいます。抵抗する美緒を抑えながら、なんとか首筋までよじのぼると、里音はがぶりとかみつきます。美緒がくらりとその場にへたりこみました。


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