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2冊目 『アクマールちゃんのジ・ゴ・クッキング』 その2

 転校生恒例イベントの、質問攻めも無事に終えて、里音はすぐにクラスにとけこむことが出来ました。もちろんそれはうまくネコをかぶっているからですが、それでもクラスでいきなり暴れだしたりしなかったので、俊介はほっとしていました。


 ――でも美緒ちゃん、どうしたんだろう。あれから里音ちゃんのほっぺいじったりしないし、それどころかなんだかさけてるみたいだ。今日は風邪気味っていってたから、うつらないようにって思ってかな――


 帰りの会が終わり、みんなが帰っていくのをぼんやりながめながら、俊介は首をひねりました。最初の過度なスキンシップのあと、美緒は質問の輪からも外れて、観察するように里音を見ていたのです。考えこむ俊介の耳に激痛が走りました。


「いってぇ! 毎回毎回なにするんだよ! 耳引っぱらないでって、昨日もいっただろ」


 里音がグーっと背伸びして、俊介の耳をつかんでいたのです。カンカンになる俊介ですが、里音はすました顔でいいました。


「そんなことより、さっさと行くわよ。花子の話が本当なら、この学校にあるんだから」


 また耳を引っぱられそうになったので、俊介はあわててうしろにのけぞりました。


「おっと」


 俊介のうしろにいた、花子の半透明の手に触れて、からだがぞわぞわっとふるえます。俊介は思わず間の抜けた悲鳴をあげてしまいました。


「うひゃあっ!」

「アハハ、なにその悲鳴、おもしろーい!」


 赤い肩掛けかばんについた、たぬきのぬいぐるみをいじりながら、花子がバカにしたように笑います。俊介はくるりとうしろをふりかえり、花子をにらみつけました。


「ひどいよ、ビックリするじゃないか! うしろにいるなら声かけてくれてもいいじゃんかよ。ていうかどうして花子もいるのさ? 『トイレの花子さんの生態』は家に置いてきたはずなのに」

「そんなの簡単よ。今はあんたにとりついてるんだから、あんたについていくしかないでしょ」


 にべもなく花子が答えました。俊介の顔から血の気が引きます。花子はにやにやしながら続けました。


「そうよ、わたしはあんたにとりついてるんだから、わたしを怒らせると、もしかしたら呪われちゃうかもしれないわよ」


 ううっとあとずさる俊介の耳を、里音ががっちりつかみました。背伸びしながらも、ぐいぐい引っぱってくるので、俊介はまたもや悲鳴をあげます。


「やめてやめて、ちぎれる、ちぎれるって!」

「ちぎられたくないならさっさとついてきて! 花子に来てもらったのは、正確な位置を確認するためよ。ほら、他のクラスメイトに見つかったらめんどくさいんだから、さっさとする!」


 そうです、俊介たちが放課後も教室に残っていたのは、この学校のどこかに二冊目の本があると花子から聞いたからでした。里音が転校初日だったのもさいわいで、俊介は放課後里音に学校を案内するとみんなに説明していたのです。女子からは引いたような白い目で見られ、男子からはからかうような、そしてちょっぴりうらやましそうなまなざしで見られましたが、とにかくうまくごまかしたのです。けれども俊介は不服そうでした。


「あんた、なんでそんないやそうな顔してるのよ? せっかくこんなかわいらしい美少女と放課後デートできるってのに」

「自分で美少女っていうのはどうかと、あ、いや、なんでもないです」


 耳をつかまれそうになったので、俊介はあわててあやまりました。けれどもすぐにため息をついてしまいます。


 ――あーあ、美緒ちゃんといっしょに帰りたかったのにな――


 いつもは図書委員の仕事にかこつけて、うまく美緒と二人っきりになっていたのに、今日は里音のお守りという、とんでもなく面倒な仕事をかかえているのです。ため息ぐらい出るものです。しかし俊介はマスクすがたの美緒を思い出して、心配そうに顔をふせました。


 ――どっちにしても、今日は美緒ちゃんも図書委員の仕事はお休みさせてもらってたから、いっしょに帰ることはできなかったけど。美緒ちゃんも風邪気味だし、早く帰って休んだほうがいいんだ。でも、風邪気味でも、美緒ちゃんかわいかったな――


 パステルピンクのワンピースをゆらして、お友達とおしゃべりする美緒を思い出し、俊介はえへへと一人で笑いました。里音は気味悪そうに俊介を見ていましたが、やがて花子に小声で問いかけました。


「あんた、まさかホントに呪ったんじゃないでしょうね」

「えっ?」

「俊介よ、あいつ、さっきからため息ついたり変な笑いかたしたり、気味が悪いったらありゃしないわ」


 俊介をじっと見つめながら、ははーんと花子がいたずらっぽい笑顔を見せました。そしてなにごとか里音に耳打ちします。それを聞いて里音もにやにや笑いをうかべました。そんなことにはまったく気がつかない俊介は、考えごとを続けます。


 ――でも、美緒ちゃんが小さい子好きだったってのは意外だったな。そういえば将来の夢は保育士さんっていってたっけ。美緒ちゃんだったら、すてきな保育士さんになりそうだな。でも、国語の先生とかも似合うよな。美緒ちゃん本が大好きだし。美緒ちゃんのクラスかぁ、ぼくも美緒ちゃんに教わりたいよ――


「あっ、美緒じゃないの、どうしたのこんなところで?」

「えっ、美緒ちゃん?」


 顔を輝かせてから、俊介は里音のほうを見ましたが、美緒のすがたはどこにも見えません。ただ、プククと笑いを必死でこらえる、里音と花子がいるだけでした。はめられたということにやっとで気づいた俊介は、わなわなとこぶしをふるわせました。


「……ぼくを、だましたんだね……」


 怒りを爆発させないように、必死でこらえながら俊介がつぶやきました。けれどもそんなことは、里音も花子もまったく気づかず、ついに爆笑しだしたのです。


「アハハハハ、やーい、引っかかってやんのー!」

「ね、いったとおりでしょ、こいつすっごくわかりやすいわ。美緒ちゃんがいなかったときのあの顔ったら、アハ、アハハハハ!」

「二人とも、もう絶対許さないぞ! こら、待て! 今度はぼくが耳を引っぱってやるからな!」


 逃げ出す二人を、俊介は手をふりながら追いかけていきます。怒りで我を忘れているからか、俊介は気づきませんでした。三人のあとをこっそりつけている影に。ですが、その影も、里音が逃げる前に見つめていたことに気づかなかったのでした。


 ――あの子は、なるほどね。ちょっとからかってやろうかしら――


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