5話 タマと外の世界
宗教都市イョーグ、百獣共和国の首都からほど近い位置にあり、国の信仰の中心地である。町の中心には聖獣を祀る大聖堂と、それを取り囲むように各種族に対応した教会が存在する。爬虫類人や蛙人などは獣人であるか、虫人であるかの議論が絶えずされているが、大司祭の意向により彼らのための聖堂も少し外れたところに建築されている。
「着いたわね。タマ、疲れていないかしら?」
「はい、少し…」
無理もない、前の世界では住処で毎日ゴロゴロしていたのだ。一日中――と言ってもアジトを出て着いたのは昼間だが――ずっと歩く旅などしたことはない。タマは疲労困憊であった。
「何か食べますかな、良い店にご案内しましょう。」
この蛙人はハイラという名前で、医師だそうだ。この国の宗教に敬虔な姿勢を取っておかないと虫国の諜報員だと思われることもあるのでイョーグの蛙教会には何かにつけて通うようにしているらしい。虫人というのはヒトに近い上半身と虫の様な下半身をもった虫国(正式には魔国だそうだが)の民の総称なのだが、その国の王は竜人なのだ。蛙人や蛇人たちは竜人の類縁なのか、はたまた獣人と近縁なのかという議論は未だ結論が出ていない。故に彼等は両国に住み、それぞれの国に住んでいるために、諜報にはもってこいの種族であるとも言える。
「いや、お前の選ぶ店はどこも水をかけられる。あそこにしよう。」
「いらっしゃい、ご注文は」
「牛乳を、ぬる燗でお願い。」
「あ、同じの」
「虫はあるかい?」
「ええ、今日は蜘蛛人のが」
「卵は?」
「卵はちょっと…。」
「そうかい、じゃあ脚を一節、塩で」
「かしこまりました。」
料理が運ばれてきた。ご主人が使っていたような取っ手のついた器になみなみとと牛乳が注がれている。触れるとほのかに暖かい。そして蜘蛛人の脚は、ご主人が機嫌の良いの日に食べていたカニ…?に見える。とても美味しそうだ。
「あの、ブランシェさん。私もあれ食べたいんですけど…。」
「ダメよ。あなたは今からしばらくあの教会で過ごすのだから、肉の味を知ったら辛いわよ。」
「じゃあ出たら…。」
「そうね、教会で行儀よくいい子に過ごせたらあとはいくらでも食べさせてあげるわ。」
やった、と大きく喜ぶのはなんとなくいけない気がして尻尾だけで喜ぶことにした。
「それじゃ私は礼拝に行くのでこの辺りで。タマさん、また会える日を楽しみにしていますよ。」
と、ハイラは言うとそそくさと街の人波に飲まれていった。見渡すと色々な種族が往来している。同じ牛人でも上半身がヒトで下半身が牛のようなものと、ヒトの様な四肢を持ちながらも頭が牛のようなものとある。興味深く見回していると、迷子になるわよ。とブランシェに窘められた。
タマたちは飲食店を後に、猫人教会へと赴いたのだった。