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17.食中毒事件の取り調べ③

ナンバリングだけで管理しきれなくなってきたのでサブタイトル追加。

「大司教様!」

 いつの間にか集会室の扉が開いており、扉の前にはラピス大司教と彼女の手を取るグレン卿の姿があった。

 誰とはなしに叫び、全員で慌ててラピス大司教に礼をする。

 あれだけ派手に騒いだのだ。ジェイド司教の手綱を握っているボスに連絡行くのは当然だろう。


「突然おじゃましてすみませんー」

「すまんなぁ。どっっかの、だぁれかさんが? ここでアホやってるって教えてもらってなぁ?」

 おっとりとしたラピス大司教に対して、グレン卿は人懐っこい笑みを浮かべながらもどこか含みのある物言いだ。

 ジェイド司教は人を射殺せそうなほど鋭く聖騎士を睨みつけるが、視線を受けた当人は飄々と軽く受け流す。

 ジェイド司教と聖騎士グレン、二人の間で視線の火花が散った。

 部下の険悪な様子に気がつかないのか、はたまた気にしないのか、ラピス大司教がゆったりとした仕草でジェイド司教に向かって手招きをする。


「ジェイド、こちらにー」

「はっ」

 ラピス大司教の一声で飛んでいた火花が消え、ジェイド司教は忠犬よろしく素早く身を翻してラピス大司教の前に跪く。

 ラピス大司教は両手を腰にあて、仁王立ちでジェイド司教を見下ろす。柳眉を逆立てているにも関わらず、不思議と威厳を感じないのはぷくりと膨らませた頬のせいだろうか。

「ジェイドー、おいたはめっ、ですよ」

「も、申し訳ありません……!」

 取り調べ中のジェイド司教の横暴さを見た者全員が一連の行動とその変わり身の早さに顔を引きつらせた。

「うわぁ……。これは流石に引きます……」

 ジェイド司教の猫被りが判明したところで、誰もが呑みこんだ言葉をガブリエラが口にした。


「反省しているようなので、ゆるしますー。でも、あとできちんとおはなしをきかせてもらいますからね?」

「……はい、仰せのままに」

 ジェイド司教に返事に満足したラピス大司教が怒るポーズを解いた。

「では取り調べもおわったようなので、撤収いたしましょうー。ジェイド、シスター・コレットにちゃあんと謝ってくださいね?」

「…………」

 ジェイド司教が立ち上がり、シスター・コレットの元に歩みを進める。ラピス大司教の前で冷静さを取り戻したのか、毒気が抜かれた顔をしていた。

「……悪かった」

「へ……?」


 ジェイド司教はか細い声で謝罪の言葉だけ口にすると、すぐに背を向けて控えていた調査団の者たちに声を掛ける。

「上級聖職者及び貴族出身の修道女全員をリストにしろ。それから毒の分析を急ぐ。……では先に失礼致します、ラピス様」

 ジェイド司教はラピス大司教に一礼すると、足早に集会室を後にした。


 謝罪から退室までのあまりにスムーズな流れにぽかんとしていると、隣で立っていたシスター・コレットがへなへなと床にへたり込んだ。

「……っ」

 ジェイド司教がいなくなって、緊張の糸が切れたらしい。その場で泣き崩れてしまった。

 無理もない。自室から身に覚えのない毒が発見され、頭ごなしに恫喝されれば誰だって頭が真っ白になるに決まっている。


「怖かったでしょう、もう大丈夫よ」

 私がシスター・コレットの背中を擦って落ち着かせ、シスター・カトリーヌが自分のハンカチをシスター・コレットに差し出した。

「あ、ありがとう、ございます……」

 泣きじゃくりながらハンカチを受け取るシスター・コレットに、シスター・カトリーヌが項垂れる。

「シスター・コレット、貴女を少しでも疑ってしまってごめんなさい。同じ修道院の仲間を信じられないなんて、私、神の信徒失格です」

 シスター・コレットはふるふると首を振ってシスター・カトリーヌに必死に何かを伝えようとしていたが、しゃくり上げながらでは聞き取れなかった。

「とにかく、ここから出ましょう。立てそう?」

 ジェイド司教は出て行ったが、まだ調査団のメンバーは片付けなどで残っている者も多く忙しない。

 どこかで休ませた方がいいと判断して尋ねると、シスター・コレットはこくりと頷いた。


「聖女さまー」

 シスター・コレットに手を貸して立ち上がらせていると、ラピス大司教が聖騎士の手を借りながらゆっくり歩き出し、迷わず私の前で立ち止まる。

「聖女さま、先ほどはジェイドが失礼いたしました。部下の不始末はわたくしの不始末。どうかわたくしに免じて……」

「ひぃさん、聖女様はこっちや」

「あらー?」

 私がぎょっとしていると、ラピス大司教が頭を下げる寸前でグレン卿にシスター・カトリーヌのいる向きに角度をわずかに変えられた。

 ラピス大司教は首を傾げているが、周囲には目が見えないゆえの勘違いに映ったらしい。内心ほっと胸を撫でおろした。

 いや、そもそも私は聖女じゃないが。


「どうかそのまま、顔を上げてください。私もその、少々言いすぎましたし……」

 恥じ入るシスター・カトリーヌの言葉の最後の方は尻すぼみになっていた。

確かに身分の高い司教に一歩も引かなかった胆力といい、シスター・カトリーヌは穏やかで楚々とした聖女サマというだけではないらしい。


「そう言っていただけるとありがたいですー。それから、お茶会はまた後日に。今はシスター・コレットを気遣ってあげてください」

「は、はい!」

「それではグレン、まいりましょうー」

「はい、ひぃさん」

 三人で退室するラピス大司教に一礼する。

 足を引きずっているため出ていく足取りはゆったりとしたものだったが、調査団のメンバーを引き連れてラピス大司教が部屋から出て行った集会室の中は、嵐が過ぎた後のようだった。


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