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12.調査団の到着

 早朝、私は鳥の囀りで目を覚ました。

 起き上がって大きく伸びをすると、肺が空っぽになるまで息を吐く。


「おはようございます、聖女様!」


 私は声の方を見やり、目をしばたたかせた。そして目を擦ってから、もう一度同じ方向を見る。

「……ガブリエラ?」

「そうですよ!」

 私の前で腰に手を当てて胸を反らしている四頭身の小人に見覚えはないが、この甲高い声は間違いなくガブリエラのものだった。


「え、アナタ、何で伸びてるの?」

「聖女様が熟睡している間に女神様がご降臨されて、少しお力を分けてくださったんですよ!」

「……はい?」


 聞き捨てならない言葉に、私の片眉が吊り上がった。

「まぁ女神様は聖女様に完全憑依してらっしゃいましたし、覚えていらっしゃらないのも無理ないですよね~」

 私の幻覚からとんでもない言葉が飛び出し、私は片手でガブリエラの上半身を思いっきり掴んで締め上げる。

「あだだだだだ!!!!」

「嘘おっしゃいこの幻覚! 神降ろしのリスクくらい流石に私でも知ってるわよ」

 何せ神託や儀式での神降ろしでの後遺症が聖女の引退理由の一つに挙げられるくらいだ。

 それに引きかえ今の私は熱も下がり、昨日は熱で気だるかったのが嘘のようだ。空になった魔力もほとんど回復しており、むしろ体調はすこぶるいいと言える。


「あら、こっちももう治ってる」

 ふと自分の掌に視線を落とすと、指の切り傷が完全に塞がっていた。

 昨晩塗られた軟膏のおかげだろうか。軟膏を作ったのがコレットなら調合方法を聞いてみよう。


「だから、聖女様の身体の不調や傷も含めて全て女神様が~!」

「はいはい」

 この小人は二頭身から四頭身に姿が変わっても全く進歩がない。

 私はガブリエラを適当にあしらい、身支度を整え始める。今日の調査団の出迎えは動ける者全員で行うはずだ。


「それにしても……。調査団、随分と早い到着ね」

 恐らく昨日の件も調べられるだろう。

 倒れる人々、礼拝堂に響く呻き混じりの祈りの声。

 気を失ったシスター・カトリーヌの手を握った瞬間、どういう訳か秘跡が発動した。確かに命令式に足りない何かが揃った。

 周囲のマナを全て光のマナに変えるほどの何か。

 すぐにでも秘跡の研究を進めたいが、、調査団がいる間は気を付けるに越したことはない。

 再現性が低いとはいえ私には光のマナを扱う素質があると分かった以上、私も聖女候補になってしまうかもしれない。

 教会に飼い殺しにされるなんて御免被る。


 ──秘跡の術式を解明した上で、聖女の座をシスター・カトリーヌに押し付けて還俗する。

 私は静かに決意を固めて拳を握り締めた。





 とうとう総本山からの調査団が到着した。

 門が開かれ、数台の馬車と護衛の聖騎士が次々と入ってくるのが見えた。小さな馬車の中からアレクシスが出てくるのが見えた。

 修道院に入ったばかりの私は列の後ろの方であることをいいことにぼんやりしていると、咎めるような目をしたアレクシスと視線がかち合った。


 辺りがざわつき、調査団の馬車の中でもひと際大きな馬車の扉が開いたのが分かる。

 馬車から降りてきたのは、大司教の装飾を纏った美しい女性だった。

 青い髪に神秘的な雰囲気をもった女大司教は穏やかに目を細めており、馬車の近くに控えていた歳若い司教に手を引かれてゆっくりと歩き出す。

 同じく馬車の近くにいた精悍な顔つきの聖騎士の青年が、女大司教の隣に連れ添った。

 肩眼鏡を掛けた神経質そうな青年司教と浅黒い肌をした快活そうな聖騎士の二人に、周りの若い修道女たちが早速色めき始めた。


 どうやら女大司教は足が悪いらしい。片足を引きずるようにして歩く彼女の行く先の石ころ一つでも見逃さないとばかりに年若い司教はかけているモノクルを光らせ、聖騎士の青年は表情こそ朗らかだが隙のない動きで周囲を警戒している。

 調査団の面々が動き始める。装飾からして、調査団の中で一番位が高いのは女大司教のようだ。

 修道院長が調査団に挨拶して修道院へ案内していると、女大司教がふと、出迎えの列の前を通過している途中で歩みをぴたりと止めた。

 若い司教から手を離すとくるりと列の方へ向きを変える。


「はじめまして、聖女さま。わたくしが今回の調査団の長の、ラピスともうします」


 ラピスと名乗った大司教は少々舌ったらずに、カトリーヌの前でローブの裾をつまんでぺこりと頭を下げてみせた。

 ラピス大司教の発言に、出迎えの列も調査団の面々もざわめく。


 ……微妙にラピス大司教がカトリーヌの二つ後ろの列にいる私の方向いている気がするのは、きっと気のせいだ。


 顔を上げたラピス大司教が、ずっとにこやかに微笑んで細めていた目を開く。青色の宝石をはめ込んだような瞳はどこか焦点が合わず、私はあることを悟る。

「あの大司教、目が……」

 私の肩に乗っていたガブリエラも気がついたようだった。

 ラピス大司教は目を細めていたのではなく、閉じていたのだ。

 どうやら足だけでなく、目も不自由であるらしい。

 


 その後調査団の中の護衛騎士たちが出迎えの列の中にシスター・イレーナがいることに気づき、護衛騎士たちが一斉に頭を下げ始めて注目がそちらに集まり、ラピス大司教とシスター・カトリーヌが言葉を交わすことはなかった。

 ラピス大司教が再び歩き始める直前、何も映さないはずの彼女の瞳に私が映った気がした。


王都に教会の総本山があると都合が悪いのでそのうち修正します。

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