1.無神論者の私が聖女様な訳がない。
修道院に入って初めての祈りの時間。
私――マリアは礼拝堂で眠気と戦いながら司祭の祈りの言葉を聞いていた。
それにしたって祈りの言葉のなんとまぁ長いこと。正直退屈さだけなら王立魔術学院の校長の朝礼での挨拶といい勝負だ。
ちらりと横目に隣のシスターを見ると、胸に下げた十字架を握りしめて熱心に祈りを捧げている。
欠伸を噛み殺していると、突如ステンドグラスから目が眩むほどの光が降り注いだ。
思わず瞑った目を開くと、天から祭壇の上に架かっている光の橋を降りるように純白の翼を広げた美しい人が現れた。
礼拝堂中が騒然とする。ある者は感嘆の声をあげ、ある者は膝をついて頭を垂れる。祈りの言葉を言祝いていた司祭も膝をついて祈りを捧げ始めた。
祭壇の真上に降り立った翼の人は柔らかな光に包まれて球体となり、光の粒となって散った。
「御遣い様が……!」
「やはりシスター・カトリーヌは聖女様なのだ!」
「おぉ、女神よ……!」
「シスター・カトリーヌ、御遣い様は何をお告げに……」
周りの人間の視線がシスター・カトリーヌに注目して、光の粒が弾けた中から出現した二頭身の小人に気がつかないのはなぜだろう。そしてその小人はなぜ私の目の前にいるのだろう。
そうか。幻覚か。
修道院に無理やり押し込められて早数日。よほど精神が参っているらしい。
しかしこれを修道院長に相談したところで軟禁場所が修道院から実家が所有している中で一番僻地にある屋敷の地下室に変わるだけだ。教会の秘跡では心の病気を治せない。
「聖女様、聖女様? 私の声が聞こえてらっしゃらないのですか? ……ってなんじゃこりゃーー!? 縮んで!? 高貴な私が縮んでいる!!?」
目の前の小人が喚き始めた。とうとう幻聴まで聞こえ始めたようだ。
喚く前に聞き捨てらならないことを言った気がするが、きっと気のせいだろう。
──だって私、無神論者だし。