表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

いわゆる一つの政略結婚

「姫様!姫様!ここをお開け下さいまし!」

「アルマちゃん!お願いだからドアを開けてよ!」


ロレンタとエレーヌの声が廊下より響く。

ガタガタと揺れるドアと、それに施したバリケードを見、アルマーシュはほっと安堵の息を漏らすのだった。


ここはドゥンケルハイトの城、アルマーシュにあてがわれた客間である。つまりは借り物の部屋だ。魔法使いとしてはかなりの腕であるあの二人も、魔法を使えば無傷でドアを開けることは不可能だろう。かと言って二人とも職業は魔法使いであるから、腕力でバリケードを除くことはできないに違いない。


アルマーシュは悠々とソファにふんぞりがえった。

数分前にドゥンケルハイトのメイドより、昼食を兼ねて家族紹介と親睦会をしたい、との申し出があったのだ。ならば急ぎ着替えてめかしこむべき、と言うロレンタ達を廊下に押し出し、これから支度する風を装って、アルマーシュは扉の前に家具でバリケードを作り上げた。

巨大なクローゼットを移動させるのには骨が折れたが、家具同士をぎっちりと組み上げただけあって、かなり丈夫そうなバリケードである。


(いっそ、ワガママ放題して嫌われればいいのよ)


アルマーシュはそう考えてニヤリと笑った。


(魔界の妃にはふさわしくない、そう思われればいいのだわ。相手だって王族、相応の振る舞いができない女をわざわざ妃にする理由も余裕もないわ)


少なくともジルノワールの家の理屈ならそうだ。兄のグラナートがいくら好きになったからと言って、好き勝手ワガママ放題に振る舞う女を妃としてジルノワール家は受け入れないだろう。

アルマーシュはのんびりソファに横になった。久々に一人きりでゆっくりできたような気がする。


「あーあ、これで紅茶の一杯でもあったらなぁ」


メイドも締め出したのは失敗だったな、と思いながらアルマーシュは天井を仰ぎ見た。


が、そこには自分を覗き込む黒髪の影があった。


「ザ、ザフィーロ!」

「よくもまぁこんなに家具を移動させたな。お前の腕力を少しあなどっていたようだ」


ザフィーロは呆れたような表情で扉のバリケードを指差した。


「どうやって……」

「少数だが魔族には壁抜けという術ができる。人族には不可能らしいな。不便な話だ」


そう言うとザフィーロはアルマーシュの隣に座った。

ザフィーロの重みでふっくらとしたソファの座面が一気に沈み込む。傾いた体が思わずザフィーロの肩に寄りかかってしまいそうで、アルマーシュは慌てて肘掛にしがみついた。


「昼食は摂らないのか?」

「いらない!てか、率直に聞きますけど、私を妃にしてどうしたい訳?あの古城で会っただけなのに!しかも私は勇者ジルノワール家の娘よ!しかも人族!魔族じゃないし!ただで言う事聞くような女じゃないわよ!メリットだってないわ!おかしいわよ!」


まくし立てるようなアルマーシュの勢いに、流石のザフィーロもやや身を引いた。


「……お前、すごい勢いで話せるんだな」

「だって人生かかってますから」


ザフィーロは長い黒髪はすっと後ろに流すと、少しだけ考えるような顔をして、アルマーシュを見つめた。

角はあるが、やはりなかなかの美形である。人界でもお目にかかれないレベルかもしれないとアルマーシュは一緒思いかけたが、慌てて首を振り、芽生え始めていた邪念を振り払った。


「素直に言えば、お前の目が気に入ったんだ」

「目?」

「そう、目だ。深い緑色で、見つめていると吸い込まれそうだと思った」


使い古された口説き文句だとアルマーシュは思ったが、不思議にも聞き流す事ができない。

自分を見つめるザフィーロの何を考えているのか分からない表情に、心の中がかき乱されてしまう。これは嘘?本当?ザフィーロの底の見えない黒い瞳を覗き込みながら、アルマーシュは両手で熱くなってく頬を押さえた。


「後は……そうだな」

「後は?」

「ん……」


何かを言おうとして、ザフィーロは口をつぐんだ。アルマーシュはまるで愛の告白の続きをせがむような、はしたない態度でザフィーロの顔を覗き込んでいたが、やがてそれに気付きそっと俯いた。


「そう言えば、この申し出にお前の父親は反対しなかったんじゃないか?」


ザフィーロはそう言うと、アルマーシュの髪を優しく撫ぜた。赤みを帯びたストロベリーブロンドの柔らかな癖っ毛である。

普段のアルマーシュなら「無礼者!」とその手を振り払うところだが、ザフィーロの凄みさえ感じる整った顔立ちと、有無を言わせないような態度に思わず受け入れていた。


「……そうね、お父様らしからぬとは思ったけど、何か裏があるの?」

「裏?裏ってほどじゃないが、元々お前の父親と俺の父親ーー現ドゥンケルハイト家当主はビジネスパートナーだからな」


あまりの衝撃にアルマーシュは思わず叫びかけて、手で口を覆った。


「ビジネス……パートナー?!」

「そうだ。人界と魔界で戦争が起こらない為にも、必要なつながりだと俺は思うが」

「それって、まるでお父様が大魔王とグルだったみたいじゃない!」

「みたい、じゃないな。グルなんだ。例えばお前の父親の異名は“竜殺し”だったな。あれは全部嘘だ」


父王の偉業を嘘と断言したザフィーロに、アルマーシュは激昂した。


「あり得ないわ!だってお父様は倒した竜を全部持ち帰って剥製にしたり、骨の標本にしたり……とにかく証拠があるのよ!証拠が!」

「ああ、あれはな。魔界で事故だったり老衰だったり、とにかく色々な理由で俺達が手に入れたドラゴンの死体なんだ。それをお前の父親に譲って、お前の父親は竜殺しを名乗ってる訳。俺達だって人界に恩が売れる。良い事づくめだ」


アルマーシュは足元が崩れ落ちるような、そんな絶望感に目の前が暗くなった。尊敬してやまなかった父王が、まさかハリボテの勇者だったとは……言われてみればアルマーシュは父王がドラゴンを倒す現場を見た事がない。見たのは全てドラゴンの死体を悠々と荷馬車に乗せて帰ってくる姿だけである。しかも父王の体型は中年太り、身のこなしもドラゴンが倒せるようなものとはとても言えなかった。

ザフィーロの話を嘘だと言い切れる気力が、アルマーシュの心中には到底湧いてこなかった。


「じゃあ……私達ジルノワール家は……ずっと民に嘘を……」

「ずっと、と言う訳でもない。始祖のルース・ジルノワールだっけ?あれが魔王を倒したのは本当。ただ勝負したのはカードゲームだけどな」

「カードゲーム!?」

「ああ、剣ぶら下げてうちの城に乗り込んできたもんだから、家具とか家族とか危ないだろ?なんとか穏便にカードゲームで勝負ってなって、言い出したはずの俺の爺さんが負けた。だからドゥンケルハイト家は人界を侵略しない事になったんだ。そう言う意味では立派に勇者の家系だよ、お前の家は」


そう言うとザフィーロは、はははと笑った。


「アルマーシュ、お前はジルノワール家の娘らしく、常に勇者であろうとしていたらしいけど、そんなのを気にしてたのはお前だけなんだよ」

「嘘……まさか、お兄様もこの事を……」

「そりゃ、跡継ぎなんだから知っているだろう。本当に勇者の家系なら、もっと冒険者の支援もしてるだろうし、大体王族をやってる暇なんてないと思うがな」


アルマーシュはがっくりと肩を落とした。


「ロレンタがやたら勇者という称号をバカにするのも、そう言う理由だったのね」

「ああ、大魔法使いロレンタか。そりゃ何度もうちに使者として来ているからな、お前の父親が偽勇者って事は嫌ってほど知ってる」


何も知らないまま、勇者勇者とはしゃいでいた自分が急に恥ずかしくなってきた。アルマーシュは指先をこねくりながら、視線を宙に泳がせる。


「どうしよう……わたし……」

「まぁ知らなかったんだし、仕方ないだろ。お前はどっちにしろ嫁いで出て行く人間だ。真実を教えたら逆に不利益になる可能性がある」


落ち込むアルマーシュの肩を、ザフィーロが優しくさすった。


「何も落ち込む事はない。例えカードゲームであろうと、ルース・ジルノワールは魔王に勝ったのだ。そして代々のジルノワール王は人界を守り続けた。それに何の不満があるんだ?」

「そ、そう言われてみればそうなんだけど……」

「ドラゴン退治が得意な王より、外交の得意な王の方が民も喜ぶ。前向きに考えろ」


しかし、ザフィーロのその言葉にアルマーシュは喜ばなかった。


「そんな外交の得意な父王の言う通りにして、自分の妃になれって言うんでしょ」

「……察しが良いな」

「バカにしないで!それくらいの話の展開は読めます」

「なら、この縁談を断ると人界と魔界はまた不和になり、今までのジルノワール家の努力が水の泡になるって事も分かるよな」

「えっ……」


ザフィーロは自分の耳に髪をかけると、アルマーシュをバカにしたように鼻で笑った。


「当たり前だろ。大魔王ーー俺の父親からしたら、息子から申し出た縁談を長年のビジネスパートナーの娘に蹴られたんだ。前と同じ関係のままじゃいられないだろ。ドゥンケルハイト家とジルノワール家の秘められた蜜月関係は終わり、恐らくは魔界と人界の争い合う時代がくることに……」

「ええっ!そんな大変な事に!」

「そうだ、大変な事になるんだ。よく考えて行動しろよ」


ザフィーロの言葉に、アルマーシュは頭を抱えた。


「戦争になれば、家臣の中に今までの暴露をする奴も出てくるだろう。“ジルノワール家は長年国民に嘘をついていたぞー”とでも言われてみろ。一族郎党磔の刑だろうな」


磔の刑ーー怒る国民に吊し上げられる自分達を想像して、アルマーシュの顔から血の気が引いた。

民からしたらとんだ嘘つき一族には違いないのだ。絶対にバレるのはマズイ。


「私を脅してるの?」

「まぁな。お前との結婚は俺にも特だからな」


そう言うとザフィーロは気だるそうに伸びをした。


「俺はドゥンケルハイト家の長子だ。魔族として結婚適齢期の半ばを過ぎかけている。毎日毎日親や家臣共に結婚だの縁談だの……ウンザリする気持ち、お前も姫なら分かるだろう?」


ザフィーロの問いに、アルマーシュは力強く頷いた。


「正直どの女がふさわしいだの、妃として上手くやれるだの、そう言った事に時間を費やしていたくないんだ。俺の趣味は小鳥を飼うことでな。ギャアギャア喚く親や家臣共の相手などせず、ゆっくりとそいつを愛でていたい訳だ」

「その為には結婚相手として私がうってつけって事?」

「そうだ。親同士も知り合いだし、利害関係も一致している。お前は見たところ俺にやたら干渉するタイプではなさそうだし、魔族ではないところが良い」

「魔族じゃないところが?」

「ああ、魔族だと娘を差し出して自分が王族と親戚になろうとする、出世欲の塊みたいなジジイがゴロゴロいるからな。そう言うのを親戚に迎えると後が厄介だ」


確かに、とアルマーシュは納得した。

娘が妃になれば自分も王族同然になれる、と思って野心を抱く者は少なくないだろう。実際アルマーシュの側にもいる。息子を差し出す事で、自分も王族の一員に加わろうとする欲丸出しのオヤジ達が。

そう言ったことを考えると、種族が違った方が逆に安心とも言える。しかもお互い王族だ。立場的には対等であるが故、そう言った結婚後のもめごとは起こらないだろう。


「この結婚はお互いの為にもなると思うんだが」

「……私もアンタも結婚結婚言われるわずらわしさから開放されるし、アンタは毎日好きな事に没頭できて、私は黙って妃をやっているだけで国民の平和な生活と、ジルノワール家の名誉が守れるのね」

「そうだ、なかなか良い条件じゃないか?」


ザフィーロはアルマーシュに手を差し出した。アルマーシュは少しためらった後、その手をガッチリと握り返した。


「乗ったわ、その話。要するに利害の一致による結婚ってやつね」

「そう言う事。勇者バカだと聞いていたが、意外にも話の分かる奴で良かったよ。これからよろしく、アルマーシュ」


そう言うとザフィーロはアルマーシュの体をひょいと抱き上げ、自分の膝に乗せた。


「な、何!?いきなり。人目がないんだから、そんな夫婦っぽくしなくたって……」

「夫婦っぽく?夫婦になるのに?」


ザフィーロはさも不思議そうに首を傾げた。


「夫婦にはなるけど……私はアンタに干渉しない妃になるんだから!そんなにベタベタする暇があるなら、小鳥の世話にでも行けば良いじゃない!どんなに没頭したって止めないから!」


赤面しながらそう言うアルマーシュに、ザフィーロは顔色一つ変えずに答えた。


「小鳥なら愛でてるよ」

「は?」


アルマーシュの表情が固まる。対してザフィーロの口角は不自然につり上がった。


「これから俺が愛でる小鳥はアルマーシュ、お前だよ。一目見た時から決めていたんだ。この緑の瞳、赤みがかった金髪、理想の小鳥だってね」

「え……」


アルマーシュの頬をザフィーロが優しく撫でさすった。


「これから末永く可愛がってあげる。可愛いアルマーシュ」


その言葉に、アルマーシュの顔から血の気が引いた。

嬉しそうなザフィーロとは対照的に、急速に暗くなるアルマーシュのオーラが部屋を満たしていくのであった。



□□□



煌々と輝くシャンデリアに、大窓と物語調のステンドグラス。恐らく迎賓の間であろう広間はアルマーシュの城、ニールデント城よりも豪奢で、全ての規模が大きかった。


昼食の並んだ長テーブルも、今までアルマーシュが着いた事のない長さになっている。

だが、アルマーシュが気になっているのはその席順だ。

一番上座に座っている大魔王はいい。アルマーシュは大魔王を初めて見たが、やはりすごい迫力である。彼に比べるとザフィーロはやはりまだ若い魔王なのだなと思った。

問題はロレンタと自分の席の遠さである。普通こう言う場合は賓客として招かれているのだから、使者であるロレンタと婚儀を受けるアルマーシュは隣り合った席で、ドゥンケルハイト家の紹介を受けるはずである。

しかし現実は違った。アルマーシュはザフィーロの隣の席で、しかも二人が並んでいるのは末席の端であるために、上座の大魔王に二人で向かう形になっている。

これではまるで恋仲の二人が、親に結婚の許しを貰いに来たようなものではないか。

アルマーシュは横目でザフィーロを睨んだが、ザフィーロは何も言わずに無視をした。


「貴女がアルマーシュさんね」


甲高い婦人の声に上座を見ると、大魔王の左横の席に派手な女性が座っていた。銀髪を高く結い上げ、派手な頭飾りを付けている。魔族らしく耳は尖っているが、顔立ちはどこか優しげである。


「あたくし、ザフィーロの母です。エスメラルダ・ドゥンケルハイトと申します。これからよろしくね」

「あ、はい。アルマーシュ・フラウロ・ジルノワールです。こちらこそよろしくお願いします」


エスメラルダは服装こそ派手だが、顔には魔族らしい険しさや凄みがあまりない。角や牙などの目立った特徴もない。本当にザフィーロの母なのだろうかとアルマーシュは一瞬疑った。


「あたくしの隣にいるのが次男のトゥルケス・ミラー・ドゥンケルハイト、この子は大人しいの。でも顔はザフィに似てるかしら」


エスメラルダに紹介され、左隣の黒髪の男が軽く頭を下げた。下向きの雄牛型の角が生えており、確かにザフィーロと同じ黒髪だが前髪が長すぎて顔立ちは分からない。


「トゥルケスの隣が三男のジェイド・キリース・ドゥンケルハイト。この子はあたくし似なの。優しい子だから何かこの家の事で困ったらジェイドに聞くと良いわ」


ジェイドと紹介されたのはまだ見ようによっては少年とも言えそうな、可愛げのある銀髪の青年だった。羊型の角の生えた彼は人懐こそうな笑みを浮かべ、アルマーシュに手を振っている。

アルマーシュもつられておずおずと手を振る。が、その手はザフィーロにがっしりと捕らえられた。


「それで、俺が長男のザフィーロ・イルムス・ドゥンケルハイトね」

「知ってるわよ」


アルマーシュはそう言いながらザフィーロの手を振り払った。


「まぁ、仲の良いこと」


ほほほ、と笑うエスメラルダの顔は本心からそう思っているように見えた。


「で、こちらが大魔王アルギロス・ジーヴォ・ドゥンケルハイト。あたくしの夫ですわ」


エスメラルダの紹介に、アルマーシュはごくりと唾を飲み込んだ。大魔王アルギロス、いつかは自分がこの手で下すと思っていた相手である。

しかし、大魔王はアルマーシュの想像より遥かに強そうなオーラを放っており、長い黒髪と髭は風もないのにうごめいているように感じた。恐らくは彼から発せられる強烈な魔力によるものだろう。頭にはザフィーロと同じ、上向きの雄牛の角が生えている。


(これは……無理だわ)


アルマーシュは大魔王の目を見て、即座に感じた。この大魔王は普通に勇者をやって勝てるようなレベルではないと。

例えば伝説の七つの防具を揃え七人の賢者の協力を得た上で神より授かりし聖なる剣によって倒すとか、自分と仲間の命を引き換えに放つ大魔法で諸共死ぬとか、そういう事をやっても倒せるかどうか分からないレベルだとアルマーシュは思った。


「緊張してるの?アルマーシュ。大丈夫、親父は無口なんだ」

「そうなのよアルマーシュさん。この人ったら家族以外には十年に一度喋るか喋らないかなのよ。気にしなくていいのよ」


アルマーシュの態度を緊張と誤解したらしいザフィーロとエスメラルダが、すかさずフォローを入れてくる。

が、アルマーシュの内心は全く違う。現実を見せつけられたショックでいっぱいだった。

もちろんアルマーシュだって、魔界を統べる大魔王がそんな容易に倒せる相手だと思っていた訳ではない。だが、かつて自分が信じていた父王「竜殺しのオーロック」なら倒せるのではないかーーと考えていた。が、それも作り上げられた幻の勇者だったと分かった今は、どんなに自分が鍛錬を積んでもこの大魔王には到底及ばない気がした。

もはや豪華な迎賓の間も魔王の一族もどうでも良い、目指していたものがハリボテであった喪失感でアルマーシュの胸はいっぱいいっぱいになっていた。


「アルマーシュさんはジルノワール家の長女なの?跡取りじゃないの?」


ジェイドが無邪気に声を上げる。

アルマーシュが答えるより先に、ロレンタがすらすらと述べた。


「アルマーシュ様は長女ですが、兄にあたるグラナート様がいらっしゃいますので、王位を継承する立場ではございません」

「へぇ、ならザフィ兄との政略結婚にはうってつけな立場な訳だ」

「これ!ジェイド!」


エスメラルダがたしなめるが、ジェイドに悪びれた様子はない。

ただアルマーシュは隣のザフィーロがわずかに殺気立ったのを感じた。


「ジェイド」


ザフィーロが静かに名を呼んだ。ただそれだけで、先程までへらへらと笑っていたジェイドが凍りついたように表情を失う。


「今日は随分陽気だな」

「は……はは、ザフィ兄の婚約が嬉しくてさ。気に障ったならごめん」


ジェイドは青ざめながら俯いた。

まるで実の兄を心から恐怖しているかのような態度に、アルマーシュは違和感を抱いた。

アルマーシュは兄と仲は良くないが、別に恐怖もしていない。アルマーシュの兄は極めて大人しい男だが、仮に兄が強権を振るうタイプだったとしても今のジェイドの様に怯えたりはしないだろう。


「そうか、喜んでくれたか。なら少し静かにした方が良い。その方が品良く見えるからな」

「はい……」


ザフィーロの言葉にジェイドは大人しく頷いた。

あまりの怯えようにアルマーシュはジェイドの隣の次男、トゥルケスの様子を伺った。しかしトゥルケスはジェイドよりも更に怯えたような態度で長兄のザフィーロを見ている。


「俺の家族は以上だ。皆、俺達の婚約を祝ってくれているよ」


そう言うザフィーロの後ろで、弟二人が怯えた目をしている。満面の笑みを浮かべている母親エスメラルダとは対照的である。無言でこちらを見ている大魔王は別として、アルマーシュにはどこか不思議な家族に見えた。


(まぁ、魔王の家族がほがらか仲良し家族ってのも変な話か)


「こうして歓迎して下さるなんて思いませんでした。本当にありがたいですわ」


アルマーシュがそう言うと、ザフィーロは先程の殺気が嘘のように穏やかな笑顔で応えた。


「うちは母さんも人族との混血だからね。血筋のこだわりとかはないんだよ」

「そうなのよ。あたくしの母は人族でね。そもそもあたくしは魔界でも庶民の生まれで、まさか自分が大魔王の妃になるだなんて思いもしなかったわぁ」


そう言って高らかに笑うエスメラルダの手を、隣の大魔王が優しく握る。大魔王は表情こそ険しかったが、自分の妻の手に触れる仕草には愛情が満ちていた。


「うちの父さんと母さんも恋愛結婚なんだよ」

「そ……そうなんだ」


大魔王も恋愛をするーーそう考えると政略結婚が当たり前の人間の王族より、何だか温かな雰囲気すら感じる。


「て言うか、も?」

「も?って」

「いや、私達は恋愛結婚じゃないでしょ」


アルマーシュの言葉に、ザフィーロは首を傾げた。


「いや、恋愛結婚でしょ。俺が一目惚れしたんだから」


家族の前だというのに平然と言ってのけるザフィーロに、アルマーシュの顔はトマトのように赤くなった。


「やだ!ザフィったら!全くこの子はどんな縁談を持ってきても気に入らないだの、好みじゃないだのって断ってばかりで本当どうなるか心配してたのに……お父様に似て無愛想な子ですけど、アルマーシュさんのことすごく気に入ってるみたいだから、よろしくお願いしますね」


そう言うとエスメラルダはアルマーシュに優しく微笑んだ。


「……でも私って貴方にとって小鳥なんでしょ?所詮」

「しっ!静かに。鳥カゴの外では行儀良くしなさい」


アルマーシュの問いを、ザフィーロは軽くたしなめた。

あまりこの男に逆らわない方が良いーー冒険者としてそれなりに死線を潜ってきた経験から、アルマーシュは自然にそう思った。

母親はともかくとして、弟達の怯え方は尋常ではない。こうして座って眺めているだけで、大魔王の血を一番濃く継いでいるのはザフィーロであるとすぐ分かる。


「私もアルマーシュ様の縁談嫌いには大変苦労を致しましたの。でも良かったですわ。結果としてザフィーロ様に見初めていただけたんですもの……お二人の仲睦まじいお姿、国に帰ったら王様に報告致します。きっと大喜びなさいますわよ」


ロレンタは涙ぐみそうな勢いで二人を褒めちぎった。恐らくは場の空気を読んだのか、それとも散々手を焼かされた姫を早く片付けてしまいたいのかは分からないが、アルマーシュの微妙な表情は見ないようにして、大げさに喜んでいる。


「さ、お料理が冷めてしまいますわ。とりあえずはザフィとアルマーシュさんの婚約を祝いながら昼食にしましょう」


エスメラルダの言葉を皮切りに、メイド達は一斉に料理を運び始めた。

流石は魔界、人界とは全く違う食材を使用している。が、食欲をそそる見た目と匂いを発しており、三週間も寝たきりで空腹のアルマーシュには耐え難い誘惑だった。


(……こんな豪華な食事を残してはもったいないわね)


隣のザフィーロの存在も忘れ、アルマーシュはナイフとフォークを手にした。そして出されたオードブルを口にした瞬間、その旨さに己が現状を忘れたのだった。



□□□



「魔界の食事ってのも、かなり美味しいものなのね、ロレンタ」

「ええ。王様より使者として遣わされる度、こちらでの食事が何よりの楽しみでございましたわ」


アルマーシュの感想に、ロレンタは満足気に頷いた。

昼食だと言うのに結構なフルコースが並び、それも全てが美味で盛り付けも美しかった。アルマーシュの想像していた“魔界の食事”とはまるで違う。むしろ人界よりも洗練されていたと言っても良い。


(意外に魔界も悪くないかもね。冒険ができなくなるのは残念だけど、人界でつまらない相手とつまらない政略結婚をするよりは楽しめそうかも)


ザフィーロも黙っていればかなりの美形である。ベタベタした態度は気になるが、冷たくあしらわれるよりはマシではないか、とアルマーシュは思い始めていたが……


「おい、ジルノワールの姫」


振り返ると、そこにはジェイドとトゥルケスが立っていた。

ジェイドは先程の怯えようとは打って変わった不遜な態度で、トゥルケスは何やら思いつめたような表情をしている。


「何よ」

「いや、お前に大事な話があるんだ。悪いがそこの魔法使いは下がらせて、三人で話そうぜ」


昼食会とはまるで別人のようなジェイドの口調に、ロレンタは異議を唱えようとしたが、相手は王族である。

心配そうなロレンタに「大丈夫」と微笑むと、アルマーシュは彼女を先に部屋へと戻らせた。


「廊下で話すのもなんだ。とりあえず俺の部屋に行こう」


ジェイドの言葉にアルマーシュは大人しく従った。

別にジェイドとトゥルケスが怖かった訳ではない。むしろ逆だ。


(変な事したら速攻で反撃してやるんだから)


三週間も寝ていただけあって、体も魔力もすっかり全快である。

正直大魔王やザフィーロには勝てる気がしないが、弱気そうなトゥルケスと少年っぽさの残るジェイドには簡単には殺されないだろうという自信がアルマーシュにもあった。

槍はザフィーロに取り上げられているが、代わりになりそうなものなら幾らでも思いつく。


ジェイドの部屋は迎賓の間から少し奥へ行ったところにあった。


「ほら、入れよ」


魔王の部屋、と言うのをアルマーシュは想像したこともなかったが、ニールデント城のアルマーシュの自室とは比べものにならないほどモノに溢れており、全体的に埃っぽい。とても王族の部屋とは思われない散らかり具合だった。


「す、すごい部屋ね……」

「俺はコレクションするのが好きなんだ。モンスターの骨とか、角とか、とりあえず倒したら記念に何か持って帰ってる。あとは人族の“冒険者カード”なんか集めてるぜ」

「冒険者カードって……子供のお菓子についてくるやつ?」

「それそれ!あれ、お前も“雌獅子のアルマ”ってカードになってるよな。お前のカードがなかなか出てこなくってさ、まだ一枚しかないんだよ。あ、部屋の中は勝手に触るなよ。メイドにもこの部屋は片付けさせてないんだからな」


ジェイドはそう言うと、ごちゃついた室内の一角にある、くたびれた応接セットを指差した。


「雌獅子はそっち座って。トゥル兄は俺の横ね」

「雌獅子じゃなくてアルマーシュでいいわよ。いちいち通り名で呼ばないで。なんだか恥ずかしいから」

「じゃあアルマーシュね。いいから座ってよ」


急かすジェイドに追い立てられるように、トゥルケスとアルマーシュは応接セットのソファに座った。少し埃っぽいが、ソファ自体の造りは悪くないらしく、座り心地がとても良い。


「んで、話って何」


アルマーシュが単刀直入に切り出すと、意外な事に今まで沈黙していたトゥルケスの方が口を開いた。


「ザフィ兄の事なんだ」


トゥルケスの長い前髪の隙間からは、底の見えない黒い瞳が覗いている。


「もしかして、ザフィーロと結婚するなって話?」


基本的に王族は余程のことがない限り、長子が後を継ぐものである。長子が結婚しており、その夫婦間に子供がいれば尚更だ。長子の結婚はすなわち、弟妹達にとっては王位継承権の剥奪に近い。

もしトゥルケスやジェイドが王位を欲している場合、アルマーシュの存在は邪魔以外の何者でもないだろう。


だがトゥルケスの答えは意外なものだった。


「いいや、僕達はこの結婚には賛成なんだ。ザフィ兄の縁談がまとまれば、家庭内にも平和が訪れるからね」

「酷いもんだったぜ。母上が縁談を持って来る度、イライラして俺達に八つ当たりするんだ。母上や相手の立場上見合い自体は断ることができないもんだから、見合いの前は荒れる荒れる。なぁ、トゥル兄」


トゥルケスは悲壮な顔で頷いた。


「薄々気付いているかと思うけれど、ザフィ兄はとても恐ろしい兄なんだ。僕達弟の事なんて、踏み台ぐらいにしか思っていないんじゃないかな」

「いくらなんでも……それは……」


ありえない、と言いかけてアルマーシュは口ごもった。

昼食の時にジェイドを責めていたザフィーロの態度を考えれば納得がいく。


「正直、僕達はあの兄に結婚願望があるなんて思わなかったし、結婚できる相手が現れるとも思わなかった。このままだと王位継承権の問題すら起きそうで頭が痛いほどだったよ。僕もジェイドも、父の跡を継ぐ気なんてさらさらないからね」

「そ。俺達はまっぴらごめんだね、あんな面倒な立場」

「だから突然ザフィ兄が結婚したいって君を連れて来た時は、正直嬉しかった。もう見合い前の八つ当たりからも将来の面倒の種からも解放される、そう思ったよ」


トゥルケスは顔を上げた。

前髪の隙間からは憐れむような、心配しているかのような表情が伺える。


「……でもアルマーシュさん、貴女騙されてないかな」

「え?」

「ザフィ兄にはとてもじゃないが、他人を好きになるような心があるとは思えないんだ」


トゥルケスはつらつらと話し始めた。


「今までの縁談相手にだってそうだったけど、言い寄ってきた女性を泣かせるのを僕達は何回見たことか」

「ザフィ兄、顔だけは良いからな」

「正直、ザフィ兄は女性の事なんて自分の欲求を満たすための道具ぐらいにしか思ってないんじゃないかとすら、僕は思ってる」


アルマーシュはつい先ほど、俺の趣味は可愛い小鳥を愛でる事だ、と語っていたザフィーロを思い出した。

愛でる方法がもしかしたら傷つける類の行為だったら?ふとそう考えて背筋が寒くなった。


「まぁ、でもあんなにベタベタして、気持ち悪いほど優しいザフィ兄は初めて見たけどさ」

「確かにそれは言えてるね。僕もザフィ兄があんなに女性に対して紳士的に振舞うなんて想像もしてなかったよ」


トゥルケスとジェイドが頷きあう。


「とりあえずの話ですけど、ザフィ兄には気をつけて下さいね。あれだけ貴女の事を大事に扱うんですから、多分ザフィ兄にとって貴女は利益のある存在なんだと思いますが、いつ気分が変わって冷酷な行いをするか分かりませんからね」

「あ、できるんだったらザフィ兄退治しちゃってもいいぜ。お前だって有名な冒険者なんだろ?もし無事にトドメをさせたら俺達にとっちゃ勇者だぞ、勇者」


勇者、その言葉の響きにアルマーシュの心は少しだけ疼いた。


「やめろよジェイド。ザフィ兄が死んだら面倒くさいのは僕なんだから」


トゥルケスは心底嫌そうな顔でジェイドをたしなめる。


「アルマーシュさん、僕達としても長年続いた人族との友好関係は崩したくありません。もしザフィ兄が何かするようなら、すぐ教えて下さいね」

「ま、俺達に頼られてもあの鬼強ぇザフィ兄に勝てる訳じゃねーけどな」

「父や母なら止められます。もし何かあれば僕達からも訴えますんで、いつでも相談して下さい」

「ありがとう……」


魔族にもこんな細やかな気配り、優しい声かけができる者がいるのだ、とアルマーシュは驚いた。

トゥルケスの顔は真剣に心配している様子そのものである。残念ながら横のジェイドは面倒臭そうにしているが、彼もまた兄の危険性をアルマーシュに伝えてくれたことには間違いない。


「何か私、魔族だからって貴方達を誤解してたかも」

「魔族って言っても、人族より魔力が強いとか姿形が微妙に異なるとか、住む世界が魔界か人界かってぐらいの差ですからね。僕達魔族にだって良心がありますよ」


そう言うとトゥルケスは真横に吹っ飛んだ。音もなく、まるでソファから壁へ押し付けられたかのように。

アルマーシュは何が起こったのか理解できなかったが、ジェイドは違った。角を押さえガタガタと震えている。顔色は真っ青になり、目は焦点があっていない。

とりあえずは壁に貼り付けられているトゥルケスを助けようと、アルマーシュは立ち上がった。


「その必要はないよ、アルマーシュ」


聞こえてきたのは間違いない、弟達が怪物の如く怖れる長兄ーーザフィーロの声である。

ザフィーロはドアにもたれかかるような姿勢で腕を組み、ジェイドを睨んでいた、


「随分好き放題に話していたな、ジェイド。あんなに威勢良く俺の悪口が言えるなんて思わなかったぞ」


ザフィーロの嫌味にジェイドは答えなかった。

と、言うより答える気力が無かった。ただ長兄への恐怖で震えており、先程までアルマーシュに見せていたあのヤンチャそうな態度は何だったのかと言いたくなる様子である。

長い黒髪を後ろに払いながら、ザフィーロはアルマーシュを見た。


「弟達が変な事ばかり吹き込んで悪かったね、アルマーシュ。安心してよ、俺はお前の事を愛してるし、大事にする。その言葉に嘘偽りも裏表もないつもりだよ」


場合によってはこれ以上はないのではないか、とも思われる愛の言葉である。しかしアルマーシュの胸中は揺れていた。

そう言うザフィーロの表情は笑っているが、目が笑っていない。表情がアレなのは父親似、と言われればそれまでだが、先程のトゥルケスとジェイドの話を聞いた後だと何だか素直に受け取れない。


「と、とりあえず家族を虐めるのはやめなさいよ!トゥルケス君可哀想じゃないの!」

「虐める?俺だって仲間外れにされてるんだけどな。まぁ、アルマーシュがそういうなら仕方ないか」


ザフィーロはパン、と手のひらを合わせた。それと同時に壁に貼り付けられていたトゥルケスが床に落ちる。

うう……とトゥルケスのうめき声が聞こえてきて、アルマーシュは慌てて駆け寄ろうとしたが、気がつくと後ろからザフィーロに抱き締められており、一歩も動けない状況になっていた。


「行かないで」

「はぁ?」


ザフィーロは囁くような小声で、アルマーシュに懇願した。


「アルマーシュは俺の心配だけしていて。俺だけを見ていて」


ワガママもいい加減にしてよ、と言おうと振り返ってアルマーシュは言葉に詰まった。

やはり間近で見るザフィーロの顔立ちは寒気がするほどに整っている。また自分を真っ直ぐに見つめる黒い瞳が驚くほどの色気を含んでいて、頭に詰まっていた怒りはあっという間に溶けてなくなってしまった。

要するに、ザフィーロの美形っぷりにアルマーシュは負けてしまったのだ。


「……ど、どうしろって言うのよ」


紅潮する頬を誤魔化すように、俯きながらアルマーシュが尋ねると、ザフィーロは満足そうな声で答える。


「俺抜きでトゥルケスやジェイドと会うのは禁止ね?てか、男と会う時は必ず俺を同伴して欲しい」

「実の弟なのに?」

「実の弟から俺の悪口聞いただろ?嫌なんだよ、俺評判悪いからさ。アルマーシュには評判とか噂じゃなくて、ちゃんと俺自身を見て評価して欲しい」


そう言うとザフィーロはアルマーシュの顎をくいと上げ、その柔らかな唇に優しく口付けた。


「なっ……こんな所で!」


突然のキスに驚いたアルマーシュは慌ててザフィーロの胸を押し返すが、ビクともしない。それどころかザフィーロ自身は平然とした顔でアルマーシュを見ている。


「何かおかしい?」

「おかしいわよ!だって、弟達の前で……」


と言ってアルマーシュは周りを見回した。

トゥルケスは気絶したのか、床に崩れ落ちた姿勢のままピクリともしない。ジェイドはまだ角を抱えて震えており、こちらなど見てはいなかった。


「問題ないだろ?」


にやりと笑ったザフィーロに、アルマーシュは何も言い返せなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ