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魔王様からのプロポーズ


「油断した……」


アルマーシュ・フラウロ・ジルノワールは愛槍にすがりつくように膝をついた。「雌獅子(めじし)のアルマ」と名を馳せた彼女の装備は大破し、ところどころ素肌があらわになっている。きっちり編まれていた彼女のストロベリーブロンドも、解けて背中まで乱れ落ちていた。

パーティーを組んでいた仲間達三人は皆、物言わぬ石に変えられており、ただ一人残ったアルマーシュもすでに戦える状態ではない。


アルマーシュの目の前には黒衣の男が立っている。後ろにたなびく闇色のマント、冷酷そうな顔立ちと長い黒髪から覗く雄牛のような角ーー放たれる禍々しいオーラからして、魔族の王族に間違いはなかった。

しかしアルマーシュ達が倒れているこの場所は、人族の王国の端に位置する古城である。とても魔族の王族が現れる場所ではない。アルマーシュ達も、地元の農民から「小鬼(ゴブリン)が住み着いて悪さをするから、退治をしてほしい」と言われてやってきたのだ。装備も大した物は持って来ていない。小鬼退治と魔王では必要物資のレベルが違いすぎる。

たかが小鬼退治と油断したのもあるが、それにしてもトップクラスの魔族が現れるなんて誰が予想をしただろう。


「お前が“雌獅子のアルマ”だな」

「そうよ。我が名はアルマーシュ・フラウロ・ジルノワール。魔族の王にまで知られているとは光栄だわ」


アルマーシュは魔王を睨んだ。


「ま、女勇者としてはそれなりに魔界(こちら)でも聞こえた名だな」

「それはどうも」

「だが仲間が全員こうなっては、さすがの勇者様でもどうしようもあるまい」


魔王は石化したアルマーシュの仲間達を指差した。石化の解除には専門の知識のある錬金術師の薬湯か、解呪師による儀式が必要である。とてもダンジョン内で出来るようなものではない。

おまけに石化した体に傷を付けては、元の状態には戻れなくなってしまう。慎重に運び出し、しかるべき手当が受けられる場所まで連れて行く必要があった。


「私の首が欲しいなら持っていけ!ただ石にした仲間には手を出すな!」


もし自分がここで殺されても、石化した仲間は通りがかった他の冒険者に助け出されるかもしれない、そう思ってアルマーシュは魔王の前に進み出た。


「ははは、勇敢な事だ。仲間を庇うとは」

「笑いたければ笑え。仲間を見捨てて逃げるほど、この私は落ちぶれてなどいない」


くいと顎を掴まれる感触に、アルマーシュは動けなくなった。

気が付けば魔王は片膝をつき、アルマーシュの顔を覗き込んでいる。が、両腕は品定めでもするかのように組んだままだ。恐らくは魔力によって作った見えざる手で、アルマーシュの顔を抑え込んでいるのであろう。


「雌獅子よ。お前、確かに名をアルマーシュ・フラウロ・ジルノワールと言ったな」

「そ、そうだけど……何か?」

「という事は、ニールデント王国の王族、ジルノワール家の姫だな」


姫、と言う単語にアルマーシュの頭に血が上った。

別になりたくてなった訳ではない、たまたま産まれたのが王家で、たまたま女だったから姫と祭り上げられているだけだ。アルマーシュにとっては迷惑千万な肩書きである。


「だから何だ!人質にでもするのか!」

「いや、そんな面倒な事はしないな」


そう言うと魔王は自分の両腕を伸ばすと、膝をついているアルマーシュの身体を軽々と抱き上げた。


「な、何を!やめろ!」


もがくアルマーシュを無視するように、魔王はその顔をしげしげと眺めた。

土と怪我でぼろぼろだが、黙っていれば宮廷の花と評されるアルマーシュである。艶やかにうねるストロベリーブロンドの髪と、大きな緑の瞳が印象的だ。

対する魔王の顔も、切れ長の黒い瞳と通った鼻筋、表情からは何を考えているのか分からないが非常に整った顔をしている。所謂美形の部類に入る顔立ちだった。


「アルマーシュ、俺の名はザフィーロ・イルムス・ドゥンケルハイトと言う。魔界を統べるドゥンケルハイト家の王子だ」


魔族の王の姓がドゥンケルハイトであることは、この世界のどんなものでも知っている。それこそワガママを言って泣く子に「ドゥンケルハイトの使者が来ますよ」と言って叱る地域があるくらいだ。


ザフィーロはアルマーシュの頬をそっと撫でると、極めて真剣そうな口調で言った。


「決めた。アルマーシュ、俺と結婚してくれ」


結婚という単語に、アルマーシュの全身から力が抜けた。冗談にしてもタチが悪い、そう思ったが、彼の黒い瞳はとても嘘をついているようには見えない。


(魔王が女勇者にプロポーズ?)


前代未聞の話である。

アルマーシュはもがく気力も失ったまま、あまりの衝撃にザフィーロの腕の中で気を失ったのだった。



□□□



「姫様!姫様ももう二十一歳ですよ。このままでら嫁の貰い手がなくなってしまいます!」


耳元でキンキンと響く年増女の怒鳴り声。これはアルマーシュの父、オーロック・クロウム・ジルノワール王の側近、ロレンタのものだとアルマーシュは頭を抱えた。

ロレンタはかつて父王とパーティーを組んでいた大魔法使いである。年はとってもその魔力は健在で、到底アルマーシュの敵う相手ではなかった。

ロレンタは腕を組みながら、自分のベットでだらだらと寝そべっているアルマーシュを睨んだ。


「うるさいな!父上だって冒険して、“竜殺しのオーロック”と言われるほど立派に成果を上げて今の地位にいる訳でしょ?私だっていっぱしの勇者になってから結婚したいの!」


だがロレンタの目は冷ややかだ。


「父上は国王になられるので、ジルノワール家の慣習で冒険者となられただけです。外へ嫁ぐ姫様には関係ございません」


ジルノワール家の慣習。

かつて魔族が世界を荒らし回り、秩序を失っていた時代。ジルノワールの祖であるルース・ジルノワールが名乗りを上げ、魔王を倒し、世界を人界と魔界に分けたと言う。人々はルースを勇者と称え、国王に祀り上げたのだ。それがニールデント王国のジルノワール王家の始まりである。

以後、ジルノワール家に後継者が産まれると、必ず冒険者としての経験を積まされることとなっている。

アルマーシュの父王も王位継承前には冒険に出、世を荒らす数々のドラゴンを退治した為に“竜殺しのオーロック”との勇名が世に知れ渡っている。

だが、あくまでも後継者の話だ。

アルマーシュにはグラナートと言う兄がいて、彼は臆病だが政治感覚には長けていると評判の男だ。女のアルマーシュが跡を継ぐ必要はどこにも無い。


「でもあの弱っちいお兄様では“代々勇者のジルノワール家”の慣習にそぐわないじゃない。お兄様が嫌だって言うなら、私いつだってこの家を継ぐつもりだから」

「姫様!」

「ロレンタは馬鹿にするけど、私だって“雌獅子のアルマ”ですからね」


胸を張るアルマーシュを、ロレンタは鼻で笑った。


「何が“雌獅子”ですか。例え世間で勇者であろうとも、(わたくし)にとって姫様は単なる“冒険狂いの行き遅れ”ですからね。さ、今夜の晩餐会は国外の貴公子方がいらっしゃる盛大なものです。きっちりめかしこんでお出になられないと」


ロレンタが手を叩くと、扉の向こうで待機していたらしいメイド達が二、三人部屋へとなだれ込んできた。

アルマーシュの抵抗も虚しく、身支度を整えていく。


「晩餐会?やだ!出ないから!」

「馬鹿なことをおっしゃい。今日は赤のドレスが良いわ。姫様は嫌がるだろうけど、コルセットはきつめに締めてね。ああ、髪はきっちり結い上げること。いいわね」


アルマーシュの意見など聞く耳を持たないと言った風に、ロレンタはメイド達にテキパキと指示をしていく。


出来上がったのは三十分後。

スカートが豊かに膨らんだ真紅のドレスに、きっちり編まれたストロベリーブロンドの髪とティアラが眩しい。

不機嫌そうな顔さえなければ、どう見ても麗しい姫である。


「さ、姫様。晩餐会まではこの御自室でお時間を潰されませ。宜しければ話し相手にーー」

「いらない!」


ロレンタの申し出にアルマーシュは首を振った。


「私、少し一人になりたいの。晩餐会って緊張するじゃない?」

「まぁ……確かに」

「だからお願いよ、ロレンタ。少し昼寝もしたいし、ゆっくりさせて」


鬼と恐れられている大魔法使いロレンタも、アルマーシュの大きな緑の瞳に見つめられると、どうも強く出られない。


「……わかりました。晩餐会の一時間前にはメイドを迎えによこしますからね」

「ありがとう!」


笑顔のアルマーシュを部屋に残し、ロレンタとメイド達は去っていった。

残されたアルマーシュの頬が緩む。

何という子供騙しな言い訳に引っかかってくれたのだろう、そう思うと笑い声がもれそうで、口を押さえないと危なかった。


アルマーシュはまず、魔力を練ると使い魔を呼び出した。煙と共に現われたのは、羽の生えた白い(ヒョウ)である。大きな体とそれに見合うだけの翼がいかにも魔獣と言った雰囲気で、毛並みはしなやかな体のラインに沿って艶めいていた。彼はアルマーシュの魔力により従っている魔獣で、名前をアグニィと言う。


「アグニィ、ごめんね急に呼び出して」

「別にヒマをもてあましてたからいい。それにしても城で呼び出すとは大胆だな、アルマ」


アルマ、と言うのは冒険者としてのアルマーシュの名前である。元の名前が長いから、というのもあるが、呼びやすくて身分も隠せるので丁度良いとアルマーシュは気に入っていた。

アグニィは毛足の長い絨毯の上に、気だるげに寝そべる。


「酷い格好だなアルマ。コテコテに飾り立てた様子が何とも笑えてくる」

「でしょ?本当迷惑なんだよね」


アルマーシュは髪に挿してあったティアラを乱暴に抜き取った。


「ねぇ。アグニィなら、ここから冒険者ギルドまで私を乗せて飛べるよね?」

「可能だが……その格好で行くのか?あまり感心はせんが」

「こんなドレスで行くわけないじゃない。ちゃんと着替えてからにします!」


アルマーシュは乱暴な手つきでドレスを脱いでいく。途中コルセットを外すのに手間取ったが、アグニィの前足で編み上げの結び目を押さえてもらい解決した。


ロレンタに見つかれば処分されてしまうため、大事にベッド下の宝箱にしまってあった装備一式を、アルマーシュは素早く身につける。中央に竜の刻印のある白銀のプレートを胸に、足元は革のズボンと膝下まであるブーツを履き、軽装ながらも立派な冒険者の装備に着替えた。


「槍を忘れるなよ」

「そうだ、いけないいけない」


アグニィの忠告に、慌ててソファの下を探る。そこには見事な細工の施された白銀の槍があった。


「これがないとね」


アルマーシュは槍使いである。長身でもないし、身のこなしからも剣より槍の方が向いているだろうと冒険者の先輩達から勧められて始めたのだった。やってみるとなかなかに使いやすいし、自分に合っているような気がして以来ずっと槍を獲物に戦っている。


「じゃあ、行きますか」

「行き先は冒険者ギルドで良いのか?」

「うん、パーティのみんなはいるかなぁ」


アルマーシュにはよくパーティを組む馴染みのメンバーがいる。

それぞれ剣士、魔法使い、弓使いである。最近はずっとこの三人と冒険を共にしていた。


「三人の誰かはいるだろう。いなきゃ、使い魔で呼び出せば良い」

「そうだね。じゃ、とりあえずこんなつまんない城からは出発!」


アルマーシュの号令と共に、アグニィは空へと飛び立った。白い翼を広げ、風を切るように飛ぶ。アグニィの魔獣としての種族名はコアトルレパードと言い、飛ぶタイプの魔獣の中でもかなりの速度を誇る。おそらくロレンタが気付いたとしても、アルマーシュを止めることは出来なかったに違いない。


しかし、これがアルマーシュの最後の冒険になってしまった。

冒険者ギルドについたアルマーシュは、いつものパーティメンバーと合流し、古城をねぐらに周辺の畑を荒らしまわっている小鬼退治の依頼を受けてしまう。


それが魔王様との出会いとなろうとは、一体どこの誰が予想しただろうか。



□□□



唇を柔らかなものが押し広げてくる感触と、口内に何だかピリピリと痺れる液体が流れてくる刺激に、アルマーシュは目を開けた。

目の前には長く黒いまつ毛と、黒曜石をはめ込んだような切れ長の瞳がある。さらさらと頬にかかるのは、夜よりも黒く長い髪であった。


「いやぁぁっ!」


キスで目覚めさせられるという無礼に思わず悲鳴をあげて横っ面を張り倒してしまったが、肝心の魔王様ザフィーロは平然としている。


「気付け薬の味が気に入らなかったか?ともあれ目が覚めて良かった。気分はどうだ」

「さ、最悪よ!」


慌てて口を拭うと液体の感触がした。おそらくは口移しで気付け薬を飲ませてくれていたに違いないが、アルマーシュには詫びる気などさらさらなかった。


「乙女に勝手にキスするなんて!」

「勝手に?気付け薬を飲ませるのにいちいち同意を得ねばならんのか」


そう言うとザフィーロはアルマーシュのはねのけた掛け布団を直した。

アルマーシュは豪奢なベッドに寝かされており、見知らぬ室内は古めかしいものの綺麗に整えられている。恐らくは客間なのだろう。よく見ると服装も簡素だが素材の良さそうな寝間着に変えられていた。


「ど、どう言うことよ!これは!」

「うーん、説明しても良いが、俺が説明するよりは適任がいるから、そいつに任せようかな」


客間のドアがゆっくり開くと、そこにはアルマーシュのパーティメンバーで、石に変えられたはずの魔法使い、エレーヌがいた。


「エレーヌ!無事だったの?」

「うん。ここでしっかり手当してもらったから。とりあえずアルマちゃんは混乱してるからって、ザフィーロ様から命じられて……」

「ザフィーロ様?」


アルマーシュは眉をひそめた。

魔物を倒す冒険者として、魔族の王に敬称を付けるなどあって良いものだろうか。しかしエレーヌは首を振る。


「アルマちゃん、誤解なの。とりあえず私の話を聞いて!」

「……分かった」

「じゃあ、エレーヌ。後は頼んだから」


ザフィーロはマントを翻すと、客間から颯爽と出て行った。

後には混乱したアルマーシュと、前の戦いの名残で包帯を巻かれたエレーヌが残る。


「エレーヌ、他の二人は?」

「ああ、二人とも石化する前の傷が酷かったらしいから、まだ医務室だと思うよ。私は石化以外は特に大きな怪我もなかったから、額の傷の手当ぐらいで済んだけどね」


へへ、とエレーヌが笑いながら額の包帯を撫でた。


「でもアルマちゃん、とりあえず大変なことになってるのよ」

「分かってるよ。小鬼退治で魔王に出くわすなんて相当大変なことだよ」


エレーヌは険しい顔で首を振る。


「それじゃないよ。ザフィーロ様のことだよ。ザフィーロ様はアルマちゃんのことが気に入ったから、自分の嫁にするんだって人界にも魔界にもお触れを出しちゃったんだよ」 「ええっ!」


確かに気を失う前に、ザフィーロは“俺と結婚してくれ”と言っていた。だが実際問題人界の姫と魔王が結婚するなど普通ではあり得ない。

ましてや父王はドラゴンをも恐れない勇者“竜殺しのオーロック”である。お触れを出したところで魔族に屈するとは思えなかった。


「お触れはいつ出したの?」

「アルマちゃん魔力使い果たしたせいで三週間ぐらい寝てたから……お触れは大体一週間くらい前かな?だからそろそろニールデント王国から使いの人が来るんだって」


魔界まで派遣されるとしたら、王国一の魔法使いであるロレンタしかありえないだろう。アルマーシュは少しうんざりした。思えばロレンタを欺いて外出した結果、こうなってしまったのだ。ロレンタからすれば怒り心頭に違いない。


「うっ……やだなー」

「そりゃあそうでしょうね。アルマーシュ姫様、私もこのような形で再会するなんて心外ですわ」


聞き慣れたキンキン声に耳を押さえるが、叱られるのが怖くて目はつむれない。普段より生地の良いドレスに礼装用のローブを着たロレンタは、怒り心頭に達したと言わんばかりの形相でアルマーシュを睨んでいる。


「姫様、ご機嫌麗しゅう」

「ロレンタ……ごめんね、魔界までの旅は大変だったよね」

「いいえ。ドゥンケルハイト家から手配されたグリフォン車のお陰で、随分と快適な旅でしたわ。姫様はご存知?魔界の王族はグリフォンに車を牽かせる事が可能なんですって」

「へ、へぇー……それは、すごいね」


ロレンタはイライラしたように、右手に持った杖を左右に揺らした。何度この杖から放たれる電撃で体を撃たれただろう。アルマーシュは恐怖に身を硬くした。


「で、姫様。お式はいつになさいますの?」

「は?」


てっきりいつもの電撃が落とされると思っていたアルマーシュは、ロレンタの意外な言葉に目を見開いた。


「な、何を言っているの?ロレンタ、貴女は私を助けに来たんじゃないの?」

「姫様こそ何をおっしゃっているのやら。私は父王様より命を受け、この婚儀をつつがなく行うための特使として参りましたのよ」

「婚儀!?」


アルマーシュは思わず叫んだ。人質になった自分を引き取りに来てくれたのだと思っていたロレンタが、まさか進んで自分を魔界に売り飛ばそうとしていたなんて。幼少のみぎりより世話になっていたロレンタの裏切りに、アルマーシュは世界が歪むような絶望感を味わった。


「そんな……ロレンタ」

「そんなも何も、姫様が悪うございます。あの日に大人しく晩餐会にさえ出ていれば、同じ人族の貴公子との縁談がなされていたのですから」


そう言うとロレンタは杖を再び左右に揺らした。

確かにロレンタの言う通り、こうなったのは何もかもアルマーシュの自業自得ではある。だが勇者の家系から魔王の家に嫁ぐなんて話が通るのだろうか。

アルマーシュはすがるような目でロレンタを見つめた。


「でもジルノワール家は勇者の家系よ。体面的にも魔王と結婚なんてできないはずよ。こんな婚儀、勇者と名高いお父様が許すわけない!」

「残念ながら。父王様はこの婚儀に大賛成ですわ。くれぐれも娘をよろしくと魔王様に親書までお送りなさっていますからね」


父王まで敵に回ったとの情報に、アルマーシュはがっくりと肩を落とした。


「アルマちゃん、残念だけど……でも、魔界の人達も良い人達だよ。手当、丁寧だったよ」


エレーヌの慰めも耳を通り抜けていくようだった。アルマーシュの脳裏にはただ一言“逃げられない”という文字が浮かぶのみ。

父王が親書まで送った婚儀を踏みにじれば、もう人界に居場所はないだろう。冒険者ギルドどころではない。自分がお尋ね者になる可能性すらある。


「姫様、ご婚約おめでとうございます」


皮肉たっぷりのロレンタの言葉に、アルマーシュはただ力なく頷くのだった。



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