I プラネット
眼下に青と白が広がるのを見たとき、ずいぶん遠くまで来たんだなと思った。
機体は上昇を続け、あと少しで空から宇宙へと移り変わる。曖昧になる藍色をぼうっと見つめる。
地上ではこれから僕が見てる光景を、中継でも観られるよう配信が準備が進められている。
中継が始まったら、行きつけのカフェに昔馴染みが集まって上映会をするらしい。小さいモニターしかないのに、わざわざ集まるなんて。思い出すと笑みがこぼれる。
ふとそのカフェに飾ってある絵のことを思い出す。空を漂うように飛ぶ、男の絵だ。
店主の女主人が昔、誰かから貰った絵らしい。
絵の中の男は空を漂いながら、手を上に伸ばしていた。届かない宇宙を見上げて、哀しい笑みを浮かべていた。
初めてこの絵を見たとき、
この人を宇宙へ連れて行きたい、と思った。
それが宇宙飛行士を夢にした、僕の始まりだ。
アナウンスが流れた。機体がもうすぐ宇宙ステーションに着く。いまの僕たちが行けるのはここまで。今の人の技術ではこれ以上は進めない。
それでも、辿り着いた。
僕は辿り着きたい場所まで来た。
僕は満たされたんだ。
明日の誰かがもう一歩先に行ってくれればそれでいい。絵の中のあの人もそう思ってくれてるだろうか。
さてと、いい加減仕事に取り掛かろう。消化しないといけない案件が山ほどある。
起ち上がろうと顔をあげると、ニールセンが呆れ顔ででこっちを見ていた。
僕は曖昧に笑い、仕事に取り掛かった。