第三話 少し、時が経ちまして。
「ゼタ君。君はこれから、どうするの?」
「街に行きたいと思っていて」
「そっかー」
金髪ショートのケモ耳少女が興味深そうに息をつく。
この狐人族の少女はノエルと言って、『カナリア劇団』の団員だ。
成り行きで、俺も劇団に入ることになったのだが、妙に実感がない。
この世界に来て、もう一週間は経つのだが、ノエル以外の団員とはあまり仲が良いわけではない。悪い訳ではないのだが、たまに話をする程度である。
ノエルとも、
「次ぎに行く街って、美味しいものがいっぱいあるんだって。気になるよね?」
とか、そんな他愛もない話をするばかりだ。
オスカーから【演劇】スキルを教えてもらったが、まだ使いこなせる自信もない。
正直頑張ろうとは思っている。
しかし、あれだ。
【猫だまし】
あのスキルについて、ここ一週間でわかったことがある。
まず、狼達を気絶させたあの猫だましは、【猫だまし】【奇術】【手拍子】の三つのスキルが相乗効果を生んで使うことが出来たということ。
例えば【猫だまし】と【奇術】だけなら、半減する。精々一人気絶させるくらいだ。
それでも、結構強いのだが……まぁいい。
同時に三つのスキルを使うことであの威力が出せる。
実験した所、スキルの組み合わせによって効果が異なる。
【歩行】や【蹴り】【踏みつけ】等でもそれは実証済み。
さらに言えば【演劇】も【猫だまし】に組み合わせることが出来ることがわかった。
いくつかのスキルはレベル10になり、そのおかげでスキルの進化に必要なSPが3溜まった。
で、現在のステータスがこちら。
ゼタ プレイヤー Man
人間種
スキル SP:3
【蹴りLv11】【跳躍Lv2】【猫だましLv5】【奇術Lv3】【歩行Lv12】【手拍子Lv4】【聞き耳Lv10】【踏みつけLv11】【天気予報Lv4】【演劇Lv2】
称号
『奇行士』
なんか、いらないものが増えている。
『奇行士』って何だよ。けんか売ってんのか?
俺は、そんなに奇行を繰り返した覚えはない。
馬車に揺られること数時間、街が見えてきた。
馬車に揺られ、検問を通り、劇団はシューフェの街までやってきた。
この街は、古今東西の食品が集められており、其処彼処からいい匂いがただよる。
宣伝広告や暖簾が町中にあり、最早名物になっている節もある。
なんといっても、ここは食べ物の街なのだと主張が激しい。
「どうだ新入り。スゲエだろ」
声を掛けてきたのはドワーフのカルデナンド、通称カルさん。小道具担当の団員だ。特技は鍛冶で、武器より小道具等の方が得意らしい。
「はい」
俺は素直に頷き、視線を次から次へと移す。
街の住人は、俺たちのことが物珍しいようで、興味深げにこちらを見ていた。
「カルさんカルさん!」
「どうした新入り」
「今、パンツ見えました!」
「マジか! どの娘? どの角度!?」
「あそこの、ミニスカートの娘です! 斜め20度くらいから見えます!」
「おっ。マジだ!」
この人、結構ノリがいい。
と、そこへ住民達の話し声が聞こえてくる。
「あれって、『カナリア劇団』じゃない?」
「え? あの『カナリア劇団』?」
どうやらこの劇団のことを知っている人達のようだ。
「ここ劇団って、有名なんですね」
「あー。違う違う。ありゃ、ウチの団員達だ」
「え?」
「ほら、検問の後直ぐに、何人かが降りたろう?」
確かに……十人程馬車から降りていた。
「あいつ等は、宣伝係だな。この劇団のことを、丸で住人みたいに風潮するのが役割だ」
「ヤラセかよ」
衝撃の事実だった。
そういや、本当にどうでもいいのだが、魔王って何やってるんだろう。
この世界、見た感じ平和なんだよな。
世界にも魔王は認知されてるみたいだし、一体何処にいるんだろうな。
ん?
そう言えば、今日やる舞台のタイトルって……
「クックク。掛かってくるが良い、勇者!」
「行くぞ魔王!」
斬撃が飛び交い、その衝撃波が観客席まで届く。
観客は皆、思っているだろう。
『これは、本当に劇なのか?』と。
うん。正確に言えば、俺が【手拍子】と【演劇】【奇術】を組み合わせて衝撃波を出しているのだ。
いつもは、魔道具を使って衝撃波を出しているらしいのだが、壊れてしまってらしいので、俺が代役をこなしているのである。
機械の代役……悲しい。
今回のタイトルは『勇者物語』
約100年前にいた勇者の活躍劇だそうだ。
召喚された勇者が魔王を倒す旅に出る。という設定らしい。
まぁ、王道だな。
しかし、この劇団は他のどの劇団とも違い、特殊効果を使って演出しているらしい。
例えば、今俺が行っている『衝撃波』や、光魔法を使った『魔法の再現』など、いろいろな特殊効果を使い、観客達に魅せる。
それが、この『カナリア劇団』の舞台だ。
こんな、中世ファンタジーな世界でやってるんだ。物凄く儲かる。
給料も期待できそうだ。
今日の舞台も無事終了した。
所でだが、俺は今冒険者ギルドに来ている。
理由は簡単。素材の換金だ。
しかし……
「おい坊主。ここはテメェみたいな軟弱者が来る所じゃねぇよ」
なんか、絡まれた。
「えーっと」
うーん。大丈夫だろうか?
しかも、酒場の方からなんか声が聞こえる。
「あーあ。可哀想に」
「まさかあの『重剣のエルサス』に絡まれるとは」
「あぁ。悪夢だな」
なにその二つ名。めっちゃカッコいいんですけど。
しかも、強そう。
俺の目の前に経つ男は、正に蛮族と言った風貌をしており、背中に巨大な剣を背負っている。
「俺、素材の換金に来たんです」
「なんだ? お前、冒険者か?」
「いえ、決してそーゆー訳ではなくて。ただ、魔物の素材を換金するには何処ですればいいか聞いたら、ここを紹介された次第でして」
「でも、魔物を倒したんだったら、少しはやるってことじゃないか。だったら、一戦交えてみるか?」
駄目だ。
この人、聞く耳を持たない。
しょうがない。
ちょっとだけ、ちょっとだけだ。
「わかりました。勝負開始は、このコインが落ちたら出いいですね?」
俺は、持っていた銅貨を出す。
「おっ? やる気になったか。いいぜ来な」
コインを弾くと、一秒と経たずに落下を始め、その音がなると同時に……
ッパァァァァアアアアアアアアアン!
音が弾けた。
2つのスキルを同時に使用した猫だましだ。しばらくは起き上がることも出来ないだろう。
地面に伏せたエルサスは痙攣して、白目を剥いている。
「ふぅ」
俺は息をつくと、換金窓口へと進む。
「あのー。狼の毛皮と牙、爪を換金したいんですけど」
翌日。
今日の舞台も、人入りは上場だった。
昨日より少し増えたか?
それはそうと、今回の主役は団長……オスカーだ。
タイトルは『走れメロス』
日本人なら皆お馴染みの、あの小説を異世界の舞台でやるのだ。
正直言って、観客の反応が気になる。
しかし、問題が起きた。
「お前等、動くんじゃないぞ? この劇場は、我ら『血塗れ鳩』が占拠した!」
客の一団か立ち上がりいきなりそんなことを言い出したのだ。
あ。あいつ、覚えがある。
重剣のエルサスとか呼ばれていた冒険者だ。
ちょっと驚き。あのあと、起き上がれたのか。
俺は奴らに近づき、それぞれに猫だましを使って黙らせた。
そうこうしてるうちに劇は終わり、歓声が上がった。
結果的に言えば『走れメロス』は大成功だった。
しかし、さっき言った通り問題が起った。
俺の目の前には、ぐるぐる巻きにされたエルサスとその他複数が倒れていた。
「こいつら、どうしよう」