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侍女イリスは抱かれたい

きちんと三人称で書くのは初めてになります。拙い文章ですが応援していただけると嬉しいです。


 白を基調とする部屋は、ディーヴアルトの趣味である。

 人間世界で言えば男がまっピンクの部屋で過ごすのと同じくらい悪趣味な内装であるのだが、魔界の第三王子であるディーヴアルトに意見できる者など、この館には誰一人としていなかった。


「ディーヴアルト様。こちらが封魔の指輪になります。どうぞ左手の人差し指にご装着ください」


 使用人に、化学繊維で作られたシャツとパンツといういかにも人間らしい服・・・・・・・・・・のシワを伸ばして貰いながら、ディーヴアルトは指輪をはめる。


「これはどれほど力を抑えられるものだ」

「魔力が百万分の一ほどになり、身体機能も同程度に低下します」

「ほう。まあ人間相手には丁度よいぐらいか」

「くれぐれも加減をお忘れなきように」

「わかっている」


 両者ともに端正な顔立ちをした、いわゆる美形の魔族であった。


 一方は、背丈と同じくらい長く伸びたまばゆい金髪を持つ女性。

 魔界ではまだ少女と言って差し支えない年齢であるものの、胸の主張だけは一丁前に激しい。

 名をイリスという。

 魔界における位とは王族を除いて魔力の量によって決まり、イリスはルベルト家が治める南大陸でもディーヴアルトに次ぐ魔力量を保有している。


 もう一方が、ディーヴアルト・ルベルトその人。

 風もなくなびく漆黒の髪を鬱陶しそうにしながらも、決して短く切ることはない。

 スラリと伸びた体には程よい筋肉。

 病的なまでの白さをしていた皮膚は、指輪を装着すると同時に人間らしい色味が宿った。

 今のディーヴアルトをずばり言い表すならば「ガタイはいいが根暗なオタク(※ただし美形)」である。


「ハーデス王より課された使命は1つ。自身が魔族であることがバレないよう、上手く人間に溶け込んで生活をすること。それにより共生の方法を探るとのことです。週に一度、人間界から魔界に戻って頂き、レポートにて評価が行われます」

「そうか。一応、調査はするが、面倒な部分は任せる」


 人間との共存という口にするのも憚られるはずだったそれは、意外にも魔界全土からの反発は少なく、ハーデス王の全軍ですら単身でねじ伏せることのできるディーヴアルトも、王として魔界を統べるためにはこの儀式に従わなければならなくなった。


「人間には“巫装アルマ”なる術技がございます。魔力を自由に扱えない彼らが編み出した、力を武器として具現する方法です。原則として各個人の資質により具現する武器は一つに決まっておりますので、ディーヴアルト様も魔力で具現化する武器をお決めになってください」


 武器とは本来、機能を追求した果てにあるもの。

 しかし、現代の人間界においてそれは、ただの力の媒介である。


 イリスは傍らに伏せてあったカタログを取って広げ、人間たちが思い思いに変形させた武器の一覧をディーヴアルトに見せた。


「魔界はこのような玩具に苦戦を強いられてきたわけか。滑稽だな」

「人間の力も中々に侮れないものにございます。その一部には、かつて魔界を震撼させた勇者の血が流れている者もいると聞いております。彼らの操る巫装アルマには、神の力が宿るとか」

「それは歯ごたえがありそうだ。ぜひお目にかかりたいものだな」


 ディーヴィアルトはさして興味もなさ気に言うと、一つの武器を指差した。

 それは刀と呼ばれるもので、反りのある剣身と片側にだけある刃が特徴の武器である。

 とは言っても通常の武器としてのそれとは趣向が異なり、ディーヴアルトがその魔力で具現化させたのは刀身がうねりながら反り返っている真っ黒な長刀であった。


「これなら少しは魔族らしかろう」


 イリスはそのの選択に瞬間の驚きを見せながらも、小さく頷いた。


「それにしても、人間と共存とはな。人間は愛玩するには良いものなのだが。ジジイどもも色遊びが過ぎて頭がおかしくなったか」

「魔の血が薄まれば魔力も弱まってしまう。しかし……」

「それでも魔族は強かった。魔界の歴史を変えるほどにな」


 ――魔族。

 それは人の形をした魔の眷属である。


 まだ神話に近い時代。

 魔王が人間の女性と子を成したことから、魔族という半魔の存在が誕生した。

 当時の魔界では半端者だと虐げられていたが、その数が増えるにつれてその圧倒的なまでの“個”の強さが表面化し、魔族たちを中心に魔界は支配されることとなった。

 彼らは人間を交配の相手として好んで選び、その度により強い子を産んでいったのだが、結果として分散した力は減少に歯止めがかからなくなり、ちょうど最適解を逃れるように魔界の勢力を衰退させていったらしい。


 ルベルト家は代々、人間との交配を禁じてきた家系だ。

 ディーヴアルトの父は魔族だが、母は蛇鬼族ラミアである。

 必ずしも魔の血が多ければ強い子が成せるとは限らないのだが、ディーヴアルトに至ってはクォーターまでその血を取り戻している。


「さて。これで準備も整ったか」

「はい。ですが、まだ時間がございます」

「そうか。では、手頃な女でも抱くか」


 その言葉を耳にしたイリスの目が、ギラリと輝く。

 いや、それは輝くというより燃えたぎると表現したほうがよいのかもしれない。


「最近新しく雇ったメイドがいると聞いたな。それで済ませるか」


 ギリ……。


 発達した咬筋が盛り上がる。

 込められすぎた力に、口の端から赤い筋が垂れた。


「どうしていつも他のメイドばかり……」


 怨嗟のうめきが地面を這いずり回る。

 ディーヴアルトはその様子を横目に部屋を出た。


 イリス・シュヒリテリ。

 ディーヴアルトに10年仕えるも、今だ純潔に染まっている。



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