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第2章第3話 「決戦!vs土蜘蛛」

いよいよ初めてのボスキャラ、土蜘蛛との戦いです。


「一馬の旦那、もうそろそろだ」


 後ろ手に縛られ先導していた猿彦が振り返って言う。

 すると一馬は握っていた猿彦を縛る縄の端を放し、草薙の剣を抜いた。


 ――カズマ、どうするつもりだ?

 どうせ戦いになったら縄は持ってられないし、ここで猿彦を放してやろうと思って

 ――大丈夫なのか?

 たぶん、ね。そんなに悪い奴だとは思えないし、嘘ついてる様子もないし

 ――騙されている可能性はないのか?

 そうかもしれないけど、まあ気を付けるよ


「旦那、どうかしたのかい?」


 一馬が声を出さずに朱雀と話をしていると、猿彦が不安そうに声を掛けてきた。

 考えてみれば当然だろう、自分を捕まえた男が剣を抜いたまま何も言わず立っているのだから。

 猿彦に声を掛けられてそのことに気が付いた一馬は、そのまま剣で猿彦を縛っている縄を切ってやった。


「いいのかい、旦那。俺はありがてえけど」


 猿彦が縛られていた腕をさすりながら驚いたように一馬に問いかける。


「いいよ、猿彦が俺を騙そうとしているようには思えないし、信用するよ」

「信用……そんなもんされたのは何時ぶりだかな……」


 猿彦は急に真顔になって、一馬に言った。


「俺は村の奴らから金を巻き上げるロクでもねえ野郎だが、旦那の信用には応えてえ」

「そうしてもらえるなら助かるな」

「旦那、ちょっと待っててくれるかい?」


 そういうと、猿彦は少し先まで走って行った。

 そのまま走って逃げるのかな? と一馬が思った時、猿彦は口に手を当てて「ホーウ、ホーウ」と獣の鳴き声のような声を出した。

 そのまま待っていると5分もしないうちに猿彦の周りの茂みがガサガサと揺れ、3人の男が現れた。

 これが猿彦の言っていた仲間たちなのだろう。


「おい猿、なんでテメエ昨日戻ってこなかった」

「てっきりテメエがやられたのかと思ったぞ」

「つい今しがた大耳のオヤジから村にテメエの様子を見に行けと言われたところだ」


 3人の男が口々に猿彦に話しかけ、後ろにいる剣を持った一馬に気が付いて緊張した様子を見せる。


「なんだ、こいつ、テメエが連れてきたのか?」

「そうだ。一馬の旦那だ。俺が連れてきた」


 猿彦は3人の男たちにあっさりと一馬のことを告げた。


「どういうことだ、猿よ。テメエ、裏切ったってことか?」

「そう言う事なら只ではおかねえぞ」

「説明してもらおうか」


 3人は一斉に手に持った刀を抜き、真ん中の一人は猿彦に、左右の二人は一馬にそれを向けた。


「やめておけ、お前達が手におえる旦那じゃねえ」


 猿彦はそういったかと思うと、トンボを切って一馬の横まで戻ってきた。


「この旦那はな、お前たちが見たこともネエぐらい強え」

「何言ってやがるんだ猿! テメエ日和りやがったな!」

「お前らがかなう相手じゃねえよ。お前らもとっとと降参しちまえ」

「なんだと、こんなのちょっと背が高いだけのヒョロい坊ちゃんじゃねえか!」


 背が高いだけのヒョロい坊ちゃん……一馬はちょっとだけ地味に凹んだ。


「悪いことは言わねえ、やめとけって」

「うるせえぞ、猿! おい、やっちまうぞ!」


 三人の男たちは刀を構えて一馬を取り囲んだ。

 その構えは、なるほど猿彦よりも酷いものだ。

 手ぶらの猿彦は一馬の後ろに回って囁く。


「旦那、もし良ければこいつらも殺さねえでやってもらえませんか?」

「分かった、そうするよ」


 一馬は両手で草薙の剣を神無威の刃が下を向くように構えた。

 相手の腕はたいしたことはなさそうだが、真剣を持っているうえに三人だ。

 慎重に男たちとの間合いを取る。


 ――さて、カズマ、どう戦う? 

 いっぺんに相手にするのは避けたいな

 ――ふむ。ではどうする?

 一人ずつ誘ってみるかな


 そう朱雀と話した一馬は、あえて体を正面と右側の二人に向け、左側の一人を視線から離した。

 無論視界の端には入るように微妙に計算して、である。


 三人の男がわずかに視線を交わしてアイコンタクトを取る。

 ……来るな。

 一馬がそう思った瞬間、前の二人がほぼ同時に斬り掛かってきた。

 さすがは一味、連携しての戦いには慣れているようだ。

 それに対して一馬は片方の刀を剣で払い、もう一方の刀を巻いて姿勢を崩した。

 その瞬間、後ろの男が気合いと共に切りかかってくる。

 あらかじめ前の二人は陽動で本命は後ろだと読んでいた一馬は、振り向きざまにその一撃をかわすと同時にすかさず胴を斬る。

 神無威の刃で斬っているので実際は切れていないが、その衝撃と痛みで斬られた男は倒れ込んだ。

 一馬が残る二人の男の方へ向き直ると、二人とも一馬の腕前に驚いたようだ。


「て、テメエ、なんてことしやがる!」

「やりやがったな!」


 そう言われてもそっちから来たんだけどな

 ――リョウマ、今のは上手かったな

 まあ何とか上手くいったね


 頭の中で朱雀と短く言葉を交わすと、一馬は男たちに声を掛けた。


「どうだい? この辺でやめておかないか?」

「ふざけんな! さてはテメエ、ビビったな?」


 そう叫びながらも男たちは相当警戒しているようで、なかなか攻撃してこなくなった。


 ちょっとまた誘ってみようか。


 一馬は前にいた男に正対して正眼に構えた。

 そこから右の男を無視して目の前の男に対し猛然と打ちかかる。

 相手が受けるのもお構いなく続けざまに打ち込むと、相手の男は必死になって受け止める。


「おあらあ!」


 その隙をついて右の男が叫びながら切りかかってきた。

 一馬は予期していたその一撃を難なく受け流し、その流れのまま袈裟懸けに相手の右肩を打つ。

 その男が痛みのあまり転がりまわるのを無視し、残る正面の男に剣を突き付ける。

 男は恐怖のあまり目を見開き、震えながら刀を構えている。


「どうだい、その辺にしておけよ」


 猿彦が一馬の後ろから男に声を掛けた。


「う、うるせえ、こんな所でやられてたまるかってんだ!」

「ちょっとそいつらを見てみろ。二人とも斬られちゃいねえ。血も出てないだろうが」

「な、なんでだ。確かに斬られただろうによ……」

「それがその旦那の凄えところだ。有り難いことに俺もそれで命を助けてもらったんだ」

「こ、殺すつもりはないってことか?」

「そうだ。おめえらが素直にしていれば命は取らねえとおっしゃってる」


 一馬も猿彦に乗って剣を構えたまま言う。


「お前達が今後いっさい葛城村に迷惑を掛けないと約束するなら、この二人を連れて行っていいよ」

「ほら、旦那もこう言って下さってる。とっとと降参しちまえよ」

「そ、そんな甘えこと言って、後ろからバッサリ行く気じゃねえだろうな?」

「お前、阿呆か。旦那がお前を斬りてえなら、そんなまどろっこしいことする必要ないだろうがよ」


 男はしばらく悩んでいる様子だったが、しばらくすると諦めた様子で剣を投げ捨てた。


「分かった。降参だ。今後いっさい村には関わらねえ。大耳とも縁を切る。だから命は助けてくれ」

「へへ、やっと分かりやがったか」

「じゃあその人たちを連れてどこへでも行っていいよ。でももしまた村に現れたら……」

「いや、もう金輪際あの村には関わらねえ。だから許してくれ」

「んじゃそいつら連れてとっとと消えな。達者で暮らせよ」

「猿、オメエは来ないのか?」

「俺はこの旦那を大耳の所に案内しなきゃいけないんでな」

「そ、そうか、気を付けろよ。んじゃ旦那、俺たちはここで失礼しますぜ」

「うん、真面目に生きるんだよ」


 男は倒れた二人を助け起こして一馬に頭を下げると、森の中へ消えていった。


「猿彦、一緒に行かなくてよかったの?」

「約束通り大耳の所へご案内しますよ。旦那の信用に応えなくちゃならねえ」


 猿彦は見た目の割に律儀なようだ。

 信用してもらったのがよほど嬉しかったのだろうか。



 そこから少し歩いたところに、猿彦の言っていた洞穴があった。

 入り口には柵で出来た扉があり、中はそこそこ奥が深いようで暗くてよく見えない。


「旦那、中に大耳が居るはずです。ご案内します」


 猿彦は小声でそう言うと、そっと扉を開いて中に入って行った。

 一馬も剣を片手にそれに続く。


 ――土蜘蛛の大耳、と言ったな

 うん、朱雀知ってるの?

 ――知っておるような、知らぬような

 なんだよ、あやふやだなあ

 ――じゃが、土蜘蛛というのは知っておるぞ

 何?教えてよ

 ――土蜘蛛というのは八百万の神の一つの名でな

 うん

 ――国津神くにつがみというて、アマテラスに従わぬ地の神の中の一族だ

 へえ、じゃあやっぱり「土蜘蛛の大耳」って

 ――間違いなく人ではなかろうな

 分かった、ありがとう


「いました、あそこです」


 猿彦は一馬に囁くと、蝋燭で照らされた部屋の奥の椅子に座る男を指さした。


「大耳のオヤジ、猿彦でさあ」


 猿彦はことさらに明るい声で土蜘蛛の大耳という男に語りかけた。


「猿、オメエが連れてきたそいつは誰だ」


 男が低い声でそれに応じた。


「へへ、さすがはオヤジだ、隠せねえな」


 猿彦はそう言うと、一馬の顔を見た。


「旦那、あとはお任せします」

「ありがとう、助かったよ」


 一馬は部屋の中に入って男の正面に立った。


「あんたが土蜘蛛の大耳か」

「オメエは誰だ」

「渡辺一馬という。なるほど、やっぱりあんた人間じゃないな」


 一馬の目には蜘蛛が化けていることがわかる。


 ――カズマ、お主こ奴の本性が見えるのか?

 うん、昔からね。こいつは蜘蛛みたいだね

 ――その力、ごく限られた者にしかないものだぞ

 そうなんだ、知らなかったよ


 一馬は神無威の刃を男に向け剣を構える。

 男は左右の手にそれぞれ刀を持って一馬と向かいあった。


「二刀流とは器用だな」

「叩き斬ってやる」


 男は左右の刀で斬りかかる。

 右が上から来ると思えば左は胴を狙ってくる。

 しかし一馬はそれらを上手くかわし、捌きながら斬りつける。

 男の攻撃は早いがそれほど力は強くない。

 剣の心得がなければ対応できなかっただろうが、永年の鍛錬のおかげで一馬は十分に対応出来ていた。


 ――早いは早いがさほどではないな

 そうだね、何とかなりそうだ

 ――いずれ本性を現そう

 それからが本番だね


 一馬は逆にこちらから男を挑発してみることにした。


「いい加減化けるのはやめて、正体を現したらどうだ?」

「俺の真の姿が見えるのか」

「ああ、名前の通りの姿がね。だから隠すことはない、本性を出しなよ」

「小僧、俺が恐ろしくねえのか?」

むしはあんまり好きじゃないけどね」

「地の神である俺様を蟲けら呼ばわりしやがって。後悔しても遅い」


 男がそう言った途端、みるみるうちにその姿は巨大な蜘蛛の形に変わった。


「これは地の神っていうより物の怪だな」

「こいつ、言わせておけば。殺して喰ってやるわ」


 背丈は一メートルぐらいだが黒地に黄色の縞の入った体は毒々しく、長い八本の足がうねうねと動く様は気味が悪い。

 しかもその左右の前足で器用に二本の刀を持っている。

 部屋の外から覗いていた猿彦がその姿を見て、わっと小さく悲鳴を上げて洞穴の外に逃げ出す。

 土蜘蛛は大きく跳躍して一馬に飛び掛かり、上からその大きなあごで食いつこうとした。

 一馬がそれを後ろに飛んでかわすと、土蜘蛛はその前足で持った刀で切りかかる。

 一馬はそれを神無威の刃で受け止め、弾き返す。

 そうして剣で次々とくる相手の攻撃をさばきながら、一馬は朱雀と話す。


 ――両足の刀に牙とは厄介じゃな

 まさか毒とか持ってないよね

 ――蟲毒(こどく)という言葉もある位じゃ、あると思っておいた方が良かろう

 うへえ、やだなあ


 毒があるとなれば、かすり傷も致命傷になりかねない。

 一馬は緊張感を持って、より慎重に戦うことにした。


 斬りつけてくる土蜘蛛の左右の刀を受け止め、払う。

 噛みついてくる牙を飛んで避ける。

 対応できないほどの攻撃ではないが、二刀流に加えて牙が加わったことで格段に難易度が増した。

 仕方なく一馬は土蜘蛛から少し距離を取って戦うことにした。

 これで噛みつかれる可能性が減る分、対処は楽になる。

 しかし同時に一馬の攻撃も相手の身体には届かない。


 長期戦になりそうだな。そういえば、猿彦が言ってたよな。見えない糸で縛り付ける、だっけ


 一馬が猿彦の言葉を思い出していたその時、突然剣が何かに引っ張られて動かなくなった。

 力いっぱい引き戻さないと剣を持って行かれそうだ。


 ……なるほど、これか

 今になって猿彦の言葉を思い出した一馬に土蜘蛛が勝ち誇ったように言う。


「どうじゃ、動けまい。ゆるゆるとお前を捕えて喰ろうてやろうぞ」


 剣はほとんど動かせない。

 これはピンチだな、と思った一馬に朱雀が話しかけてきた。



 

戦闘シーン、難しいですよね。

同じ描写の繰り返しが長々続くのは個人的に苦手なのでこういう感じにしてみましたが、どうでしたでしょうか?

簡単でもご意見やご感想を頂けると嬉しいです。

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