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第2章第1話 「葛城の村」

2日続けて2話投稿したので、貯金が底をつきそうです。

頑張って書きたいと思います。


 一馬は麓にあるという葛城の村を目指して歩き出した。

 時折、剣の柄に手を掛けて朱雀と話をする。


「結構遠いね。しかも誰の姿も見ない」

 ――この山は霊山とされ、人が住むことを禁じておるそうだ

「へえ。俺のいた世界の桂山も霊山だって言われてたんだよ。何かと共通点が多いな」

 ――ふむ。何かしらの繋がりがあるのやもしれぬな

「しかし、喉が渇いたなあ」

 ――どこぞに川でも流れておるじゃろう

「ここでは水道とかなさそうだもんな」

 ――水道、とは何ぞ

「人が管の中に水を通していつでも水が使えるようにしたものだよ」

 ――しかるに水の道、か。カズマのおった世は何かと便が良さそうだな

「朱雀が見たら驚くと思うよ」

 ――見てみたいものだな


 途中見つけた川で喉を潤した一馬はそのまま川の流れに沿って山を下り、夕暮れになって村にたどり着いた。


「やっと着いたみたいだね」

 ――なかなか遠かったの

「うん、お腹が減ったけど……お金とか持ってないしどうしよう」

 ――おかね、とは何ぞ。金や銀なら知っておるが

「あ、ひょっとしてお金とかないのか。貨幣とか知らない?」

 ――かへい、とは聞いたことのない言葉じゃな

「うわあ、マジか。ここって基本自給自足?」

 ――自給自足? 「自らたまい、自らる」か。そうじゃな、この世の多くの民は望む物の多くを自ら作り、あるいは狩って手に入れておるの。

「やっぱりそうか。物々交換とかしないの?」

 ――無論、欲しい物のすべてを自分で用意できるものではない故、他の者と互いに交換はしておるな

「そうかあ。俺お腹減ってるんだけど、交換するような物持ってないよ」

 ――何かないのか?

「ちょっと待ってて。何を持っているか確認してみる」


 一馬は手頃な石に座って学生服のズボンのポケットの中身を確認し始めた。

 入っていたのは青いハンカチにポケットティッシュ、生徒手帳とボールペン、あとは右のお尻のポケットに、自分で入れた記憶のない、いかにも女子の物っぽいピンクの小さな折り畳みの鏡。


「この鏡、ヨシの悪戯だな……あいつめ」


 河童と人間のハーフであるヨシこと河野義則は下らない悪戯ばかりを繰り返している。

 一馬に通学途中の奇襲攻撃を見破られてばかりいる腹いせに、誰か女子の鏡を失敬してきて部活の間にでも入れたものだろう。

 持っていた鞄でもあれば携帯電話やノートなどもあっただろうが、元の世界に置いてきたらしい。

 持ち物確認が終わった一馬は、朱雀に相談しようと剣に手を掛けた。


「朱雀、こんなものしか持ってないんだけどどうかな」

 ――おお、どれも見慣れぬ珍しいものだな。その青い布は何だ?

「ハンカチだね。これで濡れた手を拭いたりするんだ」

 ――なんとも美しい色だな。充分交換に使えるのではないか。そちらの白く四角いものは何だ

「ポケットティッシュ。中に薄い紙が何枚も入っていて、鼻をかんだりする時に使う」

 ――鼻をかむのに紙を使うだと? 信じられぬ。民草は紙など一生涯見ることもないものも多いというに

「そんなに貴重なのか。でもそれだと逆に交換には使いにくいかもしれないな」

 ――うむ、鼻をかむための紙など誰もよう使うまい

「だね。で、これは文字を書くための紙を綴じた物で、こっちは文字を書くための道具だよ」

 ――ほほう。便利なものじゃなあ。カズマはそちらの世では余程の大尽なのか

「大尽、ってお金持ちってことかな? そんなことないよ、誰でも持ってるものだし。ほら、これ見て」


 一馬は朱雀に生徒手帳の学生証の写真を見せた。


 ――なんと! この中にカズマが封じ込められておるではないか!

「あはは、封じ込められてるわけじゃないよ。写真、って言って人や物をありのままに写した絵だよ」

 ――とても絵には見えぬ。描いた者は間違うことなく天下一の絵師に違いない。

「大げさだな。後はこれだけだね」


 一馬はピンク色の折り畳まれた携帯用の鏡を広げて見せた。


 ――これは、鏡か! しかし今まで我が見たいかなる鏡とも違う。これほどまでに鮮やかに写るとは……

「そんなに珍しい物なのか」

 ――しかし、お主誰かに似ておるの


 鏡に映った一馬の顔を見て朱雀は誰かを思い浮かべたらしい。


「そう? あまり言われたこと無いけど。誰?」

 ――うーむ、誰であったか……思い出せん。まあよい、それにしても見事な物だ


 そうか、きっとこの世界はそもそもガラスがないんだな。確か江戸時代でさえ珍しかったみたいだし。

 一馬はそのことに思い当たって納得した。


「じゃあこの鏡も交換に使えそうだね」

 ――う、うむ、いや、しかし……これほどのものとなると、おいそれとは交換できぬであろう

「ちょっと珍しすぎるかな」

 ――まあどれもそうだが、特にその鏡は、な

「うーん、珍しすぎるのも考えものかあ」

 ――とりあえずはその「はんかち」とやらが良いのではないかとは思うが、それにしても普通の民では難しかろう

「じゃあ、どんな人相手ならいいのかな?」

 ――そうよな、やはり商いを生業としておるものが良いだろう

「あ、商売してる人もいるんだ」

 ――うむ、近頃の世は自らは田畑を耕さず、狩りもせず、物を別の物や銀、黄金と変えて生業を立てるものもおる

「そうか、ならそういう人相手に頼んでみればいいね」

 ――そうじゃな


 一馬は出した持ち物をすべて仕舞うと剣を左手に持ち、村の入り口とおぼしき方へ歩いて行った。



 村の入り口には簡単な木で出来た柵と木造りの門があり、門の脇には人が立っている。

 一馬は何か言われるかと思ったが、うさん臭そうには見られたものの何も言われず門をくぐった。

 村の中に入ると、両側にいくつか露店のようなものが並んでいる。

 露店、と言っても地面に直接ゴザを引いてその上に物を並べているだけだが。

 村に入っていきなりここがメインストリートのようだ。

 買い物をしているような人の姿もある程度見える。


 とにかくまず気が付いたのは、みんな背が低い。

 男で身長150センチ台半ばぐらいがほとんどだろうか、女性は140センチ台だろう。

 背の高い人でも160センチを超えると思える人はほとんどいなそうだ。

 その中で173センチの一馬は嫌でも目立つ。

 服装は、多くの人は麻で出来たゆったりとした浴衣のようなものを着て、その下に男性はズボンのようなもの、女性はロングスカートのようなものを着ている。

 学生服の半そでシャツと長ズボン姿の一馬は「服装は意外と何とかなるかな」と思った。

 しかしやはりなんといってもこの身長にこの格好、しかも片手には剣を持っている。

 一馬のことを見た人たちは皆一様に驚いた表情をして、ひそひそと話し合っている。


 やっぱり目立ってるな、俺。


 一馬が朱雀に相談してみようと右手で剣の柄を握ろうとすると、みんなびくっとしてこちらを見る。

 いやいや、剣を抜こうとしてる訳じゃなくて。


 仕方ないので一馬は後ろを向いて、こそっと柄に触れる。


「朱雀、どうしよう、俺目立ってますけど」

 ――それはまあ、仕方がないであろうな

「それにこの剣持ってるせいかみんな怖がってるし」

 ――それも気にしても仕方なかろう

「そういうけど、俺馴染めるんだろうか。腹も減ってるんですが」

 ――まあとにかく話しかけてみるよりほかにあるまい。幸い言葉は通じるであろうし

「通じるのかな?」

 ――我とこうして話が出来ておるのだ、そこは大丈夫であろうよ

「まあ言葉さえ通じたら何とかなるかな」

 ――悩むよりやってみることだ


 なんとか踏ん切りをつけて、一馬は誰かに話しかけてみることにした。

 やはり話しかけるにはその辺の人よりお店の人がいいだろう、ハンカチも食べ物なんかと交換したいし。

 そう考えて、一馬は露店の店主らしき男に話しかけてみることにした。


「すいません」

「うっ、あんた見かけない顔だね」

「はい、今ここに来たばかりで」

「その不思議な格好、どこか遠くから来られたのかい?」

「そうなんですよ」

「しかし……あんた大きいねえ」

「そうみたいですね、すいません」

「いや、別に謝ってもらうことはないが、驚いた。こんなにでかい人は初めて見たよ」

「やっぱりでかいですか」 

「でかいも何も、雲を突くような大男、とはあんたの事だよ。鬼でもやってきたのかと思ったよ」

「あはは、そんなにですか」

「ひょっとしてあんた、なかくにの都から来られたのかい?あそこには大きい人もいると聞いたよ」

「あ、いや、まあそんなところです」

「そうだろう! その格好を見て最初からそうじゃないかと思ったんだ。おーい、皆、この人は中つ国の都から来たそうだよ!」


 一馬が適当に答えているうちに、中つ国の都、とかいう所から来たことになってしまったようだ。

 店主が大声で叫んだおかげで、こわごわ遠巻きに一馬の事をうかがっていた人たちが集まってきてしまった。


「なんだと都だって? なんでまたそんな遠いところから」

「いやしかし、それにしても大きいねえ」

「また物騒なもの持ってるし、てっきり村を襲う鬼か何かかと思ったよ」

「それにしては格好が変だろう」

「いや都から来たんだ、きっと都ではこの格好が流行っているに違いない」

「それにしても都からはるばる来たにしては荷物が少なくないかい?」

「いやしかし、よく見れば大きい割には優しそうな顔してるじゃないか」


 まさに喧々諤々(けんけんがくがく)、である。

 一馬は勇気を出して本題について話をしてみることにした。


「実はちょっと相談がありまして」

「なんだい?」

「いまお腹がすいているんですが、荷物をなくしてご覧の通り何も持っていないありさまで」

「おお、そうみたいだな。で?」

「何か食べられるものとこれを交換してもらえないかな、と思って」


 一馬はポケットからハンカチを出して見せた。


「おおっ! こ、これは……なんと美しい布だ」

「こんな美しいあお、初めて見たぞ」

「これは絹か? なんとも薄く柔らかそうな」

「さすがに都から来られたことはある、素晴らしいものだ」


 どうやら好評価らしい。


「どうでしょう、この布と何か食べ物を交換してもらえないでしょうか」

「いや、あんた、そう言われても、この布に見合う食べ物なんてないだろう」

「そうだよ、そんな価値の高そうなもの、銀や黄金とでもなきゃ釣り合わないだろう」


 どうも評価が高すぎるようだ。


「いや、とにかく腹が減ってまして、黄金なんかより食べ物と交換してもらえると有り難いのですが」

「そうは言ってもねえ」


 一馬が店主と交渉していると、何やらどなり声のようなものが聞こえてきた。


「おらぁ! とっとと約束の物を出せよ!」

「ああ、なんとか今回ばかりはお許しを」

「そんな訳にいくか! この間もそう言って出さなかっただろうが!」


 一馬が声のする方を見てみると、2、3軒先の店で片手に剣を持った男が店先でどなっている。

 何事か見に行こうとする一馬を店主が引きとめた。


「旅のお方、悪いことは言わない。関わりにならぬ方がいいですよ」

「あれはいったい何なんですか?」

「あいつはこの辺りにはびこる土蜘蛛という悪党の一味で、店から金銀を巻き上げているんです」

「このお店も?」

「うちはこの間渡しましたので今日は大丈夫だと思いますが、あそこは用意出来なかったようで」

「そうですか。あいつがこの当たりを治めているわけではないんですよね」

「もちろん違います。でも払わないと何をされるか分かりませんから」


 なるほど、正当な税の取り立てとかではなく、無理やりショバ代を取っているわけか。

 一馬は珍しく腹を立てた。

 子供のころから弱い者いじめなど見過ごすことが出来ない性格たちなのだ。

 相手を見るとなんだか猿っぽい男で、たいして大きい訳でもない。

 一馬は持っていたハンカチをポケットにしまうと剣を片手に近づいて行った。


「オラ、早く出せ、出さねえと――」


 男は近づいてくる一馬に気付いてぎょっとする。


「な、なんだ、この大男。てめえ何か文句でもあるのか?」

「何も言わずにここから立ち去れ」

「何言ってやがる! ふざけるなよ、痛い目に合いたいのか」

「もう一度言う。今すぐここから立ち去れ、そして二度と戻ってくるな」

「ふざけるな、でけえからって調子にのりやがって。手前、殺して欲しいのか!」


 猿に似た男は剣を抜いて一馬に向けて構えた。

 構えを見ればこの男の腕が大したものではないとわかる。

 しかし本当に猿に似てるな。

 一馬も剣に手を掛けて、抜いた。


 ――お、カズマ、やる気だな

 なんか腹立つし、仲良くなるにはこの村の人の役に立つのもいいと思って

 ――なるほど、それは名案じゃな


 一馬は口に出さずに朱雀と会話する。


 ――しかしこの猿に似た男、構えがなっておらんな

 うん、でもきっと人を殺したことがあるね

 ――そうじゃな、殺気を放っておるな

 本気でやった方が良さそうだ

 ――我も手を貸すか?

 それは大丈夫だと思う。俺一人で何とかなるよ


 男はじりっ、じりっと一馬との距離を詰めてくる。

 構えは適当だが、本気で切り付けてくる気なのは間違いない。


 一馬は鞘を地面に落とし、両手でしっかりと剣を握った。

 剣道でいえば正眼の構えで相手に向かう。

 相手の技術はともかく、真剣を使うのだ、気を抜くわけにはいかない。

 いよいよ相手の間合いに入る。


「おらあ!」


 男が気合いと共に剣を叩きつけてくるのを剣で払い、そのまま剣の左側、神無威カムイの刃で相手の右肩を思い切り打つ。


「ぐわあ」


 男は剣を取り落し、右肩を押さえて地面に転がってもだえている。

 神無威の刃を使ったので切れてはいないが、鎖骨ぐらいは折れているかもしれない。

 一馬は男に近づき、相手の目の前に剣先を突き付けた。


「どうだ、まだ続けるか?」

「いや、ま、参った。なんていう腕前だ。かなわねえ……うう、痛えよ」


 一馬は男に絡まれていた店主に声を掛けた。


「すいません、ちょっといいですか?」

「は、はい、なんでしょうか」


 店主は目の前で起こったことにすっかり怯えながら答える。


「縄をお借りできませんでしょうか」

「あ、は、はい」


 絡まれていた店主は慌てて縄を取り一馬に渡す。

 一馬はそれを使って男を後ろ手に縛った。

 そこへ最初の店の店主がやってきて一馬に声を掛ける。


「驚いた。あんたものすごく強いんだねえ。てっきり切り殺したんだと思ったよ」

「それほどでもありませんよ」

「いや、大したもんだよ。まったく眼にもとまらぬ早業だった」

「ありがとうございます」


 男を縛り終えた一馬は、鞘を拾って剣を納めた。


 ――カズマ、なかなかやるのう

 まあ、これぐらいはね

 ――で、これからどうするのじゃ?

 それなんだよねえ


 一馬は最初の店の店主に声を掛けた。


「この男には仲間がいるんですよね?」

「そうなんだよ。何人かの仲間がいる。こうなるとそいつらが襲ってこないか心配だねえ」

「そうですよね」


 一馬は縛られた男の前に立ち、男に質問することにした。




いかがでしょうか?

洞窟から出て村に来たおかげでやっと新キャラが出てきました。

活躍してくれるといいんですが。


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