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第1章第3話 「瑞穂の国で朱雀と出会う」

ブックマーク登録、ありがとうございます!

とても励みになります。

第3話にしていよいよ瑞穂の国です。

前置きが長くてすいませんでした。

今まで出てきたキャラはどうなってしまうのか?

一応いろいろ考えてます。

 

 前を向いた一馬のすぐ2メートルほど離れたところに男が立っていた。


 小柄で背は160センチぐらいか。

 浅黒い肌に太い眉、口元と顎に髭を蓄えて、長く伸ばした髪を顔の両側で結んでいる。

 服は白っぽくてゆったりしており、腰には革ひものようなものを巻いている。

 なんだか歴史の教科書で見たような格好だ。

 男は何の表情も浮かべず、ただじっと一馬の顔を見つめている。


 ……全く気付かなかった。


 そう思った瞬間、一馬はいままで感じたことのない気配を感じた。

 明らかに人ではない、しかし物の怪や妖怪とも違う、圧倒的な――「何か」。

 殺気、ではないがとてつもなく大きくて捕えられない気配。

 背筋に悪寒が走る。

 いったいこの男は……なんだ。


 その時、男が一馬に語りかけてきた。

 と言っても口で話すのではなく、頭の中に直接語りかけてきたのだ。

 そのこと自体には一馬は驚かなかった。

 今まで出会ってきた物の怪や妖怪にもそういう物はいたからだ。


 ――汝を迎えにきた

「あなたは?」

 ――我はホノイカヅチノカミ

「カミ、って事は神様ですか」

 ――さよう。汝の言う神が何者か我は知らぬが

「えっと、俺をどこかに連れて行く、って言う事ですか?」

 ――しかり。スザクが汝を呼んでおる故

「いや、ちょっとそれは困るんですが、どこに連れて行くつもりですか? 理由は?」

 ――知らぬ。仔細はスザクに直に問え


 これは、やばい。


 一馬は直感的に悟った。

 この男が本当に神であるかどうかはともかく、途方もない存在であるのは確かだ。

 しかも問答無用で連れて行く気らしい。

 話し合う気は全くなさそうだ。


 逃げよう。


 一馬はそう思い、少しずつ後ずさって距離を取った。

 男との距離が3メートル位になって踵を返して走り出そうとした時、男が右手を上げて天を指した。

 その瞬間。


 バリバリバリバリ!


 雲一つない夜空から一筋の稲妻が落ち、一馬の体を貫いた。



 気が付いた時、一馬は草むらで倒れていた。

 何が起こったのかわからぬまま気を失った時は夜だったのだが、今は日が高い。


 ――気が付いたか


 ホノイカズチノカミと名乗ったあの男が傍らに立って一馬を見つめていた。

 一馬が体を起こしあたりを見渡すと、見慣れた山の形が目に入る。

 桂山だ。

 しかしまわりの風景には見覚えがない。

ついでに言うと持っていたはずの鞄もない。


「ここは……桂山の近くですよね?」


 一馬が質問したが男はそれに答えず、


 ――ついて来い


 とだけ言って歩き出した。


 一馬は立ち上がった。


 少しふらふらするが、うん、大丈夫だ。

 とりあえずこの人について行ってみよう。


 そう考えて一馬は男の後を歩いていく。


「はあ、はあ、結構遠いな」

 歩き始めてもう1時間近くなるだろうか。

 男はかなりの早足で、一馬はついて行くにも一苦労だ。


 しかし凄い田舎だな、人工物が何もないぞ?


 桂山も桂村もかなりの田舎だが、それにしても。

 家も、道路も、電線も、田畑も何も見えない。

 ここは本当に桂山なのかと一馬が疑わしく感じてきたその時、男の足が止まった。


 ――ここだ


 男は山肌にある大きな岩に手をついて語りかけてきた。

 高さも横幅も5メートル以上はあるだろうという巨大な岩だ。


「えっと、ここ、って?」


 一馬がきょとんとしていると、男は一馬の片腕を取って強引に引っ張った。


「おっと……おおっ?!」


 一馬は引っ張られてそのまま――男と一緒に岩の中に吸い込まれた。





 一瞬自分が何かを通り抜けたと感じた後、一馬は真っ暗闇の中に居た。


 ――見えるか?

「何も見えません」

 ――うむ


 すると突然小さな炎が起こり、周囲が照らされて見えるようになった。

 洞窟の中に居るようだ。

 後ろにはさっきの岩だろう、入口をぴったりとふさいでいる。

 炎は、男の手のひらの上に浮かんでいる。


「凄いですね、それ」

 ――我はホノイカズチノカミ。火と雷を使う者故、造作もないこと

「火と雷、ですか」

 ――ついて来い


 男の後について洞窟の奥へと少し進んでいくと、すぐにやや広い部屋のような所に出た。

 奥の方に石の台のようなものがあり、その上に何かが載せられているようだ。


 ――あれがスザクだ

「えっと、スザクって俺をここに呼んだ人、でしたっけ」

 ――そうだ。仔細はスザクに問え


 そういうと、男はスタスタともと来た入口? の方へ歩き出す。


「ちょっと待ってください。人なんて誰もいないように見えましたよ?」


 一馬は追いかけながら声を掛けるが男は何も答えず、そのまま入口の岩の中へ吸い込まれてしまった。

 途端に周りは完全な暗闇。

 手探りで岩の表面を撫でまわしてみるが、中へ入れるような仕掛けはありそうにもない。


「閉じ込められた……どうなってるんだ」


 自分の手のひらさえ全く見えない暗闇の中で、一馬は意外と冷静だった。


 とりあえず、さっきの場所に戻るしかないか。


 そう考え、手探りで周りの壁を探し、壁伝いにそろそろと歩く。

 少し行くと、また先ほどの部屋に出た。

 奥でぼんやりと光るものがある。

 さっきの石の台のあたりか。

 そのかすかな光を頼りに一馬はゆっくりと奥へ進んだ。


「これは、刀、というより『つるぎ』か?」


 刃渡り約1メートル、幅約10センチの両刃の剣が石の台座の上でぼんやりと光っている。

 光が弱くはっきりとは見えないが、素材は鋼ではない感じがする。

 剣そのものが光っているのではなく、刀身の真ん中に文字のような模様がいくつも連ねて刻まれており、その模様が光っているようだ。


 蛍光塗料みたいなものかな。


 つかは日本刀などと違い、刃と一体になっていてそこに赤い布が巻いてある。

 よく見ると、剣の隣には鞘も置いてある。


 ずいぶん古い感じの剣だな。古墳とか、そんな中から見つかる感じか。


 しばらくそれを眺めたり、少し暗闇に慣れた目で周りを見渡そうとしたりしていたが、相変わらず周囲は真っ暗闇で何も見えないし、誰かがいる気配もない。


 他には何もないし、な。


 そっと手を伸ばして、剣の柄を握ってみたその瞬間、頭の中で爆発するような大声が聞こえた。


 ――やっと来たか! 我が名は朱雀スザクだ!


「え?」


 驚いて手を離すと、元の静寂が訪れる。


 今の……付喪神ツクモガミ、か?


 一馬は由香から物の怪や妖怪について色々な話を聞いたが、その話の中に付喪神というものがあった。

 長く使われた道具などが意志を持って「付喪神」と呼ばれる妖怪になることがあり、それは時に人に害をなすこともあるので祓わなければならない、という話だった。


 面倒なことになったな。


 一馬はしばらく思案していたが、他に出来ることもない。


 仕方ない、か。


 ふうっ、とため息をつくと、再び柄を握る。


 ――何故手を離すか? 話が出来ぬであろうがっ!

「あー、うるさいなあ、そんな大声でなくても聞こえるよ」

 ――そ、そうか。我は朱雀。火雷神ホノイカズチノカミより聞いておろう?

「名前だけは、ね。あなたは付喪神ツクモガミですか?」

 ――ツ、ツクモガミ?! そんな下賤なあやかしと一緒にするとは無礼だぞ!

「無礼、って言われても、名前以外は知らないし」

 ――「朱雀」を知らんのか?

「なんか、聞いたことはあるような気もしないこともないけど」

 ――それは聞いたことがあるのかないのかどちらだ! まさか我を知らぬ訳があるまい

「そんなに有名なのか」

 ――名の有る、というかこの瑞穂の国で我を知らぬ奴がいようとは……

「ごめん、勉強不足で。で、あなたが俺をここに呼んだの?」

 ――然り。我が汝をここに呼んだのだ。火雷神に頼んでな

「なんで?何か用事?」

 ――喜べ。汝を我が依り代としてくれる

「依り代? それって俺に憑りつくってこと?」

 ――憑りつく、とは神の身なる我に無礼な。汝の肉体を我が使ってやろうというのだ

「それってこの体を乗っ取る、ってことだよね?」

 ――いや、だからな、そういう言い草はなかろう

「どういう言い方にしろ、この体だけ寄越せ、って事だろ」

 ――汝、人の身に神を宿そうと言うのだぞ? これほどの喜びはあるまい

「全然嬉しくないよ。っていうかあなた誰? もっとちゃんと話してよ」


 しばらくそんなやり取りの結果、いくつかの事が分かった。


 ここが「瑞穂みずほの国」と呼ばれる国であること。

 その瑞穂の国を治めるのはこの世界を作った「アマテラス」という女神の血を引く帝の一族であること。

 その帝の一族は代々「皇龍コウリュウ」と呼ばれていること。

 朱雀は四神シジンと言われる四人の神様の一人で、火を司る神であること。

 巨大な蛇の物の怪が出たために瑞穂の国が乱れ、アマテラスが皇龍を助けこの世の乱れを収めるため、弟の「スサノオ」という神を地上に送ったこと。

 スサノオは朱雀たち四神や人間たちと一緒にこの国を乱す巨大な蛇の化け物と戦って勝ったこと。

 どうも一馬がいた元の世界とは時代も歴史も違うようだ。


 ――そのスサノオがとんでもない奴でな

「とんでもない奴、って神様なんだろ」

 ――そうだ、神のくせに我がまま気まま極まりない、まさに傍若無人

「どんなふうに?」

 ――とにかく自分の好きなことしかやりたくない。飽きたらすぐ投げ出す

「そりゃ駄目だね」

 ――だろう。そのスサノオと一緒に何とか戦いに勝ったその直後だ。何があったと思う?

「わからないよ。何があったの?」

 ――スサノオはアマテラスから引き続き皇龍を助けこの瑞穂の国を護るように言われておった

「そうなんだ」

 ――だが、奴はその蛇への生贄となるはずだった姫に惚れてな

「ありそうな話だよね」

 ――アマテラスから言われた国の護りを我ら四神に押し付けようとして、こともあろうに

「あろうに?」

 ――我を無理やりその蛇の体の中から出てきた『草薙クサナギの剣』に封じおったのじゃ

「それがこの剣、っていう事か」

 ――そうじゃ。残る三人の四神もそれぞれ物に封じ、それらを『四種の神器』と名付けて

「俺の記憶では「三種の神器」だったような気が……」

 ――それらを共に戦った四人の人間に与え「これを使って皇龍を助けよ」と命じて、自分は惚れた姫をさらってどこかへ雲隠れしてしまいおったのじゃ

「それはひどいね」

 ――そうであろう! しかして我は南を護る神器としてここへ祀られたが、いつしか訪れる者もなくなり、ただひたすら時は流れ……

「あ、それってここの入口が岩で塞がれたからじゃないかな? 凄い岩だったし」

 ――なんとそうであったか。幾星霜を経たやも分からぬようになったころ、我が縁戚に当たる火雷神が我を訪ねて参ったのじゃ

「同じ火を扱う神様同士だから親戚、ってことかな」

 ――うむ。しかして何とかここから我を連れ出してくれるよう火雷神ホノイカズチノカミに頼んだのじゃが、スサノオの奴め

「スサノオがどうかしたの?」

 ――あ奴、こともあろうにこの剣を扱えるのは人のみで、神の身では使うことはおろか持ち上げることすらできぬようにばくを掛けておったのじゃ

「あちゃ」

 ――しかもその扱う者は、人の中でも極めて念の強い者でなければならぬ。よって我は火雷神に念の強い者を捜しここへ連れてくるよう頼んだのじゃ

「それでなぜか俺が選ばれた、ってことか」

 ――とにかく念の強い者を探して連れてくるように頼んだのじゃ。汝、念を使ったであろう


 一馬は土方との試合の事を思い出した。

 あの時使った「気」が朱雀の言う「念」なのだろうか。


「それならホノイカズチノカミさんがもうちょっと説明してくれたらよかったのに」

 ――あ奴は無駄口を叩くのを嫌う無口な奴ゆえ、な

「無口にもほどがあるよ。だいたいの事情は分かったけど、俺をどうしようというつもり?」

 ――であるから汝を我が依り代として

「そこだよ。俺の体を乗っ取って何をしようというんだ?」

 ――乗っ取るとは人聞き、ならぬ神聞きが悪いな。神に体を差し出すのは光栄であろう

「ここの人たちはそうかもしれないけど、俺はそうは思えないよ」

 ――なんと。人たる身で神を宿すというのに不満だというのか

「満足なわけないよ。で、俺を乗っ取って何をするつもりなの?」

 ――決まっておろう。スサノオを探すのだ。して、なんとしてでもこの封を解かせるのだ

「そんなことできるの?スサノオってどこに居るかもわからないんだろ?」

 ――我も四神、わが誇りにかけて探し出し、無理やりにでも封を解かせてみせる。そのあかつきには汝も自由にしてやるぞ

「それってどれだけ時間が掛かるんだよ」

 ――そ、それは如何に時間を掛けようともわが誇りにかけて

「朱雀の誇りはどうでもいいよ。その間ずっと憑りつかれたままなんて御免だよ」

 ――いや、しかし、そうは言っても、汝の体がなければ動く事も能わず、スサノオを探すことも……

「とにかくちょっと考えさせてもらうから待っててもらえるかな」

 ――あ、いや、ちょっと、その、あっ……


 プツッ。


 一馬が剣を再び台座の上に置くと同時に朱雀の声も途切れた。

 一馬は顎に手を当てて暗闇の中で考え始めた。


 なんとなく事情は分かった。確かに同情するところはある。無理やり剣に封じ込められてほったらかしはひどいよな。でも俺の体を乗っ取られるのは嫌だし、どれだけ時間かかるか分からないなんて論外だ。


 さらに暗闇の中で一馬は考える。


 そもそもこの瑞穂の国、ってどういう所なんだろう。どうすれば元の世界に帰ることが出来るのか。何よりまずはここから出ないといけないしな。あの感じだと乗っ取るには俺の同意がいる、って感じだよな。いらないならとっくにやってるだろうし。


「よし、決めた」


 一馬はゆっくりと再び剣に手を伸ばした。


朱雀、カワイソス。

しかしホノイカズチノカミって書きにくいです。

ちなみに火雷神は「ひらいしん」で変換しております(爆)。

辞書登録した方が楽なんですけどね……

続きが気になる、っていう方がもしいらっしゃいましたら、登録&評価お願い致します!

それが続きを核燃料になりますので……って核燃料ってなんだよ!

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