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第5章第9話 「皇龍」

最終話です。

しかし物語としてはまだ三分の一ほどしか進んでいません。

続きについては後書きで触れさせて頂きます。

 

「そもそもなんで彩姫さまは捕まってしまったんですか?」

 一馬はずっと気になっていたことを聞いてみた。


「それをお話しするには、まず私が何故旅に出たのかを聞いて頂くのがいいでしょう」

 彩姫が語ったのは中つ国の都で繰り広げられている権力闘争の物語だった。


「私は前の帝の長女として生まれました。前帝には私のほかに、私と同じ母から生まれた弟であるあかつきの皇子さまと、難波泰隆の娘である阿倍野という女との間に生まれた天満の皇子という二人の皇子がおりました」


 普段うかがい知ることはおろか、近づく事さえかなわない帝の話に、美幸たちはただ聞き入っている。


 彩姫の弟である暁の皇子が皇太子として立てられて、二人は幸せに暮らしていた。

 だが阿倍野との間に天津の皇子が生まれてからその雲行きが怪しくなる。


 鎮西将軍として西之国を治める阿倍野の父、難波泰隆が前帝の宰相となり権勢を振るったのだ。


 難波泰隆による政治は苛烈を極めた。

 税は軒並み引き上げられ、生活が出来なくなって巷には流人があふれた。

 治安はみるみる悪くなり、世には恨み呪う声があふれたが、泰隆は密告を奨励してそれを取り締まった。

 政権に不満を持つものを密告すれば富を与え、訴えられた者を次々と捕えて処刑したために、たとえ家族でも信用できないという世の中になってしまったのだ。


 それは宮中でも同じだった。

 前帝に仕える者たちは互いに信じ合うことが出来なくなり、いつ政敵に陥れられるかと不安に駆られるようになった。

 その不安を解消する方法はただ一つ、難波泰隆に従うことだ。

 難波泰隆の取り巻きに加われば、いつ地位を追われ殺されるのかという恐怖から逃れられる。

 その結果、前帝の周囲は泰隆の息のかかった者ばかりになった。


「そのような状況の中、わが弟である暁の皇子さまは廃嫡され、新たに天満の皇子が皇太子となりました」


 彩姫は当時を思い出したのだろう、悲しそうに言った。


「それから程なくして、わが父である前帝がお亡くなりになりました。そして天津の皇子が新たな帝になったのです」


「それはいろいろ大変でしたね。苦労なさったでしょう」

 一馬はいたわりの言葉を掛けた。

 しかし彩姫は左右に首を振った。


「私は別に苦労などはしておりませぬ。ただ問題なのは、新たに帝となった天津の皇子は、前帝の血、すなわち皇龍の血脈を受け継いでいない、という事なのです」

「今の帝が皇龍の血を受け継いでおられない、とおっしゃるのですか?!」

 美幸が驚いて声を上げた。


「そうです。皇龍たる私や暁の皇子さまにはそれがはっきり分かります。今の帝はアマテラス様の流れを汲む皇龍ではありませぬ」

 彩姫は美幸の目を真っ直ぐに見つめて静かに言った。


「それを暁の皇子様は難波泰隆に申されました。するとそれを聞いた泰隆はあろうことか、暁の皇子様を幽閉したのです」


 おそらく難波泰隆は知っていたのだ。

 自分の娘、阿倍野が産んだ子である天満の皇子が前帝の子ではない、という事を。

 しかも彩姫は、その天満の皇子の父親は難波泰隆自身ではないか、と疑っていた。

 難波泰隆が自分の子に帝の位を継がせるため、自分の女を娘と偽って前帝に差し出したのではないかと。


「私はその考えが間違っていないと思っております。そしてなんとか暁の皇子さまを助け出し、偽の帝を廃して帝の位を皇龍に取り戻したい」

 

 彩姫は一馬の方を向き、はっきりとした口調で言葉をつづけた。


「残念ながら今の宮中には信ずるに足るものは居りませぬ。ですから私は式神である管狐と豆狸を供として、暁の皇子様に力をお貸しくださる方を探して旅に出たのです」


 その彩姫の動きはすぐに難波泰隆の知る所となった。

 それにより今の帝の秘密を知る者が暁の皇子だけではないことに気付いた泰隆は、追手を放つとともに鬼の首魁である酒呑童子にも使いを送ったのだ。

 彩姫を捕え、自分に引き渡せば思うがままの富を与えるという条件で。


「私は皇龍に篤い忠信を持つという御剣が作った南之国でなら、力を貸してくれる者が見つかるというアマテラス様の宣託を受けてこの地に参りました。そこで夜叉に捕えられ、茨木童子たちに引き渡されてしまったので御座います」


 彩姫は両手を突き、一馬に向かって頭を下げて言う。

「渡辺一馬さま、どうか私に、いいえ暁の皇子様にお力をお貸し頂けないでしょうか。帝の位を正当な皇龍のもとへもどし、政を正道へ帰すためにその力をお貸しください」


 すると横から美幸も涙を流しながら一馬に頼み込む。

「一馬さま、わたしからもお願いします。どうか彩姫さまを助けて差し上げて下さい。どうか、お願いします!」


「カズマどの、この通りです。この彩姫さまのお力になって差し上げて下され。このワタクシ管狐、この通りお願い致します」

「一馬はん、頼むわぁ。この通りや。ここで知り合ったのも何かの縁、なんとかしたって下さい!」


 うーん、困った。

 これだけ真っ直ぐ頼まれると、なんとも断りにくい。

 しかも顔がゆか姉とそっくりなんだよな。

 美幸ちゃんは泣いてるし。

 ここで断るのは勇気いるよなあ。


 でもこんなことに関わったら何年もかかりそうだぞ。

 国の帝のお家騒動なんて巻き込まれたくないし。

 いつになったら帰れるのか分からなくなる。


「えっと実は、この剣は草薙の剣といいまして」

「えっ? あの四種の神器の草薙の剣なのですか?」

「彩姫さま、本当です。一馬さまの剣は朱雀さまの宿る草薙の剣なんです」


 半信半疑な表情の彩姫に、美幸が横から説明する。

 一馬は草薙の剣を手に入れてからの流れを彩姫に語って聞かせた。


「そういうわけで、俺は元の世界に帰るためにスサノオさんを探しているんです。ですのでお手伝いできるかどうかは……」

「分かりました。無理を言って申し訳ありませんでした。今のお話は忘れてください」


 彩姫は微笑みながらけなげに答えた。。

 しかし唇は細かく震え、目から一筋の涙が零れ落ちるのからも悲しみをこらえているのが分かる。

 美幸も式神たちも下を向いて何も言わない。


 あー、空気が重い。

 女の子に泣かれるのが一番しんどいよな。

 うーん、困った。


 一馬は剣の柄を握った。


 ――どうしたカズマ

 朱雀、助けてよ

 ――そう言われても、全てはお前の心次第であろう

 そうなんだけどさ、この空気が

 ――では考える時間をもらえばどうじゃ。

 そ、それいいね

 ――であろう。とりあえず次の目的地に行くまでは同行して、その間考えてはどうじゃ

 それ、採用!


「彩姫さま」

 一馬が語りかけると、彩姫ははっとして一馬の顔を見る。

「この後はどちらへ向かうご予定ですか?」

「とりあえず飛鳥の町へ向かってみようと思っておりますが」

「では、そこまでご一緒します」


 そこで一馬はすうっと息を吸って、次の言葉を待つ彩姫に言う。

「さっきの答えはそこまでの間考えさせてもらっていいですか?」


 するとたちまち彩姫の顔に笑顔が浮かぶ。

「もちろんです、一馬様。よろしくお願い致します!」


 はあ、俺って女の子の笑顔に弱いんだよなあ。 



私にとって初めての小説を最後まで読んで頂いてありがとうございました。

この続きは出来るだけ早く書き溜めて投稿したいと思います。

その際はこの最終話の後に、繋がりになる話を投稿しますので、ブックマークをしておいて頂けると幸いです。

また現在書いているはなしもあり、できだけ早く投稿しますので、そちらもよろしくお願いします。

本当にありがとうございました!

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