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第5章第8話 「彩姫」

いよいよ次の話でこの「朱雀の剣でお姫様救出作戦!編」は完結します。

といっても物語はまだまだ続きますので、楽しみにお待ち頂ければと思います。

今日は切りよく2話投稿しようと思いますので、そちらもご覧ください。


 天野原の村へ歩いて戻る道すがら、一馬は彩姫の顔をずっと眺めていた。

 それに気づいた美幸がジト目で一馬を見ていることにも気づかない。


 天野原につくと、カネコが村の入り口で待っていた。


「一馬様、よくぞ御無事で! 首尾はいかがでしたか?」

「彩姫さま、こちらは西之国の商人でカネコさんです。カネコさん、こちらが彩姫さまです」


 さらっと一馬に紹介されてカネコは驚き、地面にひざまずいて頭を下げた。

「こ、これは皇龍のひ、姫たる雲の上のお方のご、ご尊顔をはい、拝しまして、その、あの」

「プッ――。カネコとやら、苦しゅうない、面を上げてください」

 彩姫はカネコのあまりの慌てように思わず吹き出し、カネコに声をかけた。


「これ、これはありがたきお言葉。なにぶんその、あの、卑しき商売人だものですので」

 カネコは顔を上げたが、そのツルツルの頭のてっぺんから汗を流している。

「そのようなことは気にせずとも結構です。私とて姫とは名ばかり、供も連れずに旅しておるのですから。それよりどこか休めるところはありませんか?」

「こ、これは気付きませんでっ! お疲れでいらっしゃいましょう、どうぞこちらへいらして下さいませ」

 彩姫の言葉にカネコは飛んで立ち上がり、彩姫を案内する。


「彩姫さま、供も連れずにとは悲しきお言葉。ワタクシがそばにおりますというのに!」

「ほんまやで、こんなにかわいらしいワイらがおるいうのにそんな言葉、殺生やわー」

 一馬の肩の上で姿を消している管狐と豆狸がワイワイ言っているが、一馬はそれにも気づかず彩姫を見ている。

 そんな一馬を美幸が不満そうに、また阿修羅は不思議そうに見ていた。


「どうした渡辺一馬、あの娘の顔ばかり見て。あの皇龍の娘の顔に何かついておるか?」

 空気の読めない阿修羅が何のためらいもなく一馬に問いかけるのを見て、美幸はため息をつきながらも一馬の答えに耳を澄ませた。

「いや実は、彩姫さまの顔があまりに知り合いに似ていてびっくりしてるんだ」

「なんだそんなことか。世の中には自分にそっくりな鬼が二人はいる、というぞ。気にするな」

 阿修羅が聞いたことのない言い伝えでバッサリ切り捨てる。


 一馬の答えを聞いた美幸は少しほっとしたが、それでも心の中の疑念は晴れないままだった。

 一馬さまとそのお知り合いの方って、どういう関係なんだろう。


「どうぞ彩姫様、板敷でさえないあばら家で申しわけございませんが、ごゆっくりお過ごしくださいませ」

 カネコは村の中のひときわ大きい竪穴式住居に彩姫たちを案内した。

「ありがとう。しばらくこの一馬や美幸と話をしたいゆえ、誰も近づけないように頼めるでしょうか」

「もちろんでございます。まずはお茶なりとお持ちいたした後は、お声掛けいただくまで私も含め、だれにも近寄らせませぬ」

 カネコは恭しく頭を下げて出て行った。


「さて、みなも疲れたであろう。座ってください」

「彩姫さま、ではお言葉に甘えて座らせていただきます」

 彩姫の言葉に美幸が礼を言って座り、一馬と阿修羅、義経もそれに続いた。


 しかしそれにしてもそっくりだよな。

 一馬は改めて彩姫の顔を見て思う。 

 彩姫は小柄で身長は150センチぐらい、白地のいかにも高級そうな薄い生地でできた服を着ている。

 中にも何か着ているので透けてはいないが、透け感がある軽やかな服がよく似合っている。

 胸はそれほど大きくはないが体とのバランスはよくスタイルは良さそうだ。

 髪は腰の位置まで伸ばした黒髪ストレートで先を紐で括っている。

 年は一馬より少し上なのだろうか、でもその顔は童顔でくりっとした目がかわいらしい。


 見れば見るほどゆか姉そっくりだよ。

 そう、彩姫は一馬のいとこであり初恋の相手である篠原由香に生き写しなのだ。

 彩姫は管狐と豆狸を式神として使っているが、篠原由香もまた式神として管狐を使っていた。

 偶然というにはあまりにも出来すぎている。


 すると一馬の視線に気づいた彩姫が、一馬に話しかけた。

「渡辺一馬どの、でしたね。どうかされましたか?」

「え、いや、すいません。変なことを伺いますが、篠原由香、という名前に聞き覚えはありませんか?」

 一馬の問いに彩姫は顎に手を当ててしばらく考えたが、やがて左右に首を振った。

「すいません、わかりませぬ。その方がどうかしたのですか?」

「あ、それならいいんです。俺の従姉妹なのですが、あまりに彩姫様のお顔がそっくりなもので」

「まあそれほど私に似た方がいらっしゃるなんて。ぜひお会いしてみたいものですね」

 ころころと笑うその顔の表情までそっくりで、一馬はどぎまぎしてしまう。


「さて、みなさん、この度はお助けいただいて、本当にありがとうございました」

 彩姫は表情を引き締め、一馬たちに礼を述べたかと思うと深々と礼をした。


「彩姫さま、高貴な御身がそのようなことをなさってはいけません!」

「せやせや、そんな改まって言うほどの事やあらしまへん!」

 それを見た管狐と豆狸が慌てて止める。


「いいのです。管狐、豆狸、お前たちもよくやってくれましたね」

 彩姫に褒められて、その式神である二匹も思わず涙ぐむ。


「彩姫さまこそ、辛い日々をお過ごしだったでしょう。よくぞ御無事で、ワタクシ心配でなりませんでした」

「彩姫さん、ホンマに大変でしたで。ワシ、めっちゃ頑張りましたんやあ」


「さて一馬殿、そちらのお二人を紹介していただけませんでしょうか」

 彩姫は一馬の方を向いて阿修羅と義経について聞いた。

「えっと、この二人はその」

「大丈夫です。私にもお二人が人ではないことは分かります」

 一馬がなんと説明しようか迷っていると、彩姫はにこりと微笑んで一馬に言う。


「見えるのですか?」

 一馬が驚くと、彩姫は首を横に振った。

「見えるわけではありません。でも感じるのです。で、お二人は何者なのですか?」


「こちらは阿修羅さん。鬼のお姫さまだそうです」

「羅刹の娘、阿修羅だ。お前をさらった酒呑童子は父の敵、よって手助けした」

「そうですか。私は皇龍の娘です。よろしくお願いします」

 彩姫は阿修羅が鬼だと聞いても驚かず、優雅に礼をして見せた。


「こちらは義経、鴉天狗カラステングだ。大天狗の鞍馬の部下で、手伝ってくれた」

「義経と申す。我が主鞍馬の命により助太刀いたしました」

「あらあら、そういえば口元に面影がありますね。ご加勢、ありがとうございました」

 確かにまたアヒル口になってるな。


「他にも私の式神、牛頭と馬頭も地の神でございます」

 美幸の言葉に彩姫はうなずいた。

「多くの皆様のおかげで私は助けられたのですね。感謝いたします」


「そもそもなんで彩姫さまは捕まってしまったんですか?」

 一馬はずっと気になっていたことを聞いてみた。

完結話は10時過ぎに投稿の予定ですが、ずれるかもしれません。

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