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第5章第6話 「彩姫救出」

前話のあらすじ――彩姫救出のための作戦を立てた一馬たちは、所定の場所で彩姫を乗せた牛車が来るのを待ち構えていた。そこに茨木童子たちがやってくる。救出作戦の幕が開いた。

 

「牛頭さん、すげえ……」

「見ろよ、馬頭さん鬼を相手に押してるぞ!」

 元盗賊たちは、小鬼や邪鬼を相手に立ち回る牛頭や馬頭を見て目を見張った。

 物の怪である小鬼や邪鬼よりはるかに上位の地の神である牛頭や馬頭にとっては当然のことだが、牛頭や馬頭を人間だと思い込んでいる元盗賊たちには驚きだったようだ。


「やるなあ。俺たちだってやれる、行くぞ!」

 五右衛門が仲間たちに発破をかける。

 その奮闘ぶりに刺激されて及び腰だった元盗賊たちも俄然やる気が出てきたようだ。

 体の大きな邪鬼は牛頭や馬頭が、小柄な小鬼は元盗賊たちが複数で相手にするという連携プレイが出来上がってきた。

 その連携攻撃で鬼たちは徐々に押され始めている。


 熊鬼を相手にしている阿修羅もまた戦いを有利に進めていた。

「この小娘がぁ!」

「ふん、お前の腕はこんなものか」

 熊鬼が右手に持つ大鉈おおなたの攻撃を阿修羅が長矛ながほこで確実に捌いていく。

 ブンッ!

 ガキーーン!

 熊鬼が渾身の力で大鉈を上段から振り下ろすのを阿修羅が長矛の柄で受け止めた。

 熊鬼は押し込もうとするが逆にジリジリと阿修羅に押し返されていく。


 その時。

「うわぁ!」

 優勢に見えた阿修羅が突然3メートル以上後ろに吹っ飛んだ。

 熊鬼があいた左手で阿修羅に念のかたまりを打ち込んだのだ。

 吹っ飛んだ阿修羅が腹を押さえ、長矛を杖にしてヨロヨロと立ちあがる。

「く、おのれ卑怯な……」

「鬼として鬼道を使うのは当然であろうが。まあお前のようなお粗末なつのしかない鬼の出来そこないには出来ぬ芸当だろうがなっ!」

 鬼はその角の大きさで念の強さが決まるのだ。


 阿修羅にはとても小さな角しかついていない。

 念が強くないために阿修羅は幼い頃から上手く鬼道を使うことが出来なかった。

 だからこそ阿修羅は武芸の腕をずっと磨いてきたのだ。

「うおぉぉぉぉぉ!」

 そのコンプレックスを刺激されて阿修羅は激怒した。

 まさにキレた、と言っていい。

 長矛を振りかざし、熊鬼に一直線に向かっていく。

 その表情はまさに鬼姫と呼ぶにふさわしい。

 だがさすがは四天王と呼ばれるだけあって熊鬼もそう簡単に隙は見せない。

 一進一退の攻防が続いている。


 その頃一馬は茨木童子を相手に奮闘していた。

 颯天はやての術を使い、超高速で打ちかかるのだが隙が出来ない。

 それもそのはず、対する茨木童子もまたその鬼道で動きを速めていたのだ。


「たかが人間の小童こわっぱ風情がよく我の動きについてくる」

 茨木童子がニヤリと笑う。

 小童というほど若くはないんだけどな。

 一馬は思うが鬼の歳は分からないので小童と呼ばれても仕方がない。


 常人ではとても捕えられないスピードで互いの剣筋が交錯する。

 ビュンッ

 上から振り下ろされる茨木童子の刀を一馬がギリギリ身をかわして避ける。

 鼻先を刀が通り過ぎた瞬間、草薙の剣が茨木の胴を突く。

 キーン!

 それを茨木は剣ではねのけ、同時に一馬の首を狙って刀を振るうが一馬は身を反らして避ける。


 息をつく暇もない攻防に、一馬は朱雀に話しかける余裕もない。

 はあ、はあ、はあ……

 次第に一馬の息が上がってきた。

 しかしどれだけ強いんだよ。

 これで酒呑童子の片腕だっていうんだから、酒呑童子はどれほどの強さなのか。


 茨木は女とはいえやはり鬼だ。

 颯天の剣を使っての全速の動き、しかも力の強い相手の攻撃を避け、逸らさなければならない。

 こういう戦いになると、元のスタミナが物を言う。

 一馬と鬼である茨木とでは力だけでなく持久力も根本的に違うのだ。

 もうあまり持ちそうもないぞ……。

 一馬は美幸が早く彩姫を助け出してくれるように願った。


 美幸は木の陰からその戦いの様子を固唾を飲んで見ていた。

 牛頭と馬頭、五右衛門たち元盗賊のお陰で全体の戦況としては押し気味に見える。

 だが肝心の牛車の周りで行われている一馬と阿修羅の戦いは拮抗している。

 おまけにまだ邪鬼が一匹、牛車の横で見張っているので手が出せない。


「あっ」

 阿修羅が熊鬼に吹っ飛ばされたのを見て、美幸は思わず声を上げた。

 だか阿修羅はすぐに熊鬼に向かって再び打ちかかっていく。

 良かった、けがは大したことなさそうね。

 一馬は、と見るととてつもない速さで茨木童子とやり合っている。

 どちらが優勢なのかも分からないが、美幸は一馬を信頼していた。

 一馬さま頑張ってください。

 みゆきも自分の役割を果たします。

 心の中で一馬に話しかける。


 するとその肩に乗っていた管狐と豆狸も騒がしい。

「おお、ミユキどの見て下され。また牛頭が一匹鬼を倒しましたぞ」

「いやー、しかし阿修羅の姉さんすごいわー、ものすごい勢いで長矛振り回してはるで。正直ちょっと引くわ」


「キツネちゃん、タヌキちゃん、私たちもそろそろ行くわよ」

 美幸が肩の上の2匹に声を掛ける。

「彩姫さま、もうすぐワタクシがお助け致しますゆえ、お待ちくださいませ……!」

「彩姫さん、もうちょっと待っといてや、この豆狸が助けたるさかいなぁ」

 2匹も気合いが入っているようだ。

 豆狸の術で美幸の姿が隠れる。

 しばらく見ていると、牛車を見張っていた邪鬼に義経の放った矢が突き立ち、邪鬼は崩れ落ちた。


「今よ!」

「行きましょう」

「見つからんようにせんとな」

 その隙を見て美幸は鬼たちに気配を悟られぬよう、忍び足で牛車に近づいていく。

 上手く牛車までたどり着くと、鬼たちの死角から御簾みすを上げて中に忍び込んだ。


「むぅ――!」

 そこには猿轡をされ、後ろ手に縛られた彩姫がいた。

 突然入ってきた人影に驚いている。

 美幸は急いで彩姫の猿轡を解き、彩姫に頭を下げた。

「彩姫さま、わたくしは御剣美幸と申します。姫さまをお助けに参りました」

 その名を聞いて彩姫が反応する。 

「おおそなた、御剣の――」

「はい。武尊命に連なる者にございます。まずは御手を」


「姫様、ワタクシがお約束通りお助けに参りました。もう大丈夫でございます!」

「彩姫さん、わても頑張りました。ここまでほんまに苦労しましたでぇ」

 2匹の式神も興奮している。

「細かい話はあとで。鬼どもの気を仲間の者どもが引きつけております。まずはここから逃げましょう」

 美幸は彩姫の腕を縛る縄を神無威の小太刀で切り、彩姫を自由にして言った。 


「ささ、姫様こちらへ。ワタクシの術でお姿を隠しますゆえ」

「みゆきちゃんはワイがしっかり隠してあげるさかいな」

 管狐と豆狸の術によって彩姫と美幸は姿を消し、そっと牛車の外へ出る。

 そこでは一馬と茨木による熾烈な争いが行われていた。


 一馬はその戦いの中でも美幸が牛車に入って行ったことが分かった。

 茨木童子に気付かれぬように徐々に体の位置を入れ替え、牛車と茨木童子の間に自分が入るように移動していく。

 みゆきちゃん、うまくやれよ……。

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