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第5章第5話 「待ち伏せ」

前話のあらすじ:元盗賊の五右衛門たちを許し仲間にした一馬たちは、彩姫をさらって牛車で運んでいる鬼たちから彩姫を救うためにその手の事に慣れている五右衛門のアイデアで計画を立てた。

 翌日、一馬たちは早速彩姫救出のための準備を始めた。

 といっても作業自体はカネコと五右衛門たち一味がほとんどやってくれるので、一馬たちはそれほどすることがない。

 だから一馬はその作業を横から眺めていた。


「五右衛門、その作っている旗はどうやって使うの?」

「へい、ふもとで見張っている奴が怪しい奴らを見かけたらこの旗を振ります。それを見た奴が次の旗を振り、その旗を見た奴が次の旗を、という風に伝えるんでさあ」

 なるほど、狼煙のろしのようなものか。

 一馬は納得した。


「まあ今回は旗は2本で足りますが、何本も使えば飛脚で10日かかる所を1日で伝えることも出来やす」

「それは速いね」

「へい、それに旗の色を変えればある程度意味すを伝えることも出来る、って言う寸法でして」

「それは便利だ」

「盗賊仲間で考え出した方法です」

 一馬は感心した。

 江戸時代の米相場を知らせるときなどにこういう方法があったらしいけど、この時代にこんなことを考え付くとはすごいな。

 何かの役に立つかもしれない、情報の速さは大切だからな、覚えておこう。


 カネコによって立派な丸太も2本用意された。

 こんな大きな丸太を一人で倒すことが出来るのかと一馬は心配したが、杞憂だったようだ。

 試しにやってみると、牛頭も馬頭も一人で見事に倒して見せた。

 ズウウウーーーンという振動と共に倒れた丸太に、見ていた人はやんややんやの喝采を送る。

「まあ俺たちにとってこれしきの事は朝飯前だ。なぁ牛頭」

「……フン」

 牛頭も馬頭も得意そうだ。

 さすがに地の神だけの事はあるな。

 ただしこの丸太、引き起こすのも運ぶのも大騒動だった。

 とても牛頭馬頭だけで出来る訳もなく、これは五右衛門たち一味も一馬たちも総出で引く。


「一本目はこの辺がいいでしょう」

 丸太を仕掛ける場所は経験から五右衛門が決めた。

 なるほど、崖でブラインドカーブになっていて先が見えないからばれる心配がない。

 倒すタイミングは旗で合図するらしい。

 一本目を倒すのは牛頭が担当する。


「二本目はここですかね」

 こっちは手前の森の中だ。

 通り過ぎてから倒せばいいので、見つかりさえしなければタイミングは難しくない。

 一本目が倒れた振動を感じたら馬頭がこれを倒す手はずになっている。


「義経さん、弓はここからお願いします」

 五右衛門が指示した場所はカーブの崖の上だ。

 ここからなら反撃される恐れはない。

 ただ混戦になったら味方が邪魔になって射れないのと、崖の真下が死角になるのは仕方がないところか。


「旗の準備はどう?」

「大丈夫です、もう準備万端です」

 準備は整った。

 あとはターゲットが来るのを待つだけだ。

 一馬たちは天野原の村に戻り、連絡を待つことになった。


 その日は結局動きはなかった。

 夜は灯りが見えるので発見は簡単だが旗が見えないので、松明で合図することにしたのだが、結局動きはなかった。


 翌日。

 昼前に五右衛門が走って一馬に伝えに来た。

「一馬様、いよいよです。来ました」

「あとどれぐらいで例の場所に着きますか?」

「あと一刻(いっとき)(30分)余りかと」

「そうか、じゃあ急ごう」


 一馬たちは所定の場所に着いて待ち伏せした。

 しばらくすると、牛車を囲んだ一団がやって来た。

 その数およそ12人。

 みんな人間に化けてはいるが、一馬や美幸の目には鬼の本性がはっきり分かる。

 小鬼や邪鬼がほとんどだが、牛車の両脇に立つ二人の鬼がひときわ目立つ。

 牛車の右には大柄な女鬼が、逆側には更に大柄な男の鬼がいた。


「二人目立つのがいるね」

 一馬の言葉に阿修羅が答える。

「女鬼は酒呑童子の右腕と呼ばれる茨木童子だな。男鬼は四天王の一人であろう」

「どっちも強そうだね」

「腕は立つ上に鬼道をよく使う。気をぬくな」

 阿修羅の言葉に一馬はうなずく。


 彩姫を乗せた牛車と鬼の一団が一馬たちが隠れている前を通り過ぎる。

 その時、崖の上で赤い旗が掲げられた。

 牛頭に丸太を倒せという合図だ。

 一団がブラインドカーブに差し掛かろうというまさにその時、ズウウウンという地響きがした。

 途端に鬼たちの動きがあわただしくなる。

 するとその後ろで馬頭も丸太を倒し、再び地響きがした。


「者ども、敵襲じゃ、うろたえるな!」

 すぐさま茨木童子が化けた女が指示を飛ばすのが見える。

 さすがに冷静だな。

 しかしそこへ義経たちが放つ矢が上から降り注ぐ。

 瞬く間に3人が倒れる。


「行くか」

 阿修羅が草薙の剣を片手にした一馬に声をかける。

 一馬は美幸に話しかけた。

「みゆきちゃん、時期を見計らって彩姫さまを頼む。くれぐれも気を付けてね」

 美幸がそれにうなづいて答える。

「かずまさま、大丈夫です。狐ちゃんと狸ちゃんが身を隠してくれますから」

「じゃあ、行こうか」


 一馬と阿修羅が鬼たちに向かって走り出す。

 丸太を倒した牛頭と馬頭もそれぞれ引きを手に走ってきた。

「おのれ、なに奴っ!」

 一馬の前には茨木童子が立ちはだかった。

「彩姫様を帰してもらおうか」

「ふん、人間ずれが笑わしてくれるわ。取れるものなら取ってみよ!」


 一馬は草薙の剣を握りしめ、朱雀に話しかける。

 茨木童子、強そうだな。

 ーーなかなかの念の強さを感じるわ。カズマ、油断するな

 うん、最初から飛ばしていくよ


 一方、阿修羅はもう一人の男鬼と向かい合っていた。

「ほう、これは羅刹の娘ではないか。てっきり殺されたものと思うていたが」

「ふん、誰かと思えば酒呑童子の腰巾着の熊鬼ではないか。もう少し大物が出てくると思うたが」

「言わせておけば。お前のような小娘が酒呑童子様の四天王たるこの熊鬼に敵うと思うか!」

「口ばかり動かしておらず、さっさとかかって来い。その小娘の力、その身で味おうてみよ」

 阿修羅はそう言ってにやりと笑った。

 最初の舌戦は阿修羅に軍配が上がったようだ。


 牛頭と馬頭は残りの邪鬼や小鬼に向かっていく。

 茨木童子や熊鬼はいまだに人に化けたまま戦いを始めているが、邪鬼や小鬼は念の力が弱いためかすでに本性を露わにしていた。

「おい、本当にこいつら鬼だぞ」

「違いない、牛頭さん、馬頭さんに加勢するぞ!」

 

 牛車の周りで戦う一馬や阿修羅を中心に、牛頭と馬頭が挟撃する形となる。

 牛頭と馬頭に元盗賊たちも加わって、鬼たちとの戦いが始まった。

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