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第5章第4話 「作戦会議」

 

 カネコの用意してくれた晩御飯はかなり豪勢なものだった。

 そこには一馬たちやカネコの一行以外に五右衛門たちも呼ばれ、居心地が悪そうにしている。


「カネコさん、こんなにしてもらってすいません」

「いえいえ、とんでもない! こんなものではお礼にもなりませんが、せめてもの心づくしですので」

 頭を下げる一馬にカネコが慌てて言う。


「妙なことをお聞きしますが、カネコさんは難波泰隆という男を知っていますか?」

 一馬の言葉にカネコは目を見張る。

「知っとるも何も、西之国のご領主さまですがな」

「カネコさんは難波泰隆のことをどう思ってます?」

「どう、と申されましても……」

 カネコはちょっと困ったような表情をしていたかと思うと、一馬に顔を寄せて小声で答えた。


「……大きい声では申せませんが、まあ、評判のよろしいお人ではございまへんな」

「それはどういう?」

「民への仕打ちがひどく税も取り立てが厳しい。それで集めた富を自らの私欲に使っている。さらに……」

「さらに?」

「帝の位をねろうとるとかなんとかいう噂まであります」

「そうか、カネコさんはあまり好きじゃない?」

「さいでんな、税が高いのもあって商売仲間での評判は良くあらしません」

「そうですか」


 一馬はしばらく考え事をしていたが、やがてふうっと息を吐いて皆に言った。

「実は、俺はある人を探してここに来ました。そのある人というのは皇龍の姫である彩姫さまです」

 その言葉を初めて聞いたカネコたちや五右衛門たちは驚いた様子だ。

 一馬はさらに言葉をつづけた。

「実は彩姫さまは鬼たちに捕まって、難波泰隆に売り飛ばされそうになっているのです」

「姫様が鬼に、って……」

 あまりに衝撃的な内容に、カネコも五右衛門も言葉もない。

「彩姫さまは牛車に乗せられて運ばれているそうです。俺たちは彩姫さまが西之国に連れて行かれる前に何とか助け出したい」

 一馬はみんなの顔を見まわし、話を続けた。

「牛車で西之国へ連れて行かれるとすればここを通るだろう、というのでここへ来たんだ。五右衛門、どう思う?」


 一馬の問いかけに、五右衛門は真剣な顔つきで答える。

「牛車で運ばれてるとすればここの道を通るのは間違いねえと思います。しかし鬼にさらわれたっていうのは本当なんですかい?」

「うん、それは間違いない。もちろん人に化けているとは思うけどね」

 一馬は同じように人に化けてそ知らぬ顔でご飯を食べてい出る阿修羅を見ながら言った。

 しかし上手いこと化けるもんだな、あれじゃとても鬼姫さまには見えないよ。

 体格が体格だから可愛いとはいえないけど、十分美人だもんなあ。


「で、五右衛門に聞きたいんだが、牛車で通る鬼たちを襲って彩姫さまを助け出したいんだけど、どうすればいいと思う?」

「そうですねぇ、まずは一刻でも早く相手の動きをつかむことですね」

 五右衛門はアゴに手を当てて思案しはじめた。


「とにかくその機を逃す訳にはいかねえ、と」

「もちろんです。一刻も早くお助けしなければ!」

 一馬の代わりに美幸が意気込んで答える。


「旦那たちが強えのは知ってますが、しかし鬼と真っ向からやり合って勝てるんですかい?」

 至極まっとうな猿彦の質問には阿修羅がジロリと睨んで答える。

「そこいらの鬼どもに後れを取るわらわではない。なあ、お前らもそう思うであろう?」

 阿修羅の睨んだ顔を見て猿彦も元盗賊の連中も震え上がる。

 人の姿に化けてはいても鬼姫の迫力は健在だ。


「そ、それなら何とかなると思います。まずは相手の動きを出来るだけ早く知ること。それはうちの連中に任せて下せえ」

「いいのかい?」

「一馬様、ここは俺たちの出番でさあ。なあにいつもやってきたことです。麓からくるそれらしい連中を見張って、見つけ次第すぐにお知らせしやす」

「ありがとう。で、次はどうする?」

「まずは行く手を、次に後ろをふさぎます。牛車が動けないようにするのが肝心です。そうですねえ、丸太を立てかけておいて、機を見て上手い具合に倒せばいいかと」

「それは力自慢の牛頭ちゃんと馬頭ちゃんがいいんじゃない?」

「いいだろう、俺と牛頭でやろう。なあ牛頭?」

「……うむ」


「丸太で相手の動きを封じた後は?」

「そうですねえ、相手の数を減らすために矢でも射掛けたいところですね」

「それは私がやりましょう」

 弓と言えば鴉天狗カラステングの義経、という事で義経が請け負った。

「弓はうちからも2人ほど出せます。おいお前ら、分かってるな!」

「「へい」」

 2人の元盗賊が頭を下げた。


「そこからはわらわの出番だな」

 阿修羅が嬉しそうに笑って言う。

 あの、美人なんですけど笑顔が怖いし八重歯が鋭いんですが。

「でも目的はあくまで彩姫さまの救出ですから。それが出来たら直ちに脱出してくださいね」

「ふん、分かっておるわ」

 鬼姫がつまらなさそうに言う。

 あー、これ絶対分かってないパターンだ。

 鬼姫様の行動には要注意、と。


「彩姫さまの救出はわたしとキツネちゃん、タヌキちゃんでやります」

 美幸が手を挙げて発言する。

 周りは狐と狸と聞いて不思議そうな顔をしているが何も聞かれなかった。

 ちなみに管狐と豆狸は一馬の肩の上で姿を消しながらずっと左右から一馬の両耳に直接囁いてくるのでうるさいこと極まりない。


「よいですか、カズマどの、ここは絶対に失敗は許されませんぞ。何分にも彩姫さまにお怪我が無いように頼みますぞ!」

「あー、ワシ心配やわー、なんか上手いこといかへん気いするわー、心配やわー」

 うるさい。

 でもそれを口に出すわけにいかないのが辛いところだ。

 後でこってり説教してやろう。


「一馬様、私に何かお手伝いできることはありませんか?」

 カネコが一馬に問いかける。

「では足止めに使う丸太を2本調達して頂けませんか?」

「お安いご用です。明日の朝のうちに出来るだけ立派な丸太をご用意いたしましょう。後はご糧食の手配もご心配なく」

「ありがとうございます、助かります」

 一馬はカネコに礼を言った。


「これで大まかな作戦は立ちましたね。ではさっそく明日から備えましょう」

 一馬の言葉に五右衛門は首を縦に振った。

「見張りからの連絡には旗を使います。おうお前ら、明日の朝までに旗の準備をしておけよ。お前らが役に立つってところを一馬様にお見せするんだ」

「へい、お頭!」

「もう盗賊はやめたんだ、その呼び方はやめろって」

 一斉に頭を下げる元盗賊たちを見て、五右衛門は頭を掻いた。

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