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第5章第3話 「天野原」

前話のあらすじ: 天野原の村への途中で盗賊の集団に襲われている牛車を連れた一団を見つけた一馬たちは、盗賊たちを捕えて一緒に天野原へやってきた。

 西之国から来たというカネコと共に、一馬たちは天野原の村に入った。

 まずは盗賊の連中をどうするか決めなければならない。

 仲間たちには休息を取ってくれと伝えて、一馬はカネコと共に盗賊たちのもとへ向かう。

 猿彦と義経は護衛のためにと一馬についてきた。


「さて、あんた達をどうしようか」

「俺は五右衛門ってんだ。こいつらの頭をやってる。さっきも言ったが、こいつらを助けてくれるなら俺をどうしてくれてもいい」

 五右衛門は後ろ手に縛られたまままっすぐ一馬の目を見る。


「カネコさん、こういう人たちって普通どういう風に処罰されるんですか?」

「そうですなあ、お上に突き出せば見せしめに磔獄門はりつけごくもんですわなあ」

 死刑、ってことか。

 悪人だろうが人が死ぬのは気持ちいいもんじゃないなあ。

「カネコさんはどうするのがいいと思いますか?」

「そりゃ私らは一馬様に助けていただいてたいした被害もありませんでしたので、一馬様が思うままにしてくれはったら結構です」

 うーん……。


「五右衛門、って言ったよね」

「ああ」

「もう二度と人を襲ったりしないと誓えるかい?」

「……そうしてぇ所だが、食い扶持が稼げねえ。こいつらも食って行かなきゃいけねえんだ。だがこの辺りでは二度と仕事はしないように言い聞かせる」


 ある意味正直な男だな。

 一馬は妙に感心した。

 それが不利になるのは分かっているだろうに、思うことをはっきり言っている。

 しかも自分の命が掛かっているこの状況でだ。


「猿彦、義経、ちょっとこのまま見張っていてくれ」

 そう一声かけて、一馬はカネコを誘い出した。


「一馬様、どないしはったんです?」

「カネコさん、西之国では木で出来た家って一般的ですか?」

「はあ、そりゃこの辺りと同じで余程の金持ちか貴族でもないと木で出来た家には住めませんわ」

「って言うことはやはり木の板は高級品ですか?」

「そらそうですやろ。中つ国ではある程度木の板も手に入ると聞きますが、それでも値段はべらぼうでしょうな」

 やはりのこぎりかんなは普及してないのか。


「実は、ある所で木の板をこれから大量に生産しようとしているんです。それも安価に」

「木の板を大量に? そんなことが出来るんでっか」

「興味ありますか?」

「そらあります。商いやってるもんで興味ない、言う者はおらしませんやろ」

「よかったらご紹介しましょうか?」

「いや、そら有り難いことですけど、そこまでお世話になってええもんですかいな?」

 カネコは呆れたように自分の光る頭をツルッと撫でまわした。


「その代わり、お願いがあるんですが」

「なんですやろ?」

「あの五右衛門という男、どう思います?」

「なかなか芯の通った、盗賊の頭目なんぞにしておくには惜しい男かと」

「俺もそう思います。カネコさん、木の板を運ぶときの護衛に五右衛門たちを使ってやってもらえませんか?」

 一馬の問いにしばらく考えた後、カネコが答えた。


「そら木の板言うたら値が張るもんですから、護衛は必要だす。せやけどあの男、やる気になりますやろか?」

「それは俺がこれから聞いてみます」


 一馬は猿彦たちの元に戻り、五右衛門に問いただした。

「あのさあ、ちゃんと仕事があって食べていけるんだったら盗賊やめる覚悟はある?」

「そりゃあ俺たちだって好き好んで盗賊やってる訳じゃあねえ。だが俺たちみたいなやからを使おうなんて奴はいねえよ」

「このカネコさんが荷物を運ぶ時の護衛をやってみる気はないか?」

「はあ? 何言ってんだ、襲った俺たちを護衛に雇おうってか? 正気の沙汰じゃねえぞ、そりゃ」

「やる気があるのかないのか、どっちなんだ?」

「……本気なのか?」

「ああ。五右衛門たちがやる気なら雇ってもいいと言ってくれてる」

「そりゃあありがてえが、運ぶ荷はなんだ? それほどやばい物なのか?」

「やばい、っていうか結構高価なものだからね。五右衛門たちみたいな盗賊から守るにはうってつけだろう?」

「はは、そりゃ違えねえ。で、その荷っていうのは何なんだ?」

 こんな状況なのに五右衛門は興味津々だ。

 まあ教えてもいいよな、どうせ分かることだし。


「実はね、木の板なんだよ」

「木の板ぁ? なんでそんなもん」

 五右衛門が納得できない声を出す横で、猿彦が驚く。


「旦那、イサキさんところにカネコさんを連れて行くんで?」

「うん。イサキさん達の作る板を売ってくれる人が必要だからね」

「なるほど、旦那は考えていらっしゃる」

 感心しきりな猿彦をおいて、一馬は五右衛門との話を続けた。

「五右衛門、他にも腕っ節の強い奴を集められるかい?」

「そりゃあ喰いっぱぐれてる奴はいくらでもいるけどよ、それがどうした?」

「その人たちにもやって欲しい仕事があるんだ」


 一馬が五右衛門に人を集めて欲しいと言ったのは、主にきこりにするためだ。

 イサキ達が大規模に木の板を生産するためには、材料となる木の入手が必要になる。

 そのために大勢の樵が必要だ。

 しかも木を切るばかりでは周りの山々の針葉樹はあっという間になくなってしまうだろう。

 それを防ぐためには植林が必要になり、そのための人手も必要だ。

 手の器用な者なら木工を教えて生産に回すのもいいかもしれない。

 人手はいくらあっても足りないだろう。


「どうだい、やってみる気になったかい?」

「そりゃあ許してもらった上に仕事まで回してくれるんならこれほど有り難えことはねえ。なあ、お前ら」

 五右衛門をはじめとする盗賊の一味は一馬に深々と頭を下げた。

「頼む、この通りだ、俺たちを使ってやってくれ。命にかけてやるからよ」


「カネコさん、どうですか?」

 一馬は傍らに立つカネコを見て問いかけた。

「いいと思います。よろしゅうな、五右衛門」

「ははっ」

 カネコにも頭を下げる五右衛門たちを見て、一馬は猿彦と鞍馬に声を掛ける。

「この人たちの縄を解いてやって」


「一馬さま、カネコさま、これからよろしくお願いします」

 自由になった盗賊たちは改めて一馬たちの前で手をついて頭を下げた。

 その五右衛門に一馬は改めて話しかける。

「五右衛門、もう一つ君たちに頼みたいことがあるんだ」


「なんでしょう、何でも言って下せえ」

「ちょっとご飯でも食べながら相談しようか」

「では一馬様、お食事の用意をさせますよってちょいとお待ちください」

 カネコが一馬に頭を下げた。

 助けてもらったお礼におごってくれるつもりらしい。

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