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第1章第2話 「土方主将と鬼姫」

1話に続き、第2話の投稿です。

初日なんで嬉しくて、2話投稿します。

1話目は説明文が多くなってしまいましたが、だんだん少なくなる予定ですのでご容赦を。

 放課後、一馬は剣道部の道場で主将の土方と向かい合っていた。


「渡辺、俺が何故お前を呼び出したか分かるか?」

「わかりません、主将」


 180センチを超える土方の威圧感を感じながらも、一馬に緊張している様子はない。

 むしろ周りでそれを見守る他の剣道部員たちの方が緊張しているようだ。


「夏休みの合宿の時にお前を見ていてな、何となく違和感があった」

「違和感、ですか?」

「うむ、なんというか、手を抜いているというか、本気ではないというかな」

「えっと、俺としては本気でやっているつもりなんですが」


 一馬は勉強に関してはともかく剣道に関してはまじめで、手を抜くようなことはしていなかった。

 感情を前に出して熱くなるタイプではないのでそう思われたのか。


「分かっている。お前がサボっていたとかいう訳ではない」

「はあ」

「どういえばいいのか……お前が何か隠している、そんな気がするんだ」

「何も隠してはいませんよ」

「そうかもしれん。これはただの俺の勘だ。付き合わせて悪いが、俺と立ち合ってみてくれ」

「それは別にかまいませんが」

「これは試合ではない。だから何本先取とか時間とか関係なく、本気で掛かってこい」

「分かりました、やってみます」


 一馬と土方は互いに向き合って礼をした。

 一馬は竹刀の先を土方の目に向けて中段に構える。

 それに対し土方は竹刀を大きく振りかぶり、上段に構えた。

 恵まれた体格を生かし、上段から相手を叩き切るような気迫と共に攻めるのが土方の戦い方だ。


「渡辺、好きなように打ち込んで来い」

「はい、行きます。……やあっ!」


 一馬は正眼の構えから打ち込むが、土方に難なく打ち返されてしまう。

 続けて一馬は足を踏み出すと同時に鋭く胴をつく。

 土方はそれをわずかに避けながら気合と共に上段から竹刀を振り下ろした。


 バシーーン!

 激しい音とともに一馬の脳天に痺れが走る。


 さすがに土方主将、強いな。


 一馬は以前練習の中で土方に手合わせしてもらった時とは比べられないほどの気迫を感じた。


「ほら、まだだ! こんなもんじゃないだろう、渡辺」

「はい」


 一馬は改めて気合いを入れなおし、土方に打ち込んでいく。

 しかしやはり相手は高校日本一、遼真とは力が違った。


「はあ、はあ、はあ……」

 一馬は肩で息をしている。

 あれから一馬が何度打ちかかっても土方から一本に相当するような当たりは取れていない。


「違う、渡辺。これは試合じゃないと言ったろう。本気で俺を『斬る』つもりで来い」

「はい」


 土方の気迫はすさまじい。

 その竹刀には本気で一馬を斬ろうという殺気にも似た気迫がこもっている。

 日本一の主将がこれだけ本気で相手をしてくれているのだ。

 さすがの一馬も真剣にならざるを得ない。


 その時一馬は源蔵の言葉を思い出していた。

 一馬は幼いころから源蔵に鍛えられてきた。

 六歳の時から幼い体には長すぎる竹刀を持たされ、来る日も来る日もひたすら振らされた。

 小学校の高学年になってからは木刀を使い、防具も着けずに源蔵と繰り返し立ち会わされてきたのだ。

 その中で源蔵に繰り返し言われてきたのは、「良いか一馬、ワシが教えるのはスポーツとしての剣道ではない。本気で相手を『斬る』為の技術じゃ。そこに小細工はいらぬ、裂帛れっぱくの気合が重要なのじゃ」ということだった。


 それと同時に、一馬は源蔵からある一つの「技」を学んでいた。

 いや、それを技と呼んでいいのかもわからないが、「本当に必要な時以外、決して使つこうてはならぬ」と源蔵にきつく戒められてきた「それ」を試してみようと思ったのである。


 一馬は呼吸を整えると、竹刀を下段に下ろしてゆっくりと目を閉じた。

 土方はそれを見て一瞬驚いたように目を見開いたが、打ち込みはせず上段の構えのまま見つめている。


 一馬は目を閉じたまま鼻から深く息を吸い、口から息を吐く。

 意識を源蔵が「丹田たんでん」と呼ぶへその下に集中する。

 すると一馬の体の中で「それ」がじわじわと溜まって行く感覚が高まる。

 源蔵はそれを「気を練る」という表現をしていた。

 どのくらいの時間がたったのだろうか、永く感じるがほんの十秒ほどかもしれない。

 全く動こうとしない二人を周囲の剣道部員たちはかたずをのんで見つめていた。


 一馬はすうっと剣を上段に上げると同時にゆっくりまぶたを開き、普段決して見せないような強いまなざしで土方を見つめる。

 土方もそれを真っ直ぐ見つめ返す。

 一馬はそのまま左足を前に出し、半身に構えた。


 一馬は練った「気」を徐々に竹刀に込める。

 その竹刀に気がすべてこめられたその時――


「だぁっ!」

「やあっ!」


 気合と共に二人が同時に竹刀を振り下ろし、竹刀同士が激しく触れ合った瞬間、


 バァァァァァァァン!!


 激しい衝撃とともに、二人の竹刀が弾けた。


「うわあ!」

「なんだ?なんだ?」

 それまで息を殺して見つめていた周りの部員たちが腰を抜かして騒ぎ出す。


 立ち会いはこうして終わり、一馬は土方と二人で部室で話をした。


「……これが渡辺が隠していたものか」

「主将、すいません。こんな風になるとは思わなくて」

「いや、かまわん。しかし驚いたな、竹刀がこうなるとは」


 一瞬でボロボロになった竹刀を眺めて土方が呆れたように言う。


「すいません、これを竹刀でやったのも、爺ちゃん以外の人に使ったのも初めてで」

「そうか、お前はこれをお爺さんから?」

「そうです、小さいころから習ってて」

「なるほど、これが竹刀でなく真剣なら俺がやられたかもしれんな」


 源蔵はこの「気」を自在に操ることこそが渡辺の剣の肝要だ、と常に一馬に言っていた。

 源蔵ほどの腕前になれば、剣を振ってこの気を離れた相手に向けて飛ばす、などということも出来る。

 またこの気を込めれば木刀で岩をたたき割ることも出来るのだ、と言っていた。

 あまりに荒唐無稽すぎてこのことは土方には言わなかったが。


「ふむ、凄いな、一種の超能力のようなものか? それとも精進すれば俺にも使えるものか?」

「分かりません、自分でもよく分かってないんです。今度爺ちゃんに聞いておきます」

「すまんな、しかしいずれにせよ試合で使えるものではなさそうだな」


 このようなことがあったにもかかわらず、土方はさほど驚いたようにも見えず笑っている。


 さすがは主将、人間としての器が大きいな。

 動じない土方に感心する一馬だった。



 その後、何が起きたのか聞き出そうとする剣道部員に囲まれた一馬だが何とかごまかして抜け出し、義則と一緒に校門を出た。


「一馬、今日のあれ凄かったな」

「いや焦ったよ、あんな風になるとは思わなかったからな」

「見てるこっちがビビったって!」


 そう話していると突然後ろから呼び止められた。


「渡辺一馬!」


 振り返るとそこには一人の女子高生が立っていた。

 ……女子、と呼ぶには多少迫力がありすぎるが。


「あ、鬼姫」


 思わずヨシがつぶやくと、そう呼ばれた女生徒が鋭いまなざしで睨みつける。


「だれが鬼だ?」

「やべ、一馬、俺先に帰るわ」


 ヨシは脱兎のごとく逃げていってしまった。


 一馬を呼び止めた彼女の名前は岸野由姫きしのゆき

 精道館高校女子剣道部の主将にして、今年の全日本高校剣道大会の個人戦で優勝間違い無しと言われている。

 彫りが深く宝塚の男役が似合いそうな美形なのだが、整った顔立ちに厳しい表情からいつも怒っているように見える。

 その見た目と怒涛の攻めを見せる戦いぶりからついたあだ名は「鬼姫」。

 体格もよく、身長173センチの遼真を超える背丈で筋肉質。

 中でも目立つのはその肩幅だ。

 そのおかげで防具をつけるとまるで戦国武将のようにがっちりして凛々しく見える。

 そんな「鬼姫」、岸野由姫が仁王立ちしていた。

 一馬は由姫に向かって問いかけた。


「なにか御用ですか?岸野先輩」

「渡辺一馬、今日の土方との立ち会い見ていたぞ」

「ありがとうございます」

「……あれはなんだ?」

「え?」

「今日の最後のあれは何だったのだ、と聞いている」

「ああ、あれは何なんでしょう、竹刀が古くなってたのかな?」

「そんな訳がないだろう!」

「そう言われても……」


 一馬は頭を掻いて見せた。

 土方やヨシにはともかく、他の人にうかつに「気」の事を話すわけにはいかない。


「話すつもりがないなら仕方ない、戦ってみればわかることだ。渡辺一馬、今度私とも立ち合え!」

「え、いや、それは……」

「私と立ち合うのは嫌なのか? やっぱり私は怖いか?」


 急に不安そうに由姫が問いかける。

 その表情を見ていると、一馬はなんだか年上の由姫が可愛く感じた。


「別に嫌じゃないですよ。いいですよ、そのうち」

「そ、そう、そうだろうな!」


 いきなり由姫の表情が変わってなんだか嬉しそう、というか偉そうな態度になった。

 ……なんか岸野先輩、面白いな。


「分かりました、ではそのうち胸を貸してください」

「む、胸を?! あ、ああ、分かった、何時でも貸してやる。それにしても今日の最後の気迫は良かったぞ」

「ありがとうございます」

「私は家に帰るからな。じゃ、じゃあな、渡辺一馬」

「岸野先輩、失礼します」


 先輩、なんか顔が赤かったな。

 ひょっとして照れてるんだったりして……ってまさかな。

 それにしてもなんで俺だけフルネームで呼ぶんだろう。


 


 こうして一人になった一馬は、入院中の源蔵の見舞いに行くことにした。

 帰り道からは少し外れるが、たいして距離があるわけでもない。


 入り口を通って受付で頭を下げ、源蔵がいる病室に向かう。

 手にぶら下げたビニール袋には途中のコンビニで買ったシュークリームが二つ入っている。

 キャラクターに似合わないが、源蔵も一馬も大の甘党なのだ。


「爺ちゃん、元気かい?」

「一馬か、元気ならこんなところに寝ておらんわ」


 そう憎まれ口をたたいた源蔵だが、一馬のぶら下げた袋を見ると嬉しそうに頬を緩ませる。


「その中身は何じゃ?」

「エイトイレブンで新発売のシュークリームだよ」

「甘いものは体に良くないのじゃが、ものを粗末にするのと罰が当たるでな。仕方なしに食ってやろう」

「そういう言い方するなら俺が二つとも食べるよ」

「待て一馬、可愛いお前にそんな負担はかけられん」


 そんなことを言いながら一馬と源蔵は二人でシュークリームを食べた。

 うん、ロンソンのよりこっちの方が好みだな、やっぱり生クリーム入りよりカスタードだけの方がいい。


「爺ちゃん、ゆか姉のこと聞いた?」

「……結婚の事か」

「やっぱり知ってたのか」

「それとなくじゃが、由香の母親から聞かされておった。神社の跡取りとして婿を迎えるらしい」

「そうか……」

「あまり気を落とすな、一馬」

「何言ってんだよじいちゃん、俺が気を落としたりする訳ないだろ」

「まあそれならいいのじゃがな」


 ……自分でも気づいてなかったのになんで爺ちゃんにバレてるんだ。


 一馬はその後土方との立ち合いの話をした。


「一馬、人前で『気』を使ったのか」

「うん、でもみんな訳が分からない、って感じだったから大丈夫」

「必要な時以外絶対に使うなと言っておいたじゃろう」

「だって爺ちゃん、必要な時、って何時なんだよ」

「それはいずれ分かる時が来るわい」

「それより、あれって土方先輩にも使えるのかな」

「それは何とも言えんな。『気』を使えるかどうかはまずそのものの素質によるところが大きいのじゃ」

「へえ、そうなのか」

「ワシら渡辺の一族のものは代々その素質を受け継いである。ただその土方という男、それほどの腕前であればあるいは」

「使えるかもしれない?」

「鍛えれば使えるやもしれぬが、そうでないやも知れぬ」

「結局分からない、ってことか」

「まあそうとも言えんこともない」

「なんだよそれ」


 そんな話をして一馬が病院を出るころには辺りはすっかり暗くなっていた。

 川沿いの道で足を止めてふと空を見上げると、雲一つない星空が広がっていた。


 ……こんなに星が見えるなんて、都会では珍しいな。桂村じゃ満天の星空なんて当たり前だったけど。


 そんなことを思って前を見ると、すぐ目の前に男が立っていた。

いかがでしたでしょうか?

読んでお分かりかと思いますが、剣道経験などは全くございません。

ですのでその辺は甘く見て頂けると助かります(土下座)。

少しでも面白かった、先が気になるという方は登録や評価をして頂けると泣いて喜びます。

明日からもよろしくお願い致します。

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