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第3章第5話 「別れと旅立ち」

あああ……

書き溜めていた貯金が切れるぅ

続きをかかなきゃ

お願いオラに元気玉を…

 それまで泣いていた美幸がうつむいたまま一馬に問いかけた。


「一馬さまは朱雀さまとこれから何をされようというのですか?」

「それは話せば長くなるんだけど……」


 一馬は自分が瑞穂の国に連れてこられ朱雀と出会ったいきさつから、朱雀と交わした約束まで順を追って話した。

 それを聞いていた美幸はいつの間にか顔を上げ、一馬の顔を見つめている。


「という訳で、スサノオを探す手がかりがないかと思って美幸さんを探していたんだ」

「そうだったのですね。しかしわたくしは残念ながらスサノオさまに関しては何も存じませぬ」

「そっか、仕方ない。他の手掛かりを探すよ」


 一馬は目論見が外れ、少しがっかりした。

 もともとそう簡単に見つかるだろうとは思っていなかったが。


「一馬さま、もう一つお願いを聞いていただけませんでしょうか」

「なに?」

「一馬さまと朱雀さまの旅に、わたくしたちもご一緒させてはいただけないでしょうか?」

「いや、でもどこへ行くのかもどれだけかかるかも分からないよ?」

「かまいません。先ほどお話ししたように、わたくしは御剣の武威を再興し、皇龍をお助けするために草薙の剣を探しておりました」


 美幸は真剣な顔で一馬の目を真っ直ぐ見て話している。


「草薙の剣を使い朱雀さまとお話しするには力が足らぬと分かりましたが、直ちに全てをあきらめる訳には参りませぬ」

「まあそうだよね」

「ですので一馬さまの旅にご一緒させて頂き、その中で自らを鍛え、何時かもう一度草薙の剣を持つに相応しいか試みさせていただければと」

「そりゃあ俺も美幸さんがいつか草薙を引き受けてくれたら嬉しいけど」


 一馬にとっては美幸が草薙の剣と朱雀を引き受けてくれたら早く帰れるのだから嫌なはずがない。


「でしたら、なにとぞ!」

「うん、いいよ。俺も美幸さんがついてくれた方が心強いし。何せこの世界の事まだほとんど分かってないからね」

「ありがとうございます! 一馬さま」

「うん、よろしくね」

「それで一馬さま、実はわたくしには二人の連れがおりまして。その者どもはどうやら一馬さまを存じておるらしいのですが、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」

「別にいいけど、知り合いって誰だろう?」


 知り合い、と言われて一馬は首をひねった。

 この世界に来て時間もたってないし、そんな知り合いなんて心当たりないけど。


「どういった形でお会いしたのかは私も知らないのです」

「そっか、まあ会えば分かるね。で美幸さん、スサノオの手掛かりになりそうなところ知らない?」

「そうですね、この町から南に1日ほど下ったところにスサノオを祀るやしろがありますが」

「それはいい情報だ。さっそく行ってみたいな。出発は明日でいいかな?」

「結構です。では明日の朝この町の南側の入り口にてお待ちしております」

「南の入り口ね、分かったよ」


 美幸は朱雀と話が出来なかったショックからようやく立ち直ったようで笑顔を見せた。


「ではわたくしはこれで失礼いたします。天津麻羅アマツマラさま、明朝出かける前に小太刀をいただきに参ります」

「よかろう、それまでに砥いでおこう」

「よろしくお願いします」


 美幸は二人に丁寧に頭を下げて出て行った。


「ところで天津麻羅さま、お願いしていたのこぎりの具合はどうですか?」

「おお、いい具合だぞ。見てみよ」


 天津麻羅は作っていた鋸の試作品を取り出し、カズマに手渡した。

 頼んだ通りの大きさで、薄く左右に振るだけでしなる。

 昨日頼んだばかりなのに既に木の柄まで取り付けてあるのはさすがだ。


「おお、試しに切ってみてもいいですか?」

「おお、ではこれを切ってみよ」


 天津麻羅は小さな丸太を数馬に渡した。

 カズマは立ち上がり、それを切ってみる。

 今まで一馬が使ったどの鋸よりも使いやすく、驚くほど切れ味がいい。


「うわあ、これ凄いな」

「なかなかであろうが」

「なかなか、なんてものじゃないですよ。あの、これっておいくらぐらいするんでしょう」


 一馬は出来栄えに感心すると同時に、急に値段が怖くなってきた。


「そうよのう……」


 悩む様子の天津麻羅を見て一馬はドキドキする。

 ものすごく高いんじゃないだろうか、なにせ神様の手作りだしなあ。


「まあ1丁あたり銀2粒というところでどうじゃ」

「え?」


 一馬は一瞬自分が聞き間違えたのかと思った。


「銀2粒、ですか?」

「そうじゃ。高いか?」


 いやいや天津麻羅さま、良心的すぎるでしょ。

 一馬の計算では2万円だ。

 元の世界で鋸がいくらするのかしらないが、少なくともこの鋸の値段としては考えられない。

 まあイサキ達にとっては安い方がいいので高くしろとは言わない。


「それでいいんですか?」

「まあいいじゃろう」

「この一本だけでなく、これから先何丁も作って頂かなきゃいけないんですが」

「無論それらも同じで良い」

「ありがとうございます!」


 一馬は天津麻羅に銀2粒を払うと同時に、かんなについても相談してみた。


「なるほど、木の表面を滑らかに削るための道具、か」

「そうなんです」


 一馬は鋸の時と同じように地面に図を描いて説明した。

 さすがに天津麻羅は呑み込みが早く、瞬く間におよそのイメージをつかんだようだ。


「よかろう、作ってみよう」

「ありがとうございます。で、鋸はイサキさんという人が注文しに来ると思いますので、よろしくお願いします」

「いいだろう」


 一馬は出来上がった鋸を受け取って外に出た。


「意外と安かったから余ってるな……よし」


 一馬は猿彦に会いに行くことにした。

 猿彦の家に行き、中を覗く。


「猿彦、いるかい」

「あ、一馬の旦那ようこそいらっしゃいました、どうぞ中へ。おいお六、お茶だ」

「いいよ、ちょっと猿彦外で話せる?」

「へい、なんでしょう」


 猿彦は一馬について外に出た。


「猿彦、これ使ってよ」


 一馬は猿彦に金を2粒手渡した。

 これで一馬の手元に残るのは金1粒と銀2粒になる。


「旦那、これ」

「うん、必要なものは買ったんだけど思いのほか安くてさ」

「いえ、これは旦那の物で頂く訳には参りません」

「いいから。土蜘蛛のところに案内してくれて助かったし、鍛冶屋さんも猿彦の紹介で見つかったし、新生活にはお金が必要だろ?」

「旦那……」

「そんな顔するなよ。俺明日ここを立つからさ、その前にと思って」

「葛城村へ帰りなさるんで?」

「いや、ちょっと探してる人がいてさ。旅に出るんだ」

「そうですか……寂しくなりやすね……」

「また戻ってくるからきっと会えるさ。お六さんと仲良くね」


 一馬が手を振って立ち去るのを、猿彦はいつまでもお辞儀をして見送っていた。


 その頃、美幸は町の外で待っていた牛頭ゴズ馬頭メズのところに戻っていた。


「みゆき様、天津麻羅様は見つかりましたかい?」

「うん、馬頭ちゃん、牛頭ちゃん、それだけじゃないよ」

「……というと?」

「二人が言っていた私を探してる、っていう人にも会えたんだよ」

「え」「……え」


 牛頭と馬頭は顔を見合わせた。


「渡辺一馬さま、っていうんだね。二人とはどういう関係なの? 仲いいの?」

「いや、仲がいいというか、なんというか、なあ牛頭」

「……ちょっとした知り合いだ」

「そうなんだ、まあいいわ。明日から一馬さまと一緒に旅をすることになったから」

「いや、ちょっと待て、みゆき……様」

「なに? そんなに慌てた顔してどうしたの?」

「あの一馬って奴と一緒に旅をするって、本気か?」

「本気って、そりゃそうよ。美幸からお願いしたんだもの」

「……気は変わらないか」

「変わるわけないでしょ! わたしはね、一馬さまと旅をして自分を鍛えなければいけないの。とにかく明日からだから、よろしくね!」


 思わず顔を見合わせてため息をつく牛頭と馬頭だった。



 一馬は猿彦と別れた後、イサキたちのもとへ行った。


「おお一馬さん、ノコギリの出来栄えはどうだったい?」

「イサキさんたち、ちょっとこっちへ来てよ」


 一馬はイサキたちを人気のない林の中へ連れて行った。


「いったいどうしたっていうんでえ?」

「皆さん、これ見てよ」


 一馬は持っていた布包みの中から鋸を取り出してイサキに渡した。

 イサキはそれ不思議そうにめつすがめつしている。


「へえ、これがそのノコギリ、ってやつかい」

「イサキさん、それでこの木を切ってみてよ」


 一馬はイサキに一本の木を指差した。


「どうやって使うんだい?」

「見てて、こうやって引いて切るんだ」


 まずは一馬が手本を見せる。

 面白いように木が切れていく様子に商人たちは興奮する。


「す、すごいな――」

「こんなの見たことないよ――」

「これはみんな欲しがるぞ!――」

「一馬さん、俺にも使い方教えてくれよ!」


 イサキが興奮して一馬に頼み込む。


「いいよ、まずはこうやって、ここに真っ直ぐ鋸を当てるんだ」

「こ、こうかい?」

「そうそう、それでこの鋸は引く時に切れるから、こういう感じで引くんだ」

「ぉぉ、すげえ、切れてるぞ!」

「そうそう、でそれを押してまた引くときに切れる。これを繰り返すんだよ」

「なるほど、これはものすげえもんだ」


 イサキたちは心底感心したようだ。


「これがあれば木の板が作れるよね」

「ちげえねえ。これがあれば木はどんどん切れる」


 一馬はイサキたちに天津麻羅のことを説明した。


「ですから天津麻羅さまがこれを1丁銀2粒で作ってくださるので、これを仕入れてください」

「でも天津麻羅様ってのは鍛冶の人神様なんだろ? 恐れ多くて話せねえよ」

「大丈夫です。皆さんの事はもう伝えてありますから。それと」

「それと、ってまだ何かあんのかよ」

「一緒にかんなも頼んでありますので、試作品を見て良かったらこれも注文してください」

「わかった。でもなんか一馬さん、どっか行っちまうような話しぶりだな」

「そこなんですが、俺は明日からまた旅に出ることになりました。急な話ですいません」

「え? 一緒に葛城へ戻ってくれるんじゃなかったのかい」


 急な話にイサキたちは慌てた。

 これからの商売も一馬にいろいろ頼ろうと思っていたからだ。


「実はある人を探してましてここへ来たのもその為だったんですが、さらに南に手がかりがありそうなので」

「そうかい、それは知らなかった。でもまた葛城には戻ってくるんだろ?おキヨも待ってる」

「それはもう。必ずまた寄らせてもらいます」

「そうか、んじゃ今日は別れの宴だ、盛り上がらねえとよ!」


 イサキたちはまたしこたま飲んだ。

 一馬にしてみればどうも酒を飲む口実に使われたような気がしないでもない。

 だがこの世界に来て初めて仲良くなった人と別れるのは寂しいものだ。

 一馬は飲まなかったが一緒に盛り上がった。



 翌朝。

 そろそろ出発しようと一馬が宿を出ると、猿彦が立っていた。


「やあ猿彦、わざわざ見送りに来てくれたの?」

「それなんですが旦那、よかったらあっしも連れてって貰えませんか」


 猿彦は一馬に頭を下げた。


「何言ってるんだよ。俺の旅なんてどこへ行くかもどれだけかかるかもわからないし無理だよ」

「それは構わねえんです。あっしは一馬の旦那と一緒に居てえんで」

「生活費どうするの? お六さんはどうするんだよ」

「お六の奴には昨日旦那から頂いた分をそっくり渡しやしたんで当分大丈夫です」

「いや、でも」

「自分の食い扶持は自分で稼ぎやす。旦那にご迷惑はかけませんからなにとぞこの通り」


 猿彦はますます深く頭を下げる。

 それを見ている和彦は困った表情で頭を掻いた。


「いや、別に俺はいいんだけど、お六さん大丈夫なの?」

「ありがとうございます! お六の奴はガタガタ言ってやしたが何、あれはなんだかんだ言ってもあっしに惚れてますんで大丈夫です」


 猿彦は自信ありげにニヤッと笑った。


「まあそう言うことならいいよ、一緒に行こう」

「へい旦那、お供します」


 二人はイサキたちに分かれを告げ、美幸との待ち合わせ場所へ歩いて行った。 



「あ、かずまさまー、こっちです!」


 待ち合わせ場所では手を振って迎える美幸とともに、牛頭と馬頭がそっぽを向いて立っていた。


「あ! 牛頭馬頭、お前らなんでここにいるんだ」

「いや、ちょっといろいろあって、な」

「……聞くな」


 猿彦に問いただされて二人は答えづらそうにしている。


「牛頭ちゃんと馬頭ちゃんは、わたしの式神なんですよ」


 満面の笑みで話す美幸の言葉に一馬も猿彦も仰天した。


「ゴズちゃんとメズちゃん?!」

「式神、って? そうだったのか?」

「いや、あの時はまだそうじゃなくて、あの後色々あったというか」

「……聞かないでくれ」


 牛頭も馬頭もうつむいてしまう。

 それを気にせず美幸はニコニコ笑って一馬の左手の二の腕をつかんで見上げる。


「かずまさま、楽しみですね! えへっ」

「美幸さん、昨日と雰囲気違わない?」

「そんなことないですよー、それよりみゆき、って呼んでください」

「あ、じゃ、じゃあみゆきちゃん、行こうか」


 一馬は美幸に腕をつかまれたまま歩き出した。

 そのあとを猿彦と牛頭馬頭がついていく。



ブクマ、評価、感想なぞ頂けたら泣いて喜びます。

どうぞよろしくお願い申立てまつりまつる。

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