第1章第1話 「起きたら目の前に管狐」
はじめまして、この小説に目を留めて頂きありがとうございます!
異世界ファンタジーが好きで、でも西洋物は沢山あるし、というので古代日本の神話世界をモチーフにしてみました。
もともと漫画の原作の設定として考えていた物なのですが「小説を読もう」というサイトを知って皆さんの作品を読ませて頂くうちに、自分でも書きたくなって書いてみました。
初めて小説を書くので読みづらい点、お見苦しい点色々あると思いますがご理解頂けると有り難いです。
誤字脱字については御指摘いただければ直しますのでお願いします。
現在8話ほど書き溜めてありますので、そこまでは毎日投稿できると思います。
その続きは順次書いていきますので、続きが気になる方は……オラに元気玉を!
「カズマどの、カズマどの、起きてくだされ!」
耳元で甲高く叫ぶ声で渡辺一馬は無理やり起こされた。
「なんだよ、今日は日曜日だぞ。せっかくゆっくり眠れるっていうのに」
「せっかくの休日を寝て過ごされるおつもりですか?洗濯物も溜めておいででしょうに。ユカ様も心配なされておいででしたよ!」
一馬が渋々目を開けて起き上がると、ベッドの枕元に犬、ではなくて狐が座ってにらんでいる。
……体長5センチほどしかない手のひらサイズのキツネが。
「管狐、ゆか姉に今度から用事があったらお前を送らずに電話かメールにして、って伝えておいてくれ」
「電話、メール、ふんっ! そのような訳わからぬもの。ユカ様はお使いになられたくないに違いありませぬ」
管狐は馬鹿にしたように鼻を鳴らして言い立てる。
「だいたいワタクシがここにわざわざ来ておりますのは、単にユカ様のお言葉をお伝えするためだけではありませぬ。カズマどのが真面目に生活しておられるかをユカ様にご報告するためなのです」
管狐は急に鼻をピクピクさせて自慢げに言う。
「例えば、カズマどのが寝床の下に何やらおなごが肌を露わにした読み物を隠しておられる。それも1冊ではなく3冊も、ということなどですな」
「ば、馬鹿キツネ! あれはヨシが勝手に置いて行ったんだ! ……っていうか、ゆか姉にそんなことまで告げ口してるのか?」
「ワタクシは狐ですので馬でも鹿でもございませんが。まあ今のところその辺りはワタクシの胸の中に納めるつもりでおりますが、それもカズマどのの態度次第です」
「……わかった、管狐、これからもよろしく頼むよ。それで、今日は何の用で来たんだ?」
「分かって頂ければ結構です。さて今日は、ユカ様より託を預かってまいりました――」
彼の名前は渡辺一馬。
今年、私立精道館高校に入学した高校一年生、十六歳だ。
身長は173センチ、高校一年生にしてはやや大きい方である。
短めに切った濃い黒の髪には無造作に寝癖がついており、眠そうな目は二重でまつ毛が長い。
瞳の色がやや茶色味を帯びているのは母親譲りらしい。
身体は細身だが、鍛えられてしっかりと筋肉がついている。
それもそのはず、子供のころから祖父に厳しく剣道で鍛えられてきたのだ。
高校でも剣道部に入っている。
一馬の目の前にいるこのよく喋る手に乗りそうなほど小さな狐は管狐という。
もちろん、ただのキツネではない。
物の怪の一種で、一馬の従妹の由香が使う式神だ。
管狐はいつもは由香の持つ竹筒の中に居て、由香の命を受けてこうしてやってくるのだ。
自分では由緒正しき狐の一族の中でも名門で、齢百年を超える妖狐なのだ、と威張っているが実際のところはどうなのだか。
篠原由香は一馬の母方の従妹で二十一歳。
一馬の母の徳子の実家である篠原神社の巫女として子供のころから修行を積み、管狐を式神として使うことが出来るようになった。
ちなみに由香の前にこの管狐を使っていたのは一馬の母の徳子だった。
一馬は小さいころから管狐を見ているのでもはや驚きも感動もない。
実は、一馬には特別な力がある。
それは物の怪や妖怪が人や物に化けても見抜くことが出来る、という力だ。
他の人には見えないような存在も普通に見ることができる。
亡くなった一馬の父や母にも同じような力があったのだという。
それには一馬の家である渡辺家が「鬼の腕を切り落とした」という言い伝えのある武士の家系であることも関係あるかもしれないし、母の実家がお稲荷さんを祀る神社なのだから不思議はないのかもしれない。
一馬は六歳の時に両親を同時に交通事故で亡くし、父方の祖父である渡辺源蔵に引き取られて育てられてきた。
五歳年上である由香はそんな一馬を心配し、子供のころから何かと世話を焼いてきた。
一馬が小学校に入学した時に由香は同じ学校の六年生で、わざわざ教室にまでやってきては何かと一馬の世話をしていた。
一馬もそんな由香を「ゆか姉」と呼んで慕ってきたのだ。
由香は見た感じおっとりして見えるが、内面はしっかりしていて思ったことははっきりと言う。
たとえそれが頑固一徹、誰のいう事も聞かないという評判の一馬の祖父、源蔵に対してもだ。
一馬の母方の従妹である由香と父方の祖父である源蔵の間に血のつながりはないが、源蔵が素直に言うことを聞くのは由香の言葉だけである。
霊山として知られる桂山のふもとにある桂村で一馬と共に暮らし、小さな剣道場(といっても一馬は弟子の一人も見たことはないが)を営みながら農業をしていた源蔵が体調を崩したのは去年のことだった。
それまで「わしゃ殺されても死なん」と威張っていた源蔵が寝込んだ時一馬は驚いたが、いくら病院に行けと一馬や周りの親戚が言っても源蔵は頑として聞き入れなかった。
そんな源蔵を説得し渋々ながら病院に行くことを了承させたのはやはり由香の言葉だった。
源蔵の病院での検査の結果は思わしいものではなかった。
長年の無理がたたり、心臓に異常が見られるため長期入院が必要だということになったのだ。
すると一馬をどうするのかということが問題になり、中学生を一人で生活させることもできないということで、中学を卒業するまでの間一馬は母の実家であり中学からも近い篠原神社に居候させてもらった。
そして高校は源蔵の入院している病院からも近く、寮のある私立精道館高校に通うことになったのだ。
「ユカ様よりの託です。ユカ様は来年ご結婚されることがお決まりになりました。つきましてはお相手の方をぜひカズマどのにご紹介したいので、近いうちに時間を作ってもらえないか、とのことです」
それを聞いた瞬間、一馬は自分でもびっくりするほどのショックを受けた。
そうか、ゆか姉結婚するのか。ゆか姉可愛いもんな。そうか、俺、ゆか姉の事、そうだったのか……
一馬は自分でもはっきりと気付いていなかった由香への思いに今更ながら気づいたが、動揺を隠して管狐に答えた。
「わかった。来週は土日とも練習試合があるけど、再来週の日曜なら多分大丈夫だからってゆか姉に伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
翌日の朝。
もう9月も半ばを過ぎて朝晩はずいぶん涼しくなった。
「うぉーっす、って、おっとっとっと」
鞄を肩にかけて歩いている登校中の一馬の背中を後ろから思い切り叩こうとした学生服の男が、避けられて体勢を崩して転びかける。
「ヨシ、おはよう」
一馬に避けられて「ヨシ」と呼ばれた彼の名は河野義則。
一馬にとって同級生であり寮仲間であり、剣道部の部活仲間でもある。
「ヨシ、お前の持ってきた例の本のおかげで昨日さんざんな目にあったぞ」
「何言ってんだよ一馬、ほんとは嬉しいくせに。今度はどういうのがいい?」
昨日一馬が管狐に脅される原因となった例の本を持ってきたのがこの男らしい。
「しかし一馬は俺の奇襲を上手いこと避けるよなあ」
「いつも言ってるだろ、ヨシが近づくと気配がプンプンするんだよ」
「それが問題なんだよ、つまんねえよなあ」
実はこの河野義則、見た目はただのおっちょこちょいで小柄な男子高校生だが、実はハーフなのだ。
……河童と人間の。
一馬は入学式で義則に会った時に一目でそのことに気付いた。
だからといって別にどうとも思いはしなかったのだが、寮で二人きりになった時にさりげなく聞いてみたのだ。
「君ってモノノケの血が入ってるよね? ハーフなの?」
そう聞かれた瞬間の義則の魂を抜かれたような驚いた顔を思い出すと、一馬は今も可笑しくて仕方ない。
「お、お、お、お前、な、な、何言ってくれちゃってるの? 全然意味分からんし!」
「ああ、別に隠さなくて大丈夫。俺そういうの気にしないし、慣れてるし」
「な、慣れてる、って、お前、頭おかしいんじゃないの? 変なこと言うなよ!」
「変なこと、って言われてもなあ。頭にお皿がある、ってことは河童か何か?」
「か、か、カッパって! なんでお前見えてる、ってそうじゃなくて!」
慌てて頭に手をやった義則に、遼真は落ち着いて話しかけた。
「大丈夫、ちゃんと隠れてるよ。ただ俺なんか昔からそういうのが見えちゃう体質なんだよね」
「体質、ってなんだよそれ」
それから二人は互いに自己紹介し、話し合って結果友達になったのだ。
部活を決める時、一馬は義則にやはり水泳部に入るのかと聞いてみた。
しかし義則は親から「決して人前で泳ぐな」ときつく言われているので入らない、と答えた。
つい本気で泳いでしまうととんでもないタイムが出て社会問題化するから、だそうだ。
「ほら、オリンピックで三つ金メダル取った選手いるだろ? 彼も河童の血が少し入ってるんだぜ」
「ふーん、そうなのか、いろいろ大変なんだな」
一馬が剣道部に入部する、というのを聞いて結局義則も一緒に入部することになった。
ただ面を打たれるのをやたらと警戒しすぎて胴や小手ががら空きになっている、といつも怒られている。
やっぱり河童だから頭を打たれるのは嫌なんだろうな。
「それにしても一馬、いつにもましてテンション低くね? まあいつも高くはないけど」
一馬はいつも落ち着いている、というかぼんやりしていると思われがちだ。
確かにあまり感情を面に出すのは得意ではないし、ノリもいい方ではない。
服装や髪形にも気を使う方ではない。
頼みごとをされると断れないタイプなので「見た目も悪くはないし、いい人なんだけど彼氏にはちょっと」とか言われて、今まで女子にモテた記憶がない。
ちなみに義則はというと、とにかくイタズラ好きの悪ふざけで周りに迷惑がられている。
女子からは「ヨシって馬鹿ばっかやってるし、いつもアヒル口してるよね、キモい」とか言われている。
本人は「意識してやってるんじゃない、自然になってるんだよ! 俺は河童と人間のダブルなんだから仕方ないだろ!」と怒っているが、他人に河童の血が入ってるなんて言える訳もないんだから仕方ない。
「いや、ちょっと昨日ショックなことがあって、ね」
「お、一馬がショックを受けるとは珍しいな。よし、このヨシ先生が悩みを聞いてあげよう。ほら、この胸に飛び込んで来い!」
両手を広げてニヤつく義則を見て一馬は両手を広げて肩をすくめた。
「いや、いいよ、ヨシに相談しても役に立たないのは明白だし」
「なんだよそれ、ひどくね?」
そんなことを話していると学校が近づいてきた。
私立精道館高校、生徒数は千人を超え、付属の中学や大学もあるというマンモス校である。
「文武両道」を掲げ、勉学だけでなく各スポーツにも力を入れている。
中でも剣道部は名門と呼ばれ、去年も全校高等学校剣道大会で団体戦男女、個人戦男子の三部門で日本一となった。
それまで田舎の道場で源蔵としか刀を交えたことのない一馬にとって部活での剣道は何かと新鮮だったが、中でも新主将となった土方武蔵の腕には心底驚いた。
土方は昨年二年生ながら高校の全国個人戦男子を制した学内一の有名人で、180センチを超える長身から振り下ろされる上段の威力たるや凄まじいものがある。
源蔵に厳しく鍛えられてそこそこ自信のあった一馬だが、土方には全く歯が立たなかった。
ちなみに土方は豪快な俺様キャラのくせに学業の成績も優秀で、生徒会長も務め女子の人気も抜群である。
「一馬、土方主将に呼び出されてたのって、今日じゃなかったっけ?」
「ああ、なんか今日の部活でしごかれるらしい」
「お前、先輩に目を付けられるようなことしたんじゃね?」
「そんな覚えはないんだけどなあ……」
主将に呼び出しをくらったにもかかわらず、あまり困ったように見えないのが一馬らしい。
「一馬ってほんと動じない、ってかのん気だよなあ」
「そうかな? 俺だって結構緊張してるんだけど」
見ている方が心配になるよ、とぼやく義則だった。
ここまでお読みいただき、有り難うございました。
いかがでしたでしょうか?
飽き性な自分ですが、頑張って書き続けたいと思いますのでよろしくです。
明日から(書き溜めてある分がある間は)毎日午後11時くらいまでには投稿しようと思っていますので、よろしくお願いします。