母と息子と可愛い妹
優しげに母が笑う。
だからリオウも一緒に笑った。
「ははうえ……」
「何ですか、リオウ」
呼びかければ必ず母はこちらを向いてくれた。手を伸ばせばそっと抱きしめてくれる。リオウはこの優しい母が大好きであった。
そしてもう一人。
「チュチュンはげんきですか」
「んーどうでしょうね。リオウ、ちょっと聞いてみてくれる?」
「はい!!」
母に頼まれてリオウは勇み返事をした。そしてほんのり大きくなった母の腹に耳を当てる。そう、リオウには兄弟ができるのだ。
母と同じくらい大好きなチュチュン。
「チュチュンげんきですかー」
先ほどと同じ問いを再びする。叩いたりはしない。小さな兄弟をおどろかす訳にはいかないのだ。その代わりそっと母のお腹の上からなでてやった。
「いいこーいいこー」
「どうだったのですか?」
「んーと、げんきです! だって」
「それは良かった」
お腹をなでるリオウの頭がなでられた。
「あとね、ははうえ。チュチュンはおんなのこだからもっともっとおはな、ほしいって」
「はいはい、では後でお父様に頼みましょうか」
「だめーーだめなのー! リオウが取りに行くの」
お兄さんぶりたいのかリオウはこの所父親に頼むのを嫌がっていた。何でもかんでも自分でやりたがる。特にチュチュンに関する事は意地でも譲らなかった。
「では、取りに行くのはリオウに任せましょう。代りにお父様にはリオウの道案内をしてもらうのはどう?」
「うーん」
リオウは不満だった。本当は全て自分でやりたかったのだ。だが、母は父と一緒に行くことを薦めてくる。
だから賢い母は言い方を変えた。
「道を覚えたら、今度はリオウがチュチュンの道案内になれるでしょう」
「うん!!」
それはリオウがまだ小さくてチュチュンが妹だと疑わなかった頃の話。
今は昔の話。
「……どうして今その話をするのですか、母上」
「だって、チュチュンも父親になるのですよ。せっかくだから生まれた時の話をしてあげたいじゃありませんか」
「だからって……私の失敗談はやめてください」