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焼鳥屋の店事情   作者: 一齣其日
第2シーズン
22/24

姐さんはいつも突然に

「しっかし、けったいなバイトを雇ったもんだねえ」

「けったいなバイトってなんなんすか!」

「いーや、だってねえ……ほら、あんた今さっきレジスターに手を伸ばしてたからねえ」

「んぐ……」


いやあ、あたいとしては実にびっくりな出来事だったさ。

気まぐれに後輩とその夫が経営している焼鳥屋に行ったら、なぜか見知らぬ小僧がレジの金を抜き出そうとしてたんだから。いやはや、どんな泥棒だ、とその小僧を締め上げて、夫の方に電話をすると、なんとバイトの子だというじゃあないか。私も仰天するしかなかったね! まさかこんな泥棒をバイトに雇うとは、大したものだとね。

ついでに、この泥棒からも事情を聞いてみると、どうもこういうことらしい。

夫兼店主は少し用事で留守にしていて、その間にこのバイトが来て、夫の方がいないのを確認して金をかすめ取ろうとした。盗みはいつもやろうとしているが、店主に阻まれている、と。いや、阻まれて当然だ。

実際、店主もいつもこの子が盗みをやろうとしてるのは認めていた。以下会話。


『いやまあ、いつものことなんだけどなー。つうか、取り敢えず礼はいうが、お前はさっさと帰ってくれ』

「別にいいけどサァ、しっかしあんたもあんただかんね? 無用心にもほどがあるっての! ……ま、今度会うときは……ねえ」

『……』


おやおや、電話の向こうでかつてあの不良とし名を馳せた店主は、黙りこくってしまったようだ。一体何をそんなに黙る必要があるのかね? ま、黙ったままの相手に電話なんて面倒だから、きっちまうけどさ! そう、がちゃりとね。

と、いうわけで、あたいの目の前で焼き鳥を焼くバイトの子に目を向ける。どうやら無理やり聞き出したところ、この子の名前は兵馬くん、というらしい。ふむ、白髪頭なのは気になるが、実際見た目だけだと可愛いもんだねえ。


「いや、何変な目でジロジロ見てんすか。やめてくださいっすよ」

「ええー? いやあ、べっつにいいじゃん? てーか、文句言う口を動かすくらいなら、うまい焼き鳥を焼く手を動かしな!」


と、ツンツンと棒で白髪頭を突く。兵馬は文句を言いたげな顔だが、ん、と我慢して焼き鳥を焼き続ける。何かしら文句を言えばいいのにねえ。

まあ、さっき文句を言った時は、ひどい目にあったらしいが。大きなコブが見え隠れしているよ。いや、面白い。


「つ、つーか、あんた一体誰っすか。いや、さっき店長だまらせてたっぽいっすけど……な、何者なんすか」

「あれ、あたいまだ自己紹介してなかったっけ?」

「してないっすよ! いきなり首根っこ掴まれて投げ飛ばされて、ついでに焼き鳥焼いてくれって言われて今に至るんすよ! その間、あんたの自己紹介何にもなしで、俺わけわかんなかったからっすからね!」

「いやあ、これは悪い悪い。ま、言うならば、あたいの名前はアカナさ。その店長の嫁の大学時代の先輩さ。今は、大学で日本史を教えてたりするね」

「え、ええ……」

「おや? その目は全然信じていないようだね。なら、ちょいと講義でもしてやろうか? そうだな、盗賊の話でもしてやろうか?」

「いや、いいっす。長くなりそうなんで」

「このー、謙遜しなさんなって」

「いや、俺、今焼き鳥焼いてんすから!」


と、先程までは、なあなあで焼いていたのに、あたいが講義しようとすると急に真面目になって焼き始める。むう、せっかく歴史話が出来そうだったのに、最近の若者はつれないというかなんというか。

しかしまぁ、あいつに仕込まれたのか、焼き鳥の焼き具合はだいぶ上手いんじゃないのかな。焦げ臭い匂いもないし、焼き鳥特有の、胃をくすぐるようないい香りが良くよく立ってくる。


「ほぉ、あんた、仕事ぶりは不真面目そうなイメージがあったが、なかなか上手いんじゃないの?」

「いや、無理やりやらされた賜物っすよ。ほんとは、あんまこういうことせず、楽して金が稼げたらなあ、と思ってるんすよねえ」

「ほほう、だからさっきはレジスターの金を盗ろうとしたわけね」

「いや、俺そんなことしてないっすね。何かの間違いじゃないっすか?」

「開き直んなさんな!」


と、一括ついでに、頭チョップ。いっでえ! という絶叫が響き渡るが、あたいはそんな強くやった印象はない。脆弱脆弱。

しかしまあ、それでも焼き鳥は焼かれていき、出されるは程よくタレがかかった数本のつくね。このまま一息に食いたくなっちまうが、やはりここは大人。命をいただく時の礼儀は忘れてはいけない。

というわけで、お手を合わせて、


「い! た! だ! き! ま! す!」


さあ、まず一本頬張ってみる。ふむ、焼き加減は上々。それに、この肉のすり身がたまらない。そして、次節こりこりとした感触。コイツァ、軟骨だね! この食感のアクセントが、つくねというものを一段と美味しく仕上げていると思うが、読者諸兄はどう思うかね?


「いや、メタ発言しないでくださいっすよ……つかなんすか、今までのモノローグ。あんたは食レポの記者かなんかっすか?」

「いやまあ、語り部をやる機会はそうそうないからねえ、たまにはこうしてはしゃぎたいのさ。わかるかい、坊や」

「いや、何もわからないっすし、つか坊やはやめてくださいっす!」

「でもまあ、これは言えるな。坊やの焼き鳥、結構美味いぜ」

「んぐっ……」


先程までげんなり感半端なかったバイトの坊やが、若干照れ臭い様子で顔を赤らめる。ふむ、やはりこういうところが可愛いんだよねえ、このくらいの歳頃は。素直じゃない分、なおさら。

などと、ニヤついていたところで、店の扉がガラリと音がする。


「げぇ……」

「おおーっ、店長おかえり〜、ってなんだぁい、その嫌な顔は」


そこにいたのは、店長ことあたいの後輩の旦那の正真。相変わらず、あたいに会うとなると嫌な顔を浮かべるものだね。いや、なんでこんな顔されるのか、あたいには皆目見当もつかないね。


「こ、ここまで店長が嫌な顔するの初めて見たっすよ……え、あんた本当に何者なんすか……」

「兵馬、そいつを前にしたらいろんな意味で諦めた方が早いぞ」

「諦めた方が早いって……」

「抵抗なんか考えるな。いや、ほんとに、ガチでだ」

「え、ええ……なす術なしってことっすか……?」

「そゆことさ……」

「おいおい、なんだい? 二人ともそんな死んだような顔をして」


なにやらこのお二人さん、内緒の話をしているうちに生気が無くなってきてるようだ。一体何が彼らをそんなにするのかは、あたいには到底わかりっこないがね。


「そりゃそうだよ……全部あんたのせいなんだから」

「なんか言ったかい、そこの店主?」

「いや、何も言ってねえ。こいつが言ったんだ」

「え、俺っすか?! 俺に責任を負わせるんすか?!」

「いいや、責任を負うのはあんたら二人さ。連帯責任というやつだね。さあさあ、あたいのために焼き鳥を焼きなッ! あたいが満足するまで、店は閉めさせないからな!」

「んな無茶な!」

「そりゃ酷いっすよ! 店長、あんたのせいっす! 俺は逃げるっすよ!」

「て、てめえ待て! 逃げるな! 俺を置いてくな!」

「いいや、二人とも逃しゃしないよ! さあここで焼き鳥を焼くんだ、いいね!」


とまあ、深夜の焼き鳥屋でこんな大騒動が起こったというわけさ。あたいは、なかなかに楽しませてもらったけれどね。ただ、店長とそのバイトは、どうやら今日はグロッキーらしい。口がパクパクと開いて、そこから魂が出て行きそうだ。

だがまあ、たまにはこういうのも良いだろうさ。こうして、また、遊びに来たいもんだわね。


「二度と来て欲しくねぇ……」

「っすね……」


とかいうぼやきは、あたいの耳には届かずじまいさ。

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