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焼鳥屋の店事情   作者: 一齣其日
第1シーズン
13/24

答えなんて

その人が酔い混じりに語った話はどこかやるせないものがあった。


その人は警察官だった。とても真面目で、優秀だった。

ある時、娘が行方不明になったからと、捜索願がだされた。その娘の両親のあまりの必死さに、その人も心を打たれて躍起になって探したらしい。

だがいつまで経っても娘は見つからない。一切の情報も入ってこなかったという。流石のその人もこれには閉口した。

動かせる警官を総動員して探してみても、一向に見つからない。両親にも心当たりはないかと聞いてみたが、さっぱりだったそうだ。

「日が経つにつれ、恨めしそうにこちらを見る両親の目が本当に痛かった」

溜息をついて、自嘲気味に彼は笑った。

しかし、事は案外簡単に決着がついてしまった。

娘の姿を偶然別の警官が見つけたというんだ。

それでそこらへん一帯をくまなく探してみたら、友達の家にいるところを保護されたらしい。

一つおかしかったといえば、保護される時に嫌だという言葉を連呼していたことらしい。

その時何が嫌なのか、その人は理解できずにいた。その意味がわかったのは、ちょうど一年後、その子が自殺した時だったという。



「あの子は虐待から逃げるために家出をしていたんだ。それに気づかず、俺はあの子を見つけてしまった……、話をしっかりと聞かなかった……! そして死なせてしまった……」

歯軋りがこちらにまで届いた。

情報が入らなかったのも、その匿った友達が誰にも言うなと裏で手を回していたかららしい、とその人は続けた。

「やるせねえよ、本当に」

ヤケなのだろうか、そばに置いてあった日本酒をくいっと一息飲み干す。そして泣き笑いに、畜生という言葉を繰り返した。

善意が悲劇を及ぼす、という話はよくあることだろう。でも、やはり実際にそれが現実に起こったなら、どれだけの苦しみを味わうのだろうか。

「まぁ、だいたいの事情はわかったけどよ、取り敢えずこれ食えや」

俺は先ほどから焼いておいた焼き鳥をいくつか彼の前に置いておいた。俺が出来た、せめてもの慰めだった。

けれど一向に彼は食べようとはしない。うわ言を呟いては、泣いたり笑ったりと忙しい。

それがある程度経った頃にピタッと止まった。かと思えば、赤く火照った顔を上げて俺を見上げる。涙の溜まった目が印象的だった。

「……なぁオヤジさん、あの子に罪滅ぼしをするにはどうしたらいいんだ? あんたに言うのも変だが……教えてくれよ」

その人の口元は酷く震えていた。

後手に頭を掻く。

俺の中に、彼の質問を納得させる答えなんて一切なかった。

多分、どんなことを言ってもそれは気休めにすらなりやしない。こういうやつに、安易な答えなんて言えるはずがなかった。

だから、何も言わなかった。沈黙を貫いた。酷なことだけど、その答えは自分で出すしかない。俺は身をもって知っていた。

「……酷い人だな」

その言葉とは裏腹にやはり口角は上がったままだ。

ようやく彼は俺の出した焼き鳥を食べた。だいぶ冷めてしまっていたけれど、「やっぱりあんたの焼き鳥はうめーよ」と褒めてくれながら。そして、また一杯酒を飲むと、お代をカウンターの上においた。

「悪いな、愚痴ばかり聞かせてしまってよ」

「構わねえさ。それも仕事のうちだしよ」

「へぇ、中々いい仕事してんな」

くるりと振り返って、彼は店から出て行った。その背中には、冷たいつむじが吹いていた。



その後、風の便りに彼が死んだということを聞いた。自殺だったという。

別に死のうが生きようが俺の知ったことではないが、やっぱりどうしても虚しさは残るわけで。

やはり、あの時何か言ってやるべきだったのだろうか。気休めでもいいから、何か言ってやればその人は死ななかったのだろうか。

後悔してもしょうがない。でも、どうしても言いたいことは一つある。


「そんな答えしか見つからなかったのかよ」


行き場のない感情は、どうやら積み重ねるしかないようだ。



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