怪談おじさん
短いですが お楽しみください
「なぁ、少し話を聞いてかないか?いやぁ何、捕って喰おうというわけじゃなくおじさんと少しお話をしてくれるだけでいいのさ。」
私はこの学校に通うまだ年端もいかない少女です。こんなフードを被った不審極まりないおじさんに話しかけられたら大人の人に助けを求めなきゃいけないと昔からよく聞かされています。
「おいおい、おじさんはちょこっと怪しいだけだからさ、だからそんなに警戒することはないよ。むしろ君の事をよく知らないぼくからすれば君の方が妖しいくらいさ。」
何を言っているかはわからないですけれど怖いです。ですが話を聞いてあげなければ何をされるかわかりません。
幸い?にも今すぐ何かをしてくることは無さそうですし、人が来るまで時間稼ぎが出来れば…
「多少涙目だけど話を聞いてくれる覚悟ができたよいだねじゃあ話そうか…」
「ゴホンッ!」
おじさんは急に大きく咳払いをしましたので少し驚きました、
何をお話するのでしょうか?
「これはね、ぼくが友達から聞いた話なんだけどね。この学校には実は飛び降り自殺した人のお化け『チマツリさん』が出るらしいんだよ…」
急に低く、響かないのに揺さぶられるような声でおじさんは語り始めました。お話というのは怪談のようです。
「なんでも、よく女の子に語りかけるお化けらしくてね。そいつと何の気なしに会話をしているとね…」
おじさんは言葉を切ると…
「あの世へ連れていかれちゃうんだってさぁ!!」
急にグワっと迫るようにしながら大声を出してきて私を驚かせます。おじさんがとても怖いです。
「はっはっは!驚いたな、じゃあ君がこのお化けに遭遇してもいいようにアドバイスや特徴を教えてあげよう。」
おじさんは驚いた私を見て楽しそうに笑った後、続きを語り始めます。
「そのお化けはね、なんでも最初はそんなに人とは変わらないらしいよ。だけどその人っぽい見た目に騙され楽しくお喋りしてしまい気に入られたら、いつの間にかそのお化けは全身血まみれのおっかない姿になってねぇ…」
ふと、思いましたが何故おじさんはこんな夏場に長袖のパーカーと黒の長ズボンなんて肌を隠すような服を着ているのでしょうか?…
「おーい?ちゃんと聞いてる?」
考えごとをしているのをおじさんが感じたのか話に戻されます。
「そして、そのお話をしてくるお化けの話なんだけどね、なんでも最初は…あぁ言ったなここ。
そうそう!血まみれの姿になったお化けはおしゃべりしていた時と変わらない調子でこう言ってくるらしい『大丈夫、怖くはないよ…』って。」
おしゃべりしたがりなんてまるでおじさん見たいですねと思ったとき私は見てしまった、おじさんの服の所々から血のようなものが滲んでるのを…
私が悲鳴をあげることすら出来ずに口をパクパクとしているのを気にせずおじさんは話を続けます。
「それでね、このお化けへの対処方法っていうか、アドバイスなんだけどね。
そもそも、見ず知らずの人とお話なんてしないのが
イチバンダヨネ?」
ヒイっと擦れるような悲鳴を上げ慌てておじさんから走って逃げようとします。
「うおぃ!ちょっと待ってよ『大丈夫、怖くないよ』!」
おじさんはお化けなのでしょう!私は全力で駆け出しました。
「コヒュー…コヒュー…ゼェ、ゴホッグフゥッ」
しばらくおいかけっこをしていたらおじさんはバテてしまいました。
「ゴホッゴホッ君…早いねぇ…た、体力も…」
どうやらおじさんは人のようです。
「ゴホッ…ふぅ、あーしんど。服に着いてる赤いの晩飯のオムライスのただのケチャップだから、それにほら…」
おじさんはおもむろにフードをとりました。
「ふつうに血まみれでないノーマルおじさんだろ?」
おじさんの素顔は血まみれではないけど汗まみれで余りにひどい顔でした。
「ぷっ、あははははは!くふふ、ふ、ふふ…あはははは…」
その様子がなんだか雨に打たれた子犬のようでその哀れさとおじさんとのギャップがつぼに入り私は不審者と二人きりという状況なのに爆笑してしまいます。それと安堵して恐怖から開放されたからでしょうか。
「ふー、ふー ひどい顔…ふふ…」
あまりに笑ったので涙が出てきちゃいましたよ。
月明かりに照らされた真っ赤な涙が
「えっ」
おじさんはにやりと笑い言いました。
「やぁこの学校のお化けさん。」
「いや、嘘…」
「なぁお嬢ちゃん、外を見てごらんよ。」
そこには夜の闇が広がっていました。
「なんで、私はただの中学生で…」
「こんな夜中に学校に何の御用ですかな?そんなに血まみれにまでなって。」
自分を見ると目から流れる血は止めどなく、また手、足、お腹、首もと、見える範囲の至るところから血が滴っている。
まるで高いところから落とされた水風船のように全身に破裂したようなケガがある。
「なぁ、お嬢ちゃん。ここのお化けは13~15くらいの子をよく拐うらしい。それってお嬢ちゃんと同年代でお喋りしやすい年齢だと思わないかい?自殺したことやお化けとしての記憶とかは本当に全く無いのかい?」
「そ、そんな記憶あるわけ…」
「そもそもお嬢ちゃんは何故この学校にいるんだい?」
「そんなのっ!ここの生徒だからでしょ!」
お化けのような自分を否定し人間であることにしがみつくための血を吐くような叫びも
「ここは19年前の1996年に廃校になってるよ。」
おじさんの無慈悲な一言に粉砕される。
「信じられない、私は…お化けなの?」
「そうさ、だからぼくはこれ以上誰かに迷惑をかける前にお化けの君を向かえに来たのさ。」
そういっておじさんが私の前に手をかざすと夜の学校の闇より真っ暗な穴が生まれた。
「さあ、入って。君が行くべきところだ。君の意思で入るんだ。」
そう…なの?本当に私は死んだの?
「そうさ、くわしい理由はしらないが両親の事故死やらなにやらあったらしい…まぁ、君自身の姿を見ても自分がまだ生きているなんて言えるかい?」
確かに私は死んでいるようです。ですが、受け入れられません。
「そう、だろうけどこのままなら人を呪うことになるだろう。まだ君の理性があるうちに大人しく逝ってくれないか?」
おじさんもまるで自分が死んだように悲しそうな顔で私を諭してくれます。
…その顔を見て決意を決めました。最期に私の死を悲しんでくれている人もいたし、満足すべきなのでしょう。
「ありがとう、おじさ…」
ガシリッ
腕を掴まれる、肩を、足を、引きずり込みように、貪るように、穴から延びる無数の手に引きずられ穴に飲み込まれ悲鳴を上げながら少女が消えるのを見て。
おじさんは嘲う、哄笑う、嗤う。
ひとしきり笑い終えるとおじさんはポツリと
「登場人物が死ぬ怪談を語れるのは残った怪異だけだろ。」
呟いてから学校の闇に溶けて消えた。
学校に充満していた夜の闇も日の光に追いやられ、
朝日が校舎を照らしている午前7時。
「おはよー」と辺りから声が聞こえ始める。
日常的に何ら問題のない朝のやりとりがあふれる学校である、
学校生活なんてそれこそ廃校にでもならない限り延々と続くものだろう。
朝のホームルーム、午前の数学、英語、生物と日常はその足取りを緩めることなく進行し昼休みとなる。
ある、学生の小さなグループが購買で買ったのだろう調理パンを食べながらなんでも無いおしゃべりをしていた。
「そういえば『妖怪 怪談おじさん』って知ってる?」
「なにーそれ?学校の怪談?食事中に怖い話とかやめてよ。」
「まぁまぁ、どうせダベるだけやし。」
「んじゃ、一部不評もありますが、ふしょーわたくしが語らせていただきます。」
妖しく、怪しい存在『妖怪:怪談おじさん』の話。
曰く
夕暮れ時、黄昏、誰ぞ彼の学校に現れるその妖怪は出会った人間にその場で捏造った怪談を話し、幻を見せて、嘘をついて聞き手を惑わせ自身をその怪談の中のお化けと認識させるの『きみはもう死んだんだよ』って。それでね妖怪は聞き手の本当はお化けでもなんでも無い子に君はあの世へ行くべきなのだと語りかける。
そして…
「そして?」
「いや、ここから先は諸説あってね。地獄に堕ちるとか、おじさんに喰われるとか…正当な手順を踏まずにあの世に行ったせいで不完全な状態であの世をさ迷い続けるとか…」
「ふ~ん、まぁ二流以下の小説家の書いた話みたいね。」
「う~ん、確かに微妙かな?最近聞いた『チマツリさん』ってやつの方がまだ怖いかなぁ。」
「え、何それ?私も聞いたことない!」
「これは私が…誰から聞いたかな?…まぁいっか、多分友達からかな?」
その時、少女はふと思った。色んな怪談話があるけれどそもそも怪談は何処から、いや誰から始ま…
「ほら、ちゃんと聞く!」
「あ、ごめん。」
「てか、そういや隣のクラスで行方不明になった子が…」
私たちの知ってる怪談はちゃんと人がつくった怪談なのだろうか…
昔から主役の死ぬ怪談話の発生源が気になっていたので
自分で怪異として造ってみました。