魔王と魔刀の出会い
それは伝説に語り継がれる一振りの太刀だ。
失われし古代の遺物である魔刀、手にすることなど不可能なこの世に存在しない鉱石を使った真紅の刀。
それを初めて目にした時、その男は身体の奥底から歓喜に震えた。
それは何の変哲もない夜の夢枕での幻だった。
鮮血のような暗い緋色の髪と無感情に細められた燃え上がるような真紅の瞳をした少年が男を見つめるのだ。
《俺を見つけて》
独特な金属音が混じった清涼な低い声、頭に直接響くような声に呆然としているとその少年の姿が掻き消えるようにして消失し、少年のいた場所には一振りの刀が浮いていた。
夜空に輝く星々のような光の粒と水面に波を立たせた時のような水紋が浮かぶ、真紅の刀身を持つその刀。
細く反り返っているのに軟弱さなど微塵も感じさせない、妖しく美しい刀だった。
男はその刀を見た瞬間目も心さえも奪われ、心底からそれを渇望した。
アレが欲しい。
それから男の行動は早かった。
城の書庫を漁り国立の図書館に出向いて禁書を漁り、そうして喪われた黄金時代の書物に辿り着いた。
当時鬼才として名を馳せた魔武器職人が技術の粋を尽くして完成させた最高傑作の魔刀。
喪われた古代知識の叡智が、再現不可能な製法が記されたそれは高度なんて陳腐な言葉で言い表せない先進的なものだった。
果たしてこの域に達するのは何千年先になることか、いやもっとかもしれない。
素直にそう感じるほどその書物の内容は天才と云われてきた男にも理解の及ばない代物だった。
面白い、そんなものが男を呼んでいるのだ。
男は世界のありとあらゆる秘境、魔境の奥の奥まで探し、漸くそれに辿り着いた。
妖精たちの飛び交う幻想的な森の奥、聖なる泉の中心にその刀は封印されていた。
神秘的な光景に男は目もくれずその刀を掴む。
なんの抵抗もなく引き抜くことができたその瞬間に、魔刀は霧の風に包まれてあの時の少年が目の前に現れた。
《待っていたよ、魔王》
「貴方が《断刀 神斬之紅姫》か?」
《そう呼ばれてはいるな》
あの独特な声に、その妖しくも美しい容形に、その香り立つような気品に、男……魔王ディアは酔い痴れた。
これから三百年の歳月、魔王ディアがこの世を去るまでこの最高傑作の魔刀は静かに寄り添っていたのだという。
歴史上初の伝説の魔刀を手にした魔王、ディアの名は後世にまで語り継がれ、国旗にその刀の姿が描かれている。
普段は穏やかな治世を執行う名君であったが、一度国に、友に危険が及ぶとその魔刀を振るったという。
いつも瞳を閉じて祈るように太刀を振るうその様はまるで涙を流しているようで『慈愛王』と呼ばれ、今も慰霊の前にはたくさんの花束が備えられているのだという。
今回は前回チラッと出てきた魔王との出会いの物語です。
これから二人?は国に攻めてくる馬鹿勇者に鉄鎚を下します。