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三軒の家

企画:外部企画

テーマ:おとぎ話や昔話などをもとに創作したショートストーリー。

アレンジやスピンオフ、新釈作品。


一言:三匹の子ブタが元ネタの、ショートショートに近い作品です

 あるところに、三匹の子ブタがいました。

 お母さんブタは彼ら三匹の子ブタたちを自立させるために言います。

「みんな、自分で立派なお家を建てて、自分で生活しなさい」と。

 三匹は競って、自分こそが一番いい家を建てようとがんばることにしました。


 一匹目が選んだのはは木造、日本建築でした。

 風の通りは計算されて、湿気を残さない造り。また、その通気性のよさから夏は冷房要らずです。

 何より味のある家の造りと木の暖かさが自慢でした。彼はそれをA氏という大工さんに頼みました。


 ある日、おなかをすかせたオオカミがこの家を訪れます。

「何かメシをくれ。お前がメシになれ」

 のっけから無理な注文をしてくるオオカミに子ブタは頑としてドアを開けようとはしませんでした。

 それに腹を立てたのはオオカミです。自分の理不尽は棚にあげ、子ブタの家に火を放ちます。

 最近は火に対する工夫がなされているとはいえ、木造は木造です。高性能の火炎放射器を用意したオオカミには太刀打ちできず、結局食べられてしまいました。


 二匹目が選んだのは鉄筋コンクリート、ビルなどでよく見られる四角い建物です。

 フランスで発祥した鉄の強さとコンクリートの軽さ、これをうまく張り合わせることによって効率のいい骨組みを造り、頑丈さが売りの安定感のある建物が完成しました。

 値段はややかさみましたが、一匹目の子ブタが受けたような攻撃にも耐えうる造りですので安心です。

 また、オオカミがじだんだを踏んで大地震が起きても大丈夫なように、土台は地下深くまで鉄柱が埋め込まれています。

 Bという業者はそれをややタイヘンそうな顔をして造ってくれました。


 ここにもオオカミはやってきました。

「何かメシをくれ。お前がメシになれ」

 あいかわらず理不尽を押し付けてきます。火炎放射器もじだんだも怖くない子ブタは、オオカミに向かってアカンベーをしてやりました。

 怒ったオオカミは火炎放射器を浴びせてきましたが、コンクリートの壁には効きません。子ブタは2階から大歓声を上げます。

 でも、オオカミの武器は火炎放射器だけではなかったのです。

 二匹目の子ブタの家は、高性能火薬を用いた巨大爆弾で粉々にされてしまいました。

 もちろん、子ブタはもう、オオカミのおなかの中です。


 三匹目が選んだのはC社のシェルターでした。三階層の地下構造を持つ建物で、核攻撃にも耐えられるという代物です。

 また、地中からドリルなどで進入されることがないように、特殊な合金が幾重にも張られています。さらに、地下水脈が確保できる仕組みになっていて、保存食料を蓄えておけば、なんと20年ほど中にいるまま生活することが可能というから驚きです。

 値段は三匹の中で一番高かったですが、それだけにC社のサービスはさすがによかったようです。


 もちろんこの家にもオオカミは現れました。

「何かメシをくれ。お前がメシになれ」

 すっかりおなじみになったこの言葉を、オオカミは勝ち誇ったように言います。

 もちろん三匹目の子ブタは拒みました。構造上、窓はないので、ドアの外を映し出すテレビモニタでオオカミの怖い顔を子ブタは見ています。

 オオカミは、ここまでは予定通りとばかりに爆弾を用意しました。ところが壁に傷をつけることさえできません。ミサイル屋からレンタルしたミサイルも打ち込みましたが、まったく効きません。最後は核のスイッチまで押したのに、その家はしっかりと耐えてしまいました。


 オオカミはついに、餓死をするしかありませんでした。



「……そこで、画面いっぱいにこうです。「シェルターが守るのは名誉だけではない」」

 男は会議席上の大きな窓の外、ロンドンの広大な風景を指し示して続けた。

「「あなたが残れば民族は生き続けるのだ」と……」

 たとえ他の子ブタがいなくなっても……ということだろう。誇りを大切にする貴族の国イギリスにおいて、その言葉はナショナリズムを刺激するに違いない。あえて木造、鉄筋を引き合いに出しているところも面白い洒落を効かせている。

「……という構成でいかがですか?」

 C社MD(業務執行役員)フランクは、この若手の広告担当に向けて、静かにうなずいた。

「OK、最新式のシェルターのCMに我が国古来のおとぎ話をあえて使うところがグッドだね」

 そしてプレゼンの資料をトントンと束ねて整理し立ち上がると、彼に握手を求めたのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最初、日本家屋を絶賛する方向に行くのかと思った。(笑) シェルターまで読んでも着地点は見えず、でも着地してみれば「もっとも」な感じ。
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