みずがめ座の貴方へ……
企画名:「バレンタイン☆プロジェクト」
テーマ:バレンタインと萌え
一言:切手のないおくりもの、という唄を元に広がった世界です
原形とどめてないので何かに引っかかるものではないと思います
~ みずがめ座の貴方へ この詩を届けよう ~
~ あの子のことを遠くでじっとみているだけの わたしの好きな貴方へ ~
わたしの心はそんな詩を口ずさみながら、去年と同じ場所に立っている。今年も、同じように季節はやってきて、同じように女子にとっての決戦日がやってきて……
彼は、去年よりもほんのちょっとだけ大人っぽくなった顔をわたしに向けていた。
わたしの心の詩は止まらない。
……思えば去年も、こんな寒い日だった。
~ 冬の寒い日、ふわふわの手作りチョコを胸に包んだわたしの前には貴方がいて ~
「潤也くん」
学校の放課後、部活の前のほんのひととき……
潤也くんは必ず一人でトイレに行く。必ず、一人になるときがある。
「ん?」
廊下で振り向かれて、わたしは心臓がはちきれそうになった。
もちろんわたしが呼び止めたのだから心の準備は出来てたハズなのに、特別な日にずっっと大好きだった人と目が合って、わたしがこれからやろうとしてるコト言おうとしてるコト……それを意識し始めたら、自分が今、立っているのか座っているのかさえわからないほどに視界がぐるぐる回りはじめてわけがわからなくなった。
「どしたん?」
そのさわやかさはずるい。
今日は何の日だかわかってるはず。パッピーハッピーバレンタイン……そして、キミの誕生日だよ。女の子が一人で話しかけてきたら、ムードのひとつでも作ってくんなくちゃ困る。
~ 泣きそうなわたしの瞳が貴方の瞳と交差したときに知った本当のこと ~
その時、二人の脇をぱたぱたと走って通り過ぎていく人影に、わたしははにかんで潤也くんから視線を離した。
加奈子だ。廊下で見るとなぜかいつも走ってるけど、朗らかでカラカラしてていつも湿ってるわたしとは大違い。ついでにバレンタインとかそういう行事があることをホントに知ってるのかな、と疑える程に屈託のない高校生活を送っているオコサマ。
でも無駄にちっちゃくてしぐさがいちいちかわいい。かわいがられるために生まれてきたような動物だ。
その動物がやっと走り去って見えなくなり、もう一度、10秒前に戻ろうとしたわたしだったが、その視線は彼の目を見てすぐに泳いだ。
~ その目は、わたしを飛び越えて彼女のほうを見てたよね ~
戻れないことを知ったのだ。カン?……カンじゃない。確信だ。
「で、なんだっけ?」
「あは」
わたしは、笑った。一瞬だけ。声にならずに。
目が違う。彼女を見ていた目と、わたしを見ている今の目と。
~ 泣き笑いの、とびっきりの冗談一つ。走って逃げた放課後の道化師 ~
「潤也くん。ズボン、チャック半分開いてるよ」
「え!? マジか!」
彼が注意が下を向く。おかげで目頭が熱くなっていたことがバレずにすんだ。
「ダッサ」
そしてわたしは彼をすり抜けるように走り出す。もちろん、「やば、時間!」とか言い捨てるのを忘れなかった。
悔しいから。
悔しかったから……。
悔しかったから……!!!
~ あなたのことは忘れられないまま、チョコもその日に置き去りで ~
~ 桜が咲くのも蝉が鳴くのも忘れてた ~
その日からわたしは、斜がかかったようにもやもやした高校生活を送っている。
気持ちはあの時に終わったものだと思っていた。思っていたのに忘れようと思うほど逆に彼のことが気になって仕方ない。
クラスの席順が近いと、黒板の前ですれ違うと、誰かとしゃべってる声が聞こえてくるだけで、わたしの胸は痛くなる。忘れられるんじゃないの女子って。駄目になった恋愛は。わたしはそう聞いてたけど。
誰にも言えないまま季節は過ぎていく。たまに潤也くんはいつもの乾いた目でわたしに話しかけてくる。むかつく。
~ 9月になっても、10月になっても、貴方のことが好きなまま ~
~ 冬が来ても、年が明けても、貴方のことが好きなまま ~
どうしてくれる?忘れられない理由にはひとつ、大きな原因もある。
あの人は……あの男は、筋金入りの草食系だっていうこと。
わたしがずっと遠くからあの人を見つめているように、彼もずっと加奈子を遠くで見つめたままなのだ。
だから……駄目になったということを信じてない自分が、どこかにいる。
相手を傷つけたくないとか馬鹿なの?ハッキリしない態度が別の子を傷つけてることに気づいてほしい。あきらめさせてほしい。あきらめさせてよ。
このままじゃ、わたしは前を見て走っていくことができない。
~ みずがめ座の貴方へ、もうすぐ誕生日だよね ~
……決めた。
一年間、わたしの頭の中を占拠して、ほかの事をぜんぜん考えさせてくれなかった復讐をすることにしたのだ。
わたしは、今日、去年と同じように家のキッチンでエプロンを巻いている。作ってるのはもちろんチョコだ。
~ あの子のことを遠くでじっとみているだけの貴方へ ~
~ わたしの精一杯のチョコを送ります ~
出来上がったのは誰がどう見ても大本命の「愛してますチョコ」。
その「意地悪チョコ」とわたしの気持ちを投げつけて、しばらく彼をとことん困らせてやることにしたのだ。
彼の態度がそれでハッキリするのなら……。
わたしの気持ちが、それでハッキリするのなら……。
送ろう。わたしのこの詩を。
~ この世でたった一人の わたしの好きな貴方へ ~
去年と同じ風景。でも、去年とは違う。
……決して勝てる見込みのない、わたしの高校生活最後の一年が、バレンタインから始まるのだ。