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エリクシア・イミナ・フィルガー、16歳。


前世は奧里(おくり) 伊美奈(いみな)、享年30歳。


二度と会えない自称夢見巫女な親友に「厨二病って馬鹿にしてごめんなさい。異世界転生ってありました」って言いたい元日本人でございます。


死んだあたりの記憶は何故かさっぱりありませんが、はっきりと「死んだ」という確信があるので、転生ということにしておきます。


そして、さらに言えば乙女ゲームの世界に転生したらしいです。


しかも、病んでる乙女ゲームですよ。


ヤンデレ系乙女ゲームな世界に転生したら死亡フラグに苦しむのがテンプレですが、私は王弟公爵の娘…つまりは王族に生まれたものの生存フラグを勝ち取った文字通り勝ち組なんですこれが。


普通、王族とか公爵令嬢って言ったら厄介事あると思いません?


この世界はむしろ逆なんですよ、これが。


ここはヤンデレ系乙女ゲーム「この街には君がいる」略して「街君」の舞台となるアルカディア王国。


街君は私の親友が脚本を務めた初めてのゲームで、思い出の作品です。


私の親友(男)は自分を間違って転生してしまった夢見巫女だと言って憚らず、異世界の予知をどうにかその世界に届けたいのだと声高々に宣言する変人でした。


そんな彼が小学生の頃から「王都が危ない…!事件は王宮で起きているんじゃない、下町で起きているんだ!」と言って書きなぐっていたお話を何を思ったか就職した会社でゲーム化するという暴挙に出た時は驚きました。


「より多くの人に知って貰わなければ、王都が救えないんだ…っ!誰かがアルカディア王国に転生とかトリップとかするかもしれない、その時にこれは必要なんだ!」


正直、キチガイかと思ってましたよね。


ええ。


事実とわかった今では、生暖かい目で見ていた私、土下座なさい。って思いますけど。


そんな電波な理由で作られた街君は、賛否両論集める

変な乙女ゲームと言われることになりす。


そりゃそうですよ、目的が目的なんですもん。


剣と魔法の中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界観なのに、学園も城も出てこなければ王公貴族に騎士も出てこないですし。


街君ってタイトル通りに、本気で街中…下町に近い所で恋愛をするんです。


お相手は肉屋、魚屋、八百屋、雑貨屋、鍛冶屋、葬儀屋という何とも平民らしい仕事に就いています。


一番分かりやすい、職業が出オチな肉屋のカニバ系ヤンデレ青年のルートなんかやった日には剣も魔法も出てきません。


辛うじて肉包丁が出てくるだけですよ。


徐々に狂気に目覚めてく肉屋をコントロールしつつ、彼が師事する家族同然の親方夫妻の仲を取り持つという恋愛シュミレーションという言葉の目的がわからないお話になります。


え、いや、一応恋愛はするんですけどね!


ファンタジーが出てくるのは三人だけ。


内陸部に氷魔法を使って魚を卸している魚屋と、鍛冶に魔法を使っちゃう鍛冶屋(魔法による戦いはありません、槌で戦いました。剣がログアウト状態です)、魔法を使ってその人の宗教に合わせた葬儀をしたりエバーミングをする葬儀屋。


しかも、この三人は最初からマックスで病んでます。


魚屋は監禁した挙げ句に訳のわからない妄言で殺してくるし、鍛冶屋は死に至るほどDVを加えてくる暴力男だし、葬儀屋も出オチキャラでネクロフォビアです。


前科持ちどころじゃねぇです。


リアルタイムで人殺してます。


だから、この三人の攻略では序盤に好感度を上げすぎても下げすぎても死にます。


こんなん攻略キャラにしていいのか、と思いますが隠しキャラの殺人鬼よりはマシです。


殺 人 鬼 。


出オチどころじゃありませんからね?


もうジョブが殺人鬼ですもん。


殺す気しかないじゃないですか。


この殺人鬼は正体はわからない場合もあれど、どのキャラのルートでも登場します。


その選択肢を間違うと攻略対象キャラの好感度の変動はないくせにバッドエンドになります。


選択肢間違った状態でトゥルーエンド迎えても、アフターストーリーが出ないんです。


エンディングの後に殺人鬼に殺されるから。


この殺人鬼さん、ネクロフォビアの葬儀屋の双子の兄なんですが、「死」を通してでしか感情の表現認識ができない気狂いでして。


剣と魔法のファンタジーという街恋に必要なかったのでは?とファンの首を捻らせた要素を全面に押し出して無双しやがるチート野郎なんです。


自分が与える「(したい)」を喜ぶ弟が可愛いから弟が生きてる間は目立たないようにしてるんですが、彼の目的は「王都の滅亡」。


特に意味があるのではなく、弟との成長速度の違いから膨大な魔力故に寿命がないと知ったとき「王都の滅亡」を達成したら死ぬと決めているんです。


葬儀屋が生きている今ても、弟のために自分のために、少しずつ殺人鬼として人を殺してます。


人口が増えないようにスラムや下町の女子供に妊婦から徐々に徐々に。


本当に彼が関わるルートの攻略は大変です。


特に葬儀屋ルートなんか、唯一の仲間であり家族である弟をとろうとする主人公と裏切り者の弟にガチで攻撃加えてきますから。


主人公魔法使えないのに。


殺人鬼チートなのに。


この殺人鬼を倒すにも落とすにも「愚者の涙」と呼ばれる力を失った賢者の石が必要になるけれど、それが出てくるのが序盤の葬儀屋との会話で選択肢間違うと貰えなかったりなくしたりするんです。


なくすとか、某有名RPGでアイテム預けたせいでラスボス倒せない!ってなるより悪いですよ。


葬儀屋がスラムで起きた乱闘による死者を見つけ、気紛れに葬送しようとするイベントがあります。


それなりに豪華な服を着た少女を強姦しようとしたのか、ただ拐ってきたのか。


詳しくは語られませんが、少女を含めて全員が死ぬ悲惨な現場。間違いなく衛兵を呼ぶべきなのですが、それが殺人鬼である兄の犯行と思い込んだ葬儀屋はなんのかんの理由をつけて証拠隠滅したがるのです。


それを知らないながら、主人公は一回止めて、口論にわざと負け、葬送の仕方を火葬と選択しなければなりません。


そうしないと、愚者の涙(必須アイテム)は手に入らないのです。


はい、クソゲーですよね。


国宝級ですよ、愚者の涙。


魔力さえ込め直したら賢者の石に戻りますからね。


なんでスラムに落ちちゃうんですか。


どうせ奴隷解放反政府を謳いながら強奪行為を繰り返す「義勇の藍」の残党でもいたんでしょうけど。


あいつら、金を持ってるところには何処でも押し入りますからね。きっと何処かで愚者の涙をそうとは知らずに盗んだんでしょう。


そんなことゲームでは一切触れられていませんでしたが。


このイベントを筆頭に、一々プレイヤーをいらっとさせる好感度の絡まない選択肢、綱渡りってかトイレットペーパーを渡る勢いの好感度調整を勝ち抜いた者にしかトゥルーエンドは訪れないのです。


まあ、殺人鬼ルートはどう足掻いてもメリバですけどね!


愚者の涙を賢者の石に戻して色々いじくり回して半分不死になった主人公を殺人鬼が殺し続けて行くのがトゥルーエンドですよ。


もう意味がわかりませんよね。


「ナナシー(主人公のデフォルトネーム)、病めるときも健やかなるときも、貴女を永遠に殺し続けると誓います」ってなんなんですか。


ファンの間じゃ、殺人鬼ルートの主人公は生け贄救世主ルートって言われてましたよ!


殺人鬼の殺人衝動を一身に受けて王都を滅亡から守りますから。


こんな殺人鬼が堂々と街を闊歩してるとか、この国はもう終わりでしょう。


幼い頃にこの世界が街恋の世界だと気付いた時には一瞬嘆いてしまいましたが、死亡フラグを回避するのは意外と簡単でした。


だって、私は主人公じゃないですもん。


主人公じゃないどころか背景にも出ないモブ、最早いない存在です。


王都の滅亡にもヤンデレにも関わる必要ないんです。


だからですかね、国外に出ていくのはあっさり決まります。


公爵家では、私は二女。兄がおり、姉もいます。


兄は家柄と国にしか興味がない変態で今日も元気に宰相補佐として城で好き勝手にやってますし、父は引き込もって母の菩提を弔い続ける乙女です。


母上は私が6歳の頃、革命軍を名乗り始めた下衆ども「義勇の藍」に襲われて亡くなられました。


賢王と名高かった祖父が亡くなり、警備が手薄になった一瞬の隙に、母の命も形見も何もかも奪われてしまったそうです。


母が実家の辺境伯領地から持ってきたものも、王家縁の宝物も根刮ぎ。


命も含め、被害は途方もないものでした。


この事件を切っ掛けに「義勇の藍」の掃討作戦が行われ、今では殆ど力はなくなりましたが失ったものはあまりにも大き過ぎました。


その際に居合わせた姉は大怪我を負い、両の足が動きません。父上に似た美貌は一切損なわれていませんけれど、元から頭も性格もよろしくないお方でしたので随分なハンデを背負ってしまったことになります。


舞踏会に出られない、出ても踊れないというのは貴族にとってかなりの痛手になるのです。


そんな姉でも侯爵家の嫡男に見初められて無事に婚約者をゲットし、今はもう嫁いでおられますが。


ですから、同盟を結ぶ隣国の王子からの縁組みは私に回ってきました。これが決まったのは私が8歳の時。国外脱出が知らぬ間に確定してました。


これにはアルカディア王国という魔力の多い王族に

生まれながら私にはあまり魔力がないのも好影響でした。


他国では十分貴重な魔力量ですが、国外に出して惜しくなるほどではなかったのです。


そう考えれば、怪我があっても頭がよろしくても姉は隣国に嫁げなかったのでしょうね。


そう言った沢山の幸運が重なり、国外逃亡権をゲットいたしました私はガッツリ生存フラグを奇跡的な確率です。


隣国王子とは仲の良いご友人を勤めさせていただき、結婚後もビジネスライクな関係を築いていけそうなので順風満帆。




だから、すっかり忘れてました。


うちの姉、ほんっっとうに馬鹿だって。


そう言えば、沢山伏線ありましたね、ははは。


私、生存フラグを勝ち取ったと思ったら、死亡フラグでしたという事で絶賛死にかけています。




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