おまけ短編 - 忍草 終
華奈はだんだんと暗くなっていく天井を眺めながら、身動きできずにいた。
上にのしかかる大斗の重さで息苦しかったが、どけて欲しいとは思わない。ただ、自分の鼓動が相手に伝わってしまうのと、緊張で体がこわばっているのを知られてしまうのが少し嫌だったが……。
しかし、日が完全に暮れ、辺りが闇に包まれてくるとともに、冷静さを取り戻すと恥ずかしさが大きくなった。
「大斗、そろそろ離れてくれない?」
いつもよりやさしい口調でそう頼む。
「何で?」
大斗の口調はいつもの軽さだったが、かすかにかすれているようだ。無理にいつも通りの声を出そうとしているのだろうか。そう思うとさらにどけるようにせがむのは気がひけた。
「その……」
華奈が言葉を濁したところで、かすかに足音が聞こえた。
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
その瞬間、華奈の羞恥心は限界を迎えた。
「どきなさい、九鬼大斗」
とっさにいつもの口調になって、大斗を押しのける。彼が重傷人であることも忘れて。
傷に障ったのだろう、わずかに顔をしかめた大斗を見て、華奈ははっとした。
「ごめんなさ……」
ひるんで謝った瞬間、唇に何かが触れた。
「ちょ……」
慌てて顔をそむけたが、あごをつかまれて再び仰向けられる。
「どうせ絡柳だろう? 見せつけてやればいいよ」
そう華奈を見下ろした大斗の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「やめなさ――。さっきまでの弱気は――」
「弱気? 何言ってんの? 俺が弱気になるわけないだろう?」
あまりにいつも通り過ぎて、先ほどまでの大斗の様子が全て芝居だったのではないかと思えてくる。
「与羽ちゃんは――?」
「与羽も好きだよ」
脈絡のない華奈の問いに、しれっと答える大斗。
その答えを聞いた瞬間、鼻の奥がツンと痛んだ。しかし、表情には出さない。
「でも――」
大斗は続けた。
「与羽は俺の弟子だからね。師として、与羽に負けるわけにはいかないんだ。師は弟子より強くなくちゃ駄目でしょ? その点、華奈は対等だ。強くなってよ。俺と同じくらい。いや、俺よりも強く、ね。強い奴は好きだよ。強ければ強いほど好きだ」
聞きなれた台詞とともに、大斗が殺気をにじませる。試されているような気がして、華奈はその瞳をひるむことなく睨み据えた。
その瞬間、大斗が笑みを浮かべた。とてもやさしく、穏やかな。硬い氷がゆっくり融けだすような笑みだった。
「強くて、かっこよくて、美人で――。ホント、大好きだな……」
「九鬼だ――」
「苗字付きで呼ぶのはやめろって言っただろう?」
やさしい笑みを浮かべたまま低く言われると同時に、再び唇をふさがれる。今度は顔をそむけられないように押さえつけられ、もがいても放してもらえなかった。
新しい包帯と軽食を持って来た絡柳が、「お前のそういうところ、どうかと思うぞ」とため息をついたのは言うまでもない。
恋愛ものを書くのって、ものすごく恥ずかしいんですよね……。
さらりと書くとなんか雰囲気が伝わらなくて嫌ですし、だからって濃厚に書くと――。
いやあぁぁぁぁぁ!!
超恥ずかしいです。書いているこっちがどのキャラよりも赤面。
大斗とかすぐに官能小説一歩手前のアブナイ空気を出してくれちゃいますから、どう制御しようかと……。華奈さんは相変わらずのツンデレで素直じゃないですし。
「与羽ってツンデレキャラだよなぁ」と思いながら書いていますが、どう考えても華奈の方がツンデレです。ツンツン度半端ないですけど。
『龍神の詩』は一応「戦国和風の"恋愛"ファンタジー」とジャンルを決めているので、これからもちょくちょく恋愛ものを入れていきたいですね。
この辺かこの先もうちょっと行ったあたりが、「龍神の詩」シリーズの折り返し地点になると思いますので、そろそろ本格的にいっちゃいましょう!
……月玻の羞恥心がもてばですが。
ちなみに、タイトルの「忍草」は、「しのぶ」ってかさねの色目が由来です。薄萌黄の表に蘇芳の裏。華奈さんのイメージカラーが萌黄で、大斗が紫(どっちかと言うと赤紫?)なのでまぁそれに合わせて。
和歌とかで「しのぶ」って言えば、「しのぶ恋」とか少し切な系で、なんかよさそうじゃないですか。素直になりきれずに秘めてる感じとか。
ではでは、最後までお付き合いありがとうございました!
2011/11/13
2014/8/20
最終更新日2016/9/25




