おまけ短編 - 忍草 二
「な、何よこのあざ」
それを見るともなく見ながら、華奈は思わず声を上げた。
大斗の背中にはいたるところに真新しいあざがあった。それ以外にも、切り傷や擦り傷、打撲で体中どこを見てもけががある状態だ。何針も縫われたま新しい傷もある。
「中州川の流れに耐えるのは、さすがの大斗でもきつかったらしい。川底の岩や木の破片、いろいろなものが流されて容赦なく当たってくるだろうからな。右肩は脱臼していたし、体中ボロボロだ。
あなたを運んで、無事を確認した後無理やり寝かしつけたが、未だに目覚めない。だが、まぁ、大斗のことだ。命に別状はないだろう」
華奈は唇を強く噛みしめた。その顔は怒っているようにも見えるし、悲しんでいるようにも見える。
絡柳はそれを意図的に見ないようにしながら、てきぱきときれいな水で傷口を清め、薬を塗り込み、包帯を巻きなおした。華奈に手伝うよう頼んだにもかかわらず、ほとんどすべての作業を自分でやっている。
その方が早そうだったので、華奈も絡柳に指示されたこと以外は何もしなかった。ただ次々に手当てされていく傷と未だ目覚めない大斗の顔を見比べるだけ。
「大斗は、あまり他人に関心を示さないが、気に入った人はとことん大事にする奴だ」
「からかうだけよ」
不意に絡柳の口からもれた言葉に、華奈は応えた。いつもふざけた口調で甘い言葉を吐いてくる奴。
「それでも本当に嫌がることはしないし、守られてるんじゃないのか? 俺だってこいつの俺様ぶりにはかなり手を焼かされているが、本当に大変なときは助けになってくれる。さりげなく、大斗らしいやり方でな」
「二股かける男は信頼できないわ」
「…………」
吐き捨てるように言う華奈に、絡柳は片眉をあげて肩をすくめて見せた。
ムスッとして大斗を見つめる華奈に、絡柳のその様子は見えていない。
「大斗の与羽に対する態度は、確かに度が過ぎていると感じる時もあるが……」
そう言って、言葉を探すように短い前髪をかきむしる。
「なんか違うんだよな。与羽に対するときと華奈さんに対するときは。大斗もわざわざ辰海君に宣戦布告をするつもりはないだろうし。いや、大斗なら辰海君の本気を引き出すためにやりかねないか……?」
ぼそぼそと独り言のようにつぶやいたあと、絡柳はパンと手を叩いた。
「まぁ、どちらにしても、大斗は意外とまっすぐな奴だと思っている」
「そんなこと――」
――あたしだって知ってるわ。
そう言いかけて、華奈は口を閉じた。
絡柳が呆れたようにため息をつく。
「どっちもどっちだ」
誰にも聞こえないように、そう漏らす。どちらも素直に自分の気持ちを表現できずに、ひねくれている。
自分の本心を隠してしまう与羽よりは分かりやすいが、見ていてもどかしい。




