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龍神の詩5 - 七色の羽根  作者: 白楠 月玻
八章 黒の旗
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八章十節 - 篠突雨と龍姫の逆鱗

「……雷乱(らいらん)はこんなことじゃ死なない」


 与羽(よう)は感情のこもらない声で言った。


「分かってる」


 これは嵐の前の静けさだ。辰海(たつみ)は与羽をできるだけ刺激しないようにやさしく応えた。


「絶対帰ってくる」


「うん」


「あいつは何十年でも私に仕えるって言った」


「うん、だから帰ろう。雷乱が帰って来た時、ちゃんと迎えられるように」


「ここで待つ」


 しかし与羽は、あいかわらず感情の欠如した声で淡々と言う。


「与羽っ」


「帰ってくるんでしょ? ならここで待ったっていいじゃん」


 与羽の声に再び怒気がこもりはじめた。これ以上は逆鱗(げきりん)に触れてしまう。


「戻ろう?」


 そう分かっていながらも、辰海は引き下がれなかった。


「何で戻る必要があるの!? 帰ってくるなら待てば――」


 その瞬間与羽の言葉が不自然に途切れた。それだけでなく、与羽の体全体から力が抜ける。

 その背後には硬くこぶしを握りしめた大斗(だいと)が立っていた。与羽は彼に殴られて気を失ったらしい。


九鬼(くき)先輩!」


 辰海は大斗を見上げた。

 彼は左手を固く握りしめ、右腕にはぐったりした華奈(かな)を抱えていた。彼女の顔は青白く、大斗も華奈も全身ずぶぬれだ。


「こうでもしないと与羽は止まらない」


 辰海が華奈のことを聞く前に、大斗は冷たい声で言った。

 そして、辰海が何か言う前に背を向ける。


「ここには与羽に見せたくないものがたくさんあるしね」


 その間に乱舞が素早く割り込んだ。わざとらしさを隠せない笑みを浮かべて。

 辰海は何も訊けずに、軽くあごを引くようにしてうなずいた。


「悪いけど与羽を城に連れて戻ってくれる? あと、城下町の華金兵の数と城に運ばれたけが人の様子を見て、可能なだけ医務班をこっちへ――」


「わかり……、ました」


 辰海はぐったりした与羽を抱えて、ゆっくりと立ち上がった。

 中州川のたてる轟音と、まだ平野部から響く剣戟(けんげき)を聞きながら――。

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